13キロの金曜日


12月21日、金曜日。あまりに晴れすぎていたので、友人を誘って散歩に出ることにした。とにかく晴れていたため太陽に当たれるだけ当たりたく、やることもなく、荻窪から国分寺まで歩いてみることにした。距離にしておよそ13キロ。まさに13キロの金曜日といったところである。

越してきてから4ヵ月経つも住み慣れることのない荻窪駅、せっかくだしと持ってきたフィルムカメラに、購入したフィルムを挿入、ウンともスンとも動かないため電池が悪いのか?と普通より高い電池を購入、にも拘わらず依然カメラは無言のまま、何なんだよと一旦フィルムを取り出したところ、単に入れ方が悪かっただけらしくカメラはジジジと鳴き始めた。電池代返せよ。最悪の出発。朝マックのホットケーキはたいへん柔らかく優しすぎています

とにかく晴れすぎていて、空を見て時計を見るとまだ正午すら回っておらず少なくともあと5時間と少々はこの青さ明るさが持続するもの、楽しい瞬間を過ごすとき、それが終わる時間から現在までを逆算する癖がある。終わりは考えたくないのに必ず来るから考えなくてはいけない…

トヨタの販売所に、車のことなど何もわからなそうな和服のおばさんがいてかなり相槌を打っていたので笑ってしまった。相槌を打つためにトヨタへやってきたのではないか。和服をひとりで着ることは物理的に可能か?不可能に思える。これからトヨタに行くの。と宣うおばさんに和服を着付けている時 さぞ意味がわからなかっただろうなと思った。

かなり遠くの向こうまで続いている道が好きなんだけど、あまり行こうとは思わない。この感覚は、PS4なんかの新作ゲームで「広大なオープンワールド!色んな要素が盛りだくさん!楽しみ方は無限大!」という売り文句を見ると萎えてしまうのと似ている。課題をドンと積み上げられたような気分になり、悪魔城ドラキュラをやっていたい。とはいえ好きです、こういう道も、フォールアウト3も。

西荻窪を名乗るマンションに到着。ずっと青梅街道沿いを歩いていて、あの大きい道路が青梅街道沿いなのかはまったくわからないけどとりあえずそう呼んでいて、散策というより移動という感じだった。ここからは遠回りを覚悟で脇道に逸れていくことにする。東京では常にアウトサイダーでいなければいけない。それにしても自分の格好の美しくなさには毎度びっくりしてしまう。写真に手を突っ込んでめがねを握りつぶしたい。右のツルが壊れて取れて、宝石商みたいになってしまった銀縁の丸めがねは捨てずに取っておけばよかった。ロンドンで”アジア人のケチな宝石商”と呼ばれながら資金洗浄をしたい。

脇に入ると途端に分岐が増える。この辺には幼稚園や小学校があるらしく、たくさんの子供とすれ違った。大通りにはいないけど少し狭い道に入るとたくさんいるって虫みたいだなと思った。確実に遠回りをしている。この年末特有の、落ち着いた賑やかさとでもいおうものに心地よくナイロンが擦れる音、本当にずっと年末でいてほしい。

飛び出し注意のイラストが貼ってあった。車より子供のほうがでかくて笑ってしまった。飛び出しというより巨人の急な着地に見える。こういうのは運転中、視認に少し時間がかかるから逆に危ないのではないか。ここは善福寺という場所らしい。

人の家の庭の奥に、川と、その傍のベンチで読書をするおじいさんを見つけた。敢えてそういう表現を使うわけではなく、本当に純粋に口から「素敵」という言葉が出た。

おじいさんが本を読んでいたのは、善福寺公園という場所らしい。ここはちょっとすごい良かった。こんな絵に描いたような場所があるのかと思った。

ベンチに座っていると、荷物がかなり多い小学生が目の前を横切っていった。金曜日だし、終業式の帰りなのだと思う。俺もそうだった。冬休み近いから少しずつ荷物を持って帰っておけよー、という担任の言葉を無視し続けてしまう。寒さを感じない身体で、冬休みまだかな冬休み最高としか考えられないのである。東京で育つとロクな人間にならないとはいえ、ここが通学路なんて羨ましいなと思った。

