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ヒマラヤ・アウェアネス・アーカイブズ特集:”カシミール紛争”

2016/10/21

私が代表を務めるNPO法人ヒマラヤ・アーカイブ・ジャパンの「ヒマラヤ・アウェアネス・アーカイブズ2016年秋号」の特集として、ヒマラヤ地域北西部に位置するカシミール地方(最高級毛織物カシミアの語源の地)を巡る大国(インド・パキスタン・中国)の争い、“カシミール紛争”を取り上げました。

日本では余り知られていませんが、この紛争は1947年に始まり、約70年にも及ぶ世界で最も長期にわたるものなのです。今年に入り、カシミールの地元民とインド治安部隊との衝突が再激化。また、インド軍の基地が武装勢力に襲撃され、その事件を巡り核保有国のインドとパキスタンとの関係が悪化しています。改めて、この機に、忘れられがちな最も長い年月に及ぶこの紛争を考えてみたいと思います。

大学時代、私はインド・パキスタンを一人旅した際、パキスタン側のカシミールを訪れました。パキスタン北部の都市ラワールピンディーから地元の乗り合いバスでヒマラヤ山中のギルギットへ向けて出発。険しい山中に造られたガタガタの隘路を、リクライニング機能などないローカルバスはゆっくりと進んでいきます。地元の厳つい男衆に挟まれて窮屈に座っている私の体は絶えず上下左右にピョンピョンと飛び跳ね、背中とお尻の痛みが拷問にかけられたかの如く増していきました・・・走り始めて10時間以上、月光に高き山々のシルエットが不気味に浮かんでいます。疲労困憊で意識が遠ざかり始めた頃、バスが突然止まりました。「こんな山中でトイレ休憩か?」いや、様子が違います。車外には大きなテントが・・・すると、軍人と思しき迷彩服を着た男が車内に入ってきて、テントに向かうように促されました。中に入ると、別の軍人からパスポート提示の要求があり、ピンときました。「そうか、ここは身分確認のための軍の検問所なのか」。 長年の紛争地、カシミールに入ったことを思いしらされた一件でした。さて、カシミールは噂に違わぬ素晴らしい所でした。 荒々しく天空へと屹立する岩峰群、朝日に激しく燃え上がる世界第9位の高峰ナンガパルパットの雄姿等、素晴らしい風景を満喫しました。

このような豊かな自然と文化とを有する美しき地が長期にわたる紛争地であるという悲しき現実。宗教的な差異等を超えて、インドとパキスタンとの融和が促進することを願ってやみません。最後に、カシミール地方の人々に世代を超えて深く信仰されているスーフィズの偉大なる詩人ルーミーの詩の一編をご紹介します:

「ただひとつの息」

私はキリスト教徒ではない
ユダヤ教徒ではない
イスラム教徒でもない

私はヒンズー教徒ではない
スーフィーではない
禅の修行者ではない
どんな宗教にもどんな文化にも属していない
東から来たのではない 西から来たものではない
海や大地から生まれたものではない 天界から来たものではない
何かの要素からできているものでもない

この世やあの世に存在するものではない
アダムとイブのような太古の物語と関係はない
いいえ わたしは何者でもない

居場所は定まらない
跡を残すことはない
いいえ わたしは身体でもない魂でもない

わたしは
愛している
あの人のなかにいます

ふたつにみえて世界はひとつ
そのはじまりもその終わりもその外側もその内側もただひとつにつながる
そのひとつの息が人間の息(いのち)を吹きこんでいます

ルーミー

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