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#1万円で始める写真史

 ヒョロワーさんがこんな企画をやっていたので、便乗してみることにしました。

 「写真史の初学者におすすめの本を1万円以内で選ぶ」ということで、次の4冊を選んでみました。

アートの入り口 [ヨーロッパ編]

 一冊目はこの本。とてもおすすめで何冊か買って友人に配って回っているほどです。「ヨーロッパ編」「アメリカ編」の2冊に分かれており、高校卒業後渡米してキュレーターとなった著者自身の経験をもとに、現代アートに関して平易な語り口で描写したエッセイ本です。

 この「ヨーロッパ編」の第2、3章にあたるわずか60ページほどが写真の章なのですが、写真の発明から現代写真(トーマス・ルフ)までを、いままで見た文章の中で最もわかりやすく簡潔に描写しています。驚くほど読みやすくあまりの鮮やかさに感動しました。まずはこの60ページを読んでみて、それからだんだん作家名などを覚えていくことをおすすめします。

カラー版 世界写真史

 2冊目は無難にこの本にしました。美術出版社が発行している「カラー版 ○○史」シリーズ、「西洋美術史」「20世紀の美術」「世界デザイン史」などは教科書的な存在として持っている人も多いのではないでしょうか。

 時代ごとの進化をおおまかに捉えて代表的な写真家の名前を覚える目的には最適です。用語解説、索引、年表も充実しており、いつでも手元に置いて参照できる1冊。図版がフルカラーで見られるのもありがたいです。でも通読するにはちょっと読みづらいかな……。

世界の写真家101

 いろいろ読みましたがやっぱりこれがおすすめ。写真の発明からアート写真の成立、戦後のさまざまな展開にいたるまで、最低限これだけは知っておきたい写真家101人が掲載されています。1人の作家につき1ページの構成でビジュアル的にとても見やすく、制作活動の背景やエピソードも充実。人に焦点をあてるだけでなく、通史的な流れは合間のコラムで補完しています。

 もう20年以上前の本なので最新の動向は載っていないのですが、写真史の入門には必要かつ十分な内容だと太鼓判を押せます。同じシリーズで「日本の写真家101」もありますがこちらは特にはいいです。

初版1997年。ちなみに新書館は現在はフィギュアスケート&バレエのムック本とBLコミックの二刀流でやっている出版社です。

写真の歴史入門 第4部

↑Amazonの値段が12,818円になっててギョッとしたけど中古なら698円から購入できます。

 新潮社の「写真の歴史入門」全4冊の第4部です。主に1970年代以降の現代写真を紹介しており、先ほどの「世界の写真家101」と時代的に補完しあう意味で選びました。この本じたいも2005年とそんなに新しくはないのですが、ロバート・メイプルソープやシンディ・シャーマンなどの重要人物を外さず、比較的よくまとまっていると思います。

 現代写真の転換点といえば多くの人はフィルムからデジタルへの変化が思い浮かぶでしょうが、実は最も大きな変化は「写真が美術館に展示されるようになったこと」です。MoMAのジョン・シャーカフスキーが1964年に「フォトグラファーズ・アイ」展を開催したことを皮切りに立て続けに画期的な展覧会を企画し、はじめて美術史と写真史が接続されるようになりました。実は写真がアートと認められるようになったのはごく最近のことなのです。

おわりに

 もっとコンテンポラリーな時代の写真史の本も何冊か出ているのですが(シャーロット・コットンの「写真は魔術」とか「現代写真論」とか)、ここではあえて挙げていません。「写真史に正史はない」とはよく言われることなのですが、美術史のように評論家が多い世界と違い、今まさに活躍している写真家のうち誰が正史に載って誰が載らないのかは非常に混沌としているところであり、それが面白くもあり難しくもあります。このあたりの問題意識はまた機会があったら書くつもりです。


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