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今考えてること - 街と人の間の見えない壁を壊す

仕事柄、「良い街とはどんな街ですか?」と聞かれることがある。

「愛着ある人が多い街」と答えるようにしている。

街のミニマムの構成要素である住宅を考えると分かりやすい。

住んでいる人が手間をかければかけるほど豊かな住空間になるし、長持ちもする。

人が住まなくなった家があっという間に朽ちていくのを考えると、手間をかけられるかどうかが重要になる。

そして、しっかり手間をかけ続けた住宅は、次に使いたいという人も現れる。

これは街でも同じで、住民に愛着があり、手間をかける価値がある街かどうかが、良い(状態が続く)街かどうかの条件なんだと考えている。

人の移動の少なかった頃の村などでは、そんなことを考えなくても良かったんだと思う。

村を維持していくためには住民同士が力を合わせないといけなかったため、愛着というより、地縁に縛られた「当たり前の役割」として手間をかけざるを得なかった。

問題は、国全体の「人口減少」と、地縁を前提とせずにできてきた「都市」という存在である。

都市は、その特性として、地縁に関係なく
人々が職場への通勤、子育ての都合などにより住む場所を選択した人達が集住してできている。

また、都市が生活の場として成り立っているのは、貨幣経済の恩恵である。我々はお金さえ払えば日常生活や人生に必要なものは全て、サービスを購入して手に入れることができる。

極端に言えば、街に愛着を持たなくても(基本的には)何の不自由なく生活できるのが「都市」であり、手間をかけるか否かは個人の自由とも言える。

実は、街を維持するにはとてもお金がかかる。公共的な施設の維持管理、地域交通、防災・防犯や美化活動などが挙げられる。

それらを自治体や地縁団体である町内会・自治会が役割分担して支えてきている。収入源は前者は住民税、後者は自治会費などである。

細かくは触れないが、行政は(一部を除き)収入が減り、支出が増加していくことは明らかになっている。

そうすると行政が頼りにしたくなるのは、町内会や自治会などの、言わば、自助であり共助だ。

一方で、町内会、自治会も、程度の差こそあれ日本中どこの地域も同じように高齢化、担い手不足、低い加入率という解決の目処さえたっていない共通課題を抱えている。

これはかなり深刻な問題であり、日本中のほぼ全ての街が、維持していくことが難しくなることが明らかになっている。

もちろん、そんなことは政府だって分かっている。しかし、分かっているが解決策がない、というのが実態だ。

冒頭の「良い街」の話に戻る。

その条件が「街に愛着がある人が多いこと」と述べたが、実はそれは最低条件であり、ここに大きな課題が潜んでいる。

それは、その愛情を行動に移さないと、街は維持されていかないが、「行動に移す」というのがとても難しいという点だ。

少し抽象的な表現をすると、「住民」と「街」の間にはとても大きな壁がある。しかしその壁を乗り越えるのは今の社会の仕組みでは困難だ。


ここ数年で、街づくりの世界でもデジタルテクノロジーの活用に注目が集まっている。

毎日タイムライン上にはいろいろな横文字も飛び交い、関連したイベントもひっきりなしだ。

私は、現代の街づくりの(デジタルテクノロジーなどを活用して解決すべき)最大の課題は、「地域共助」であり「地域自治」だと考えている。

「街づくりの民主化」と言ってもよい。

街と住民の間の見えない壁を壊す。
そして誰もが街をより良くする行動を気軽に起こせる。そんな社会を作っていきたい。

20年くらい街づくりに関わってきた経験からの自分なりの答えであり、これからの人生で取り組んでいきたいテーマだ。

※2019年10月 Ecological Memesの第七弾『これからの都市デザイン〜人間・環境・テクノロジーの関係から考える』

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