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チョモランマ ー“母なる女神”(3)

2007/08/14

(『チョモランマ ー“母なる女神”(2)』より続き)

詳しく言うと、この「惨劇」が起こったのは、チョモランマのとなりの8千メートル峰 ・チョーオユー(8201m)のABC(アドバンスド ベースキャンプ)付近。現場に居合わせたイギリス人登山ガイドによれば、60名以上クライマーがこの一連の出来事を目撃していたという。実際、狙撃の瞬間の映像を撮影したルーマニア人クライマーを初め、多くの欧米人この非人道的な行為を公に告発している。彼らは、ヒマラヤの「震え」を感じ取りアクションを起こしたのだ。

一方、日本人クライマー(或は、山岳組織)はどうだろう。一向に声があがってこない。現場に居合わせなかったのか?考えられない。チョーオユーはヒマラヤの八千メートル峰の中で比較的登り易い部類に入り人気が高い。しかも、天候の安定する「ポストモンスーン期」だ。日本人たちが居ないと考える方が無理がある。

では、彼らは何故黙りを決め込んでいるのか。明らかな理由の一つは、その「惨劇」が「チベット問題」に関わっているからだろう。

繰り返すまでもなく、中国政府は「チベット問題」に非常にナーバスになっている。ダライ・ラマが外国訪問を予定する度に、その国々に圧力をかけ訪問を中止させようとする執拗な行為もその現れの一つ。当然、「チベット問題」に言及する組織・個人に対しても制裁を加えようとする。以前、日本のある新聞社がその問題に関する記事を出したため中国政府の逆鱗に触れ、北京の支局を封鎖され記者は国外退去処分となっている。

つまり、登山家(冒険家・探検家)も「チベット問題」に触れれば、同じ目に遭う可能性が高いのだ。つまり、登山(或は入国)許可が下りない。彼らはそのことを懸念しているのだろう。もしかすると、「チベット問題」を知らないのか? あり得ない。あらゆる情報が容易に検索できリンクしてゆく“インターネット時代”だ。「チベット」、「ヒマラヤ」のキーワードを入力すれば、「チベット問題」や「チベット難民」などの文字が直ぐさま目に飛び込んでくる。試しに、”Google”や”Yahoo”で検索をしてみて下さい。

とすると、意図的に無視しているのか? 残念ながら、その可能性は高い。「チベット問題」は既におよそ50年に渡る問題だが、(著名な)日本人登山家(冒険家・探検家)がその問題に言及したという話を私はこれまで一度も耳にしたことが無い。

真にヒマラヤ、チベットを愛しているのであれば、その大地、及び人々が不当に傷つけられている現実(=「チベット問題」)を看過出来るはずが無いし、してはならない。私はそう思う。

私も登山愛好家の端くれでヒマラヤ・チベットを愛している。だから、“母なる女神”・チョモランマには是非登りたい。だが、今ではない。「チベット問題」が解決してから、或は、解決への光明が見えてからだ。____________________________________________________

「北京オリンピッック開催の2008年に」と態々銘打ってチョモランマ登頂を目指す日本人「著名人」もいる。その方の生き様を尊敬し共感している。だが、ことその登山に関しては、大変申し訳ないが、思慮が足りなさ過ぎる。「問題意識」の浅薄さを疑わざるを得ない。

真の「冒険(探検・登山)」とは、「パイオニアスピリット(“開拓者魂”)を発揮して未知なる困難に立ち向かう行為」だと思う。

そこで御提案。

急激な経済成長を遂げる“難攻不落”な中国の「政府」という“高峰”こそ、大衆化したチョモランマを遥かに超える冒険の対象だと思うのだが、如何だろうか。 以前の記事(『ダライ・ラマ回想(6)』)の中で、「『チベット問題』の解決のために、日本の政治家に“チベットと中国の橋渡し”役を担って頂きたい」と書いた。同様の役割を著名な冒険家(登山家・探検家)にも大いに期待している。
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大学時代、ヒマラヤの氷河(クーンブ氷河)の岩の隙間でただ一人一夜を過ごすはめになった。数時間鳴り響いた雷鳴がやみ、やがて、月明かりがさしてきた。岩から這い出ると、そこには、月光に浮かび上がったヒマラヤの山々が。プモリ、ヌプッェ、そして背後には、ややシルエットがかった巨大なチョモランマ。頂上の雪煙がもの凄い勢いで虚空に舞い上がっている。その姿は、まるで、白き王冠を頂く女神の様だ。プモリ、ヌプッェはあたかも「女神」にかしずく召使い。

崇高で気高く気品ある「母なる女神」は確かに宇宙の中に鎮座していた...


これまでに、地球上の幾多もの嘆き、悲しみ、喜びを、母なる女神・チョモランマは俯瞰してきたはずだ。

そして今でも、眼下に広がるチベットの大地、チベットの人々の秘めたる“叫び”を「母なる女神」は静かに受け止めている。

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