善福寺公園を出て歩いていると、東京女子大学という場所を見つけた。杉並区にこんな立派な大学があったのか。マジできれいな人ばっかりとすれ違った。こんなことあるのかと思った。大学のすぐ傍にミニストップがあって、そこでバイトする男連中が、朝に必ずR-1を買うあの子が今日は肉まんを買っていた、色も白くって東北出身かしら、連絡先を知りたいぜ、ゆっくり忍び寄りたいぜ、とバックヤードで盛り上がっている様を想像して、何かいろいろ腹が立ってしまったので店先の灰皿でかなり煙草を吸ってやった。

さて、公園を後にしてしばらく歩くと吉祥寺に着きました。久しぶりに都会らしい道に出た。吉祥寺って何だかんだほとんど来た事ないなと思いながら歩いていると、白石晃二の傑作『オカルト』のワンシーンで登場した場所を見つけ、うれしくなった。良い映画なので観てください。

井の頭公園を抜け、おそらくそろそろ三鷹、こういう落ち着いた場所からも高層ビルが見えていて、東京って油断ならないなと思った。なんか凄い立派な家が多くて、こんなところに住んでたら家が一番良くて外に出なくなっちゃうからかなり貧乏でよかったな、と自分の中で解決しながら歩いた。出発した時から、何かいい喫茶店とかあったら入りたいな、と思いながら歩いていたものの、まったく無かった。そろそろ休憩したい。

武蔵境だ。レンタカーを借りに2度だけ来たことがある。レンタカーの街だ。緑の、その高いのは何だよ?武蔵境には喫煙所がまったくない。前にレンタカーを借りに来たとき、喫煙所を探してしばらく彷徨ったがひとつも見つからず、煙草が吸いたすぎてなぜかみずほ銀行で3000円おろしたのを覚えている。マジで喫煙所がない。喫茶店も探してみたけど、ドンと禁煙と貼りだされている店ばかりだった。厳しい街である。

あのガクンと凹んでいる階段、向こうから来る人が一瞬見えなくなって、またすぐに現れる感じがいいなと思った。消える前と、消えて現れた後の人間は果たして同一人物か?どこでもドアの怖い話が俺はめちゃくちゃ怖い。休める場所がまったくない。

5 と書いてある建物

休憩できる喫茶店がまったく見つからないまま東小金井駅に到着。ここに来る途中、スイーツがメインのカフェがあって、如何にも若い女性向けだからなあと思いつつも疲れたしいいか、と入ろうとしたら外壁にうんこが投げつけられていた。壁に飛散した茶色と、床に飛散した茶色。スイーツが売りのカフェの壁にうんこが投げつけられていたのである。どうやったらああなるのか色々考えてみた結果、犬の口に空気銃を突っ込んで発射すればああいうことにもなるかもしれないと思った。それくらい茶色が飛散しており、倫理が霧散していた。

コメダ珈琲を見つけたのでもうコメダ珈琲に入った。初めて入った。店員の女の子がすごく良い感じだった。コメダは高い。スーパーにたまに置いてあるコメダのシロノワールのアイス、あれ安くてメチャクチャに美味いのでかなり良いですよ。もう国分寺まで歩いて1時間程度の地点での休憩だったので、もうほとんど旅の終わりのコーヒー、結局2時間くらい居てしまった。

外に出たらすっかり暗く、かなりの満月だった。ありがとうコメダ珈琲店。

休憩にカフェインの摂取も済ませ、武蔵小金井駅に到着。初めて来た。ここは地元である北九州の行橋という駅に似ているなと思った。それ以外は特に言うこともなかった。寒くなってきた。もう着きます。

国分寺に着きました。まさかメガネスーパーが閉店している時間に着くとは思わなかった。13キロで着くはずだったのに、22キロ歩いていた。なんか国分寺駅は普通に何度も来たことあるから到着~みたいな感動はなかった。知ってる~という感じだった。

ムタヒロのまぜそばを初めて食べたがむちゃくちゃにうまかった。これが一番感動した。

楽しかったのでまたやりたい。

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