本当の上京

19歳の時に、地元が少しキモかったのと、19歳で毎朝ネクタイを締めるのがかなりキモかったので、全部やめて上京を決意、キャリーケースだけで上京するのがかっこいいと思い、でかいキャリーケースとでかいリュックで東京駅の戸を叩き、京浜東北線の車内でブツブツ独り言を発している汚くて臭いジジイが標準語、いわゆる東京弁を駆使する違和感にウケながら電車にテレビがあるのかよ、車にテレビがついてるのさえ飲み込めないというのに、東京、まあまあっすね、エモーショナルな面持ちでくるりの東京を両耳で再生、ああ東京…まあまあっすね…と降り立ったのが埼玉県だった。

一足先に、埼玉県に嘘の上京をしていた友人の家を訪ね、本当は鬼束ちひろがよく遊んでいると2ちゃんねるで聞いた中野に住もうとしていたけど、いるかもわからない鬼束ちひろの傍より確実にいる友人の傍を選んだ僕は、川口市の不動産に着地、職員である望月という男がやたらと親指を立てていた埼玉県の西川口という場所に賃貸を構え、嘘の上京を果たしたのでした。

西川口駅から22分も歩くアパートに3年半暮らし、1年目でエアコンが壊れ、19歳から22歳になり、学ぶこともたくさんあり、脳みそにある電卓のような、自分の経験値を打ち込み、あらゆる答えを導き出す機械、3×3の数字の配列をはじいたところ、細い液晶には埼玉県が嫌すぎます。と出て壊れてしまった。2018年7月。

環境に恵まれたのか、埼玉県に住んでいながらやたらと友人ができ、若い男女総勢20人の飲み会に呼ばれ、LINEで送られてきた居酒屋の名前で検索すると、「最悪の店です。サーカスぐらいうるさく、うだるように暑く、からあげを噛むと水が出ます。金額も大それている。犠牲者は私だけでいい。どうかこのお店には行かないでください。星0個でございます」といったレビューがたくさん出てきた。アー、俺は中央線沿いに引っ越したいだけなんだ、なんで地獄だとわかっている場所に行かなきゃならない、でも行ったらどうせ楽しいんだよなあ、俺ってバカだから、当日、噛むと水の出るからあげを食べながら、引っ越し資金のためにアルバイトを3つやりたいんですよねえ、といった話をしてビールを4杯、それなりにはしゃぎまくって解散。ひとり4500円ほどの会計だったが、この会計っておかしくないですか?と店員に問うとひとり3200円ほどになった。商売ってこんなんでいいんだ、と言うとウケた。

酔いが覚めないまま友人宅に着地し、ワインというのか知らないが死ぬほどまずい液体を浴びるほど飲み、引っ越し資金のためにアルバイトを3つやりたいんだよねえ、と眠りについて昼過ぎに起床、友人が俺もこのあと吉祥寺で予定あるしついでだから高円寺らへんの不動産かるく見てみようよ、とのことでOKそうこなくっちゃ、ジャンプして高円寺に着地、この友人、阿部という男は、すぐに着くというのに高円寺駅のニューデイズで発泡酒を購入、そもそも駅構内でアルコールを販売するのは如何なのか、プシュ、ゴク、うめー、夏の真昼だぜと騒ぎながら颯爽と歩き、2分で目当ての不動産に到着、入口の前でちょっと待って!と指を立て急いで酒を飲み干す姿はとてもだらしがなく、あ~東京、まあまあっすね、と楽しくなってきた。

「引っ越しといっても、僕はいま1万円しか持っていないし、そのうち4000円は人に借りてるお金だし、その、すぐに引っ越しとかそういうわけではなく、何ヵ月か先の引っ越しにあたって、そのビジョンを明確にしておきたいだけなんです。目当ての物件とか、そういう段階ではまだないんです。情報弱者が、高円寺に住むということについて知りたいだけなんです」と、きっぱり言えれば良かったけど、俺ってバカだから、あ~なんかええとこないかな思て。やっぱええでしょ、高円寺とか、阿佐ヶ谷とかねえ。東京って感じがしてねえ。いやあホンマ、晴れてて暑いすねえ。全財産が6000円だというのに、不動産の人間相手にひょうひょうとしてしまい、気づけば荻窪のアパートに内見、さらに気づけば何かしらの契約書にハンコを押していた。マジか、手取りが14万円で、肌がかなり汚いというのに、阿部、どうしよう、と横を見るといつの間にか消えていた。最初からいなかったのかもしれない。

2018年7月21日に部屋が決まり、8月11日に引っ越しが完了した。あっという間だった。引っ越しがしたい、と願ってから1ヵ月で実現してしまった。もろもろのお金については、どう計算しても、9月末には砂利に塩をかけて食べていることになり、いったんは目を背けることにした。新居の様子はかなり良く、最寄りである荻窪駅前も相当に複雑で、駅の複雑さと都会さは比例しているため、うれしかった。今日、引っ越してきた初日におっ、おそらく毎日通うであろう西友がかなりわかりやすい場所にあって助かるなあ、それにしてもバナナがやけにやすいね、と思った西友を見失いました。本当の上京をした話でした。僕と遊んでください。

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城戸

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