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2020年の写真集ベスト20

 この記事を書いている途中で今年の木村伊兵衛写真賞中止という悲しいニュースが飛び込んできました。残念なのはその理由が「写真集出版や写真展の開催が例年より少なかったから」とされていることです。いやいや! 今年もたくさんいい写真集出たじゃないですか! というわけで今年刊行された写真集を10冊+10冊紹介しますよ!

1.細倉真弓『NEW SKIN』

 1位には大好きな細倉さんの『NEW SKIN』を選びました。これまでの地方ルポ的な作品から作風を変えファウンドフォトやコラージュの要素を取り入れたシニカルで画期的な写真集でした。いやーかっこいい! 2020年はTOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCHもそうですし、「サイゾー」「VOSTOK」「relax」といった雑誌でも名前をお見かけする機会が多かったです。2021年も年明けから資生堂ギャラリーで展示があります!

2.清水朝子『Finding A Pearly Light』

 清水朝子さんの初写真集『Finding A Pearly Light』には驚きました。今年最大の収穫でした。2006年から世界各地を撮ってきた写真群を解体し散文とともに再構成したあまりに完成度の高い一冊です。時間と思考の蓄積が紙面に現れているようです。清水さんのホームページに初写真集まで長い時間がかかった経緯が書いてあります。

 この本は2006年から2019年までの6作品と9つの散文を、時系列にせず、眺めていると魂が安らぐような本を作ろうとまとめました。地球という彼女の呼吸を感じた私は、やがて森羅万象や同じ星に生きた賢者の呼吸に目を向けます。本のしなり感にこだわり、美しい印刷でリラックスしながらどのページからもめくれるようにしました。
 (中略)
 この13年の流れが自然と一つに束ねられてゆき、多くの方々のご協力を得てできた初作品集、ここに上梓させていただきました。

 2021年1月から銀座の森岡書店で個展があります。興味ある方はぜひ!

3.髙橋健太郎『A RED HAT』

 もし今年木村伊兵衛写真賞が開催されていたら細倉さんや清水さんはノミネートされていたのではと思ってますが、その中で受賞したのはこれではないかなと思います。髙橋健太郎さんの『A RED HAT』は衝撃的な写真集でした。1941年旭川師範学校美術部の生徒たちが特高警察に検挙された「生活図画事件」。その当事者である生徒だった菱谷良一さん(98歳)と松本五郎さん(99歳)、そして事件を追いつづける宮田汎さん(82歳)。彼らの現在の姿と過去の資料を組み合わせて歴史に分け入る静かで力強い作品です。さまざまなメディアで取り上げられ写真界隈の外の人にも知られるようになりました。間違いなく今年を代表する一冊です。

4.兼子裕代『APPEARANCE』

 兼子さんが10年かけて日常生活の中で知り合った人に撮影を依頼し、リラックスできる場所で歌いたい歌を歌っている写真を撮影するというプロジェクトです。歌っているときの楽しそうな顔は万国共通、写真だけで音が伝わってくるようです。見てる方も楽しくなりますね。夏に開催された個展でお話することができたのも思い出深いです。「PEN」2020年9月号の写真特集でPOETIC SCAPEの柿島さんが紹介していました。

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5.稲岡亜里子『EAGLE AND RAVEN』

 アイスランドで出会った一卵性双生児の少女を9歳から16歳まで7年間にわたって毎年夏ごとに撮り続けた写真集です。彼女たちの成長や双子の共振感覚がアイスランドの空や海と共鳴しあっています。装丁も美しい傑作です。もうただただ「美」です。1ページ1ページ圧巻ですよ。

6.シャオペン・ユアン『Campaign Child』

 吉祥寺のBOOK OBSCURAで店主の黒崎さんにおすすめを聞いたらテンション高く激推しされて好きになったのがこの一冊です。コップやビニール袋など日常にありふれた素材を使いながらどことなくシュールな世界を作り出します。出てくる人物がすべて白人なのは、シャオペン・ユアンが子供服の広告の仕事を受けたとき国内にしか売らないのに白人のモデルばかりなのに違和感を抱いたから。商業的な撮影のルックで画面の外の不条理さを巧みに映し出しています。

7.古賀絵里子『BELL』

 古賀さんは浅草の老夫婦の暮らしを定点観測した『浅草善哉』、プノンペン郊外の村の少年を追った『カンボジア 世界のともだち』、自身の妊娠・出産をテーマにした『TRYADHVAN』などこれまでドキュメンタリー方面で活躍してきましたが、本作『BELL』では「安珍清姫物語」から掬い取った現代に通じる普遍的なモチーフを写真で表現するという新しいテーマに取り組みました。昔「おんな酒場放浪記」に出ていたとかいろいろあって男性ファンが多いのですが、毎回テーマもテクニックもしっかりして上手い方だな~と思っています。ニコンプラザで開かれた個展ではこんなふうに重層的に展示したり額ありと額なしを組み合わせたりと複雑な構成になっていました。

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8.マーリア・シュヴァルボヴァー『FUTURO RETRO』

 うふふ、やっぱりこれ選んじゃいますよね。「今日の写真家」という1980年以降生まれの写真家を500人取り上げるTumblrを昔やっていたのですが、そこで特に注目していたのがスロバキアの写真家マーリア・シュヴァルボヴァーでした。美しく厳格にコントロールされた画面に漂う一抹の不安感、これは只者ではないと感じました。そうこうしていると2018年の年末に『Swimming Pool』の日本版が発行され、一般書店でも大きく特集されて瞬く間に大ブームとなり、その勢いのまま今年2冊目『FUTURO RETRO』が刊行されました。見ているだけで楽しい。最高です。

9.岩根愛『A NEW RIVER』

 2018年度の木村伊兵衛写真賞を受賞した岩根愛さん。『A NEW RIVER』は東北の5箇所(三春、北上、遠野、一関、八戸)で撮影したドラマチックな桜の写真と各地の伝統芸能の舞の写真で構成されたあまりに豊かな写真集です。

 ↑私も「あしたのひかり 日本の新進作家vol.17」(東京都写真美術館)で見たときこのツイートみたいな感じになって言葉を失いました。もう表現の奥行きのレベルが違います。岩根さんはどのシリーズもほんまにすごい。

10.ヴァレリー・フィリップス『I Had a Dream You Married a Boy』

 ヴァレリー・フィリップスの名前を知っている人は少なくないと思います。クラスメイトや家族など身近な人々のポートレートを撮影しながら写真家として活動を始め、1990年代後半にいわゆる「ガーリーフォト」文脈におけるトップランナーとして世界的に有名になりました。彼女が撮ってきた被写体の中で特に印象深かったスウェーデン人のアルヴィダ・バイストロムとストックホルムを旅して新作を撮影しようと話し合ってきましたが、それがかなわなくなりオンラインのやり取りによって完成した新作がこの『I Had a Dream You Married a Boy』です。もう長いこと「ガーリーフォトの先駆者」という枕詞で語られ続けていますが時代にあわせてアップデートしており創作の勢いはまったく衰えることがありません。

+αの10冊

川内倫子『as it is』

笹久保伸『Town C Difference and Repetition』

鈴木理策『知覚の感光板』

廣田比呂子『Serquyosh ─光あふれて─』

コリエ・ショア『Paul’s Book』

サラ・ビアランド『GROUNDWORK』

ゲリー・ヨハンソン『Ehime』

村上仁一『地下鉄日記』

タイラー・ミッチェル『I Can Make You Feel Good』

田附勝『KAKERA』


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