神は美しい太陽を使いやつれた男を変えてやりたかったが失敗した

すんごい熱い石があるんですよと言われちゃあ黙ってらんねえ。俺は働きもせず熱い石を握り続けて50年の変態だ。石が熱けりゃ熱いほど、俺の胸もグッと熱くなる。だがそれも若い頃の話だ。熱い石を握りてえ。その情熱は捨てちゃいねえが、還暦を迎えると色々わかってくることもある。石の熱さは結局、たかが知れている。真夏の太陽を浴び続けた石だって、5分ほど握り続けりゃあ俺の体温以下になっちまう。すんごい熱いのは結構だが、すぐに冷めちまうような早漏のやわけえ石は願い下げだ。握るだけ時間の無駄ってもんさ。そこんとこ、この若者はちゃんとわかった上で言ってんのかね。

泳げますかと聞いてきやがった。飲み屋でたまたま隣に座っただけの分際で失礼な野郎だ。泳げない男がいるか。俺はガキの頃に、熱い石を追い求めてバカでけえ川を渡ったこともある。足のつかねえ川を渡る動作を泳ぐと呼ぶのを知ったのだって、小学校に入ってからだ。目指すもんがあって、歩いていけねえってんなら、別の方法で進むまで。熱い石なんざ関係ねえ、男ってのはそうやって生きていくもんだ。

じゃあ、今から行きましょう。若え男は立ち上がって俺の会計まで済ませやがった。センベロとはいえありがてえ話だ。熱い石に人生ささげた身だが、乞食根性はまだまだ残ってる。ひとまずこいつの後ろについてくしかねえ。なんとなく抗えない背中をしてやがる。外に止めてあった車までの1分ちょっと、乞食根性は薄れてこいつに全てを任せてみてえ、と思うようになっちまった。

この若え男はたぶん神だ。俺みてえなハチマキを連想させるような、10代の女の毛のねえマンコを犯す役としてコマに描かれるような男は、こういうとき気がつかねえと思うだろう。こういうときってのは神が人間に姿を変えて現れるとき…おそらく何かしらの改良の余地を人間に見出したときだ。それは科学的なシステムじゃねえ、一筋縄じゃかなわねえ人間の心に、神が一滴なにかを垂らそうとしてるってわけだ。俺はそういうことはわかる。熱い石に人生ささげた身だが、現実の皮を被った非現実のセオリーってもんはばっちり押さえてある。パンもよく食う。

しばらく寝ててください、川は遠いので。神はハンドルを握りながら余裕をぶっこいてやがるが、俺は寝ねえ。これから熱い石を握るんだ。そのための睡眠というのは意味がわからねえ。熱い石を握るというのも意味がわからねえだろうが、変態は多くを語らねえ。変態は目を閉じはするが、決して寝ねえ。女を殴りながら目を閉じ、一発ごとにプーさんに蜂蜜が垂らされる様を考えるのが好きだって変態に会ったことがある。変態が目を閉じるときは、自分を変態たらしめるときだ。俺が車の助手席で目を閉じるなら、決して寝はせず、色んなことを考えてやらあ。現代の医療を知り尽くした名医である俺が江戸時代にタイムスリップし、うなぎは黄色い精液を出すんですよ、おしっこみたいですよねえ、とだけ言って現代に帰るのを想像してやらあ。何に打ち込む人生にせよ睡眠はまったくの無駄ってこった。

目が覚めるともう川に着いてやがった。こんなでけえ川は見たことがねえ。いや、でけえというより、川しかねえ。車の周りはぜんぶ川だ。どこを見渡しても川しか見えねえ。こりゃ怖えが、なんとなく見覚えのある気もする。おそらく神の何かだ。人間が懐かしさを覚える異常な光景ってのは、たいてい優しい道徳が強く存在してる。今度は現実に非現実の皮を被せてるってわけだ。そんで、すんごい熱い石ってのはどこにある?

降りましょう。神は車のドアを開けてそのまま川に沈んでいっちまった。どうすりゃいいってんだ。泳げるかどうか聞いたくせに、直立のまま沈んでいっちまうとは。俺はやめておくことにするぜ。泡もしぶきもねえインポみてえな謎の川に沈む勇気はねえ。タバコでも吸ってどうにかなるのを待とうとマッチを擦ったら、なんと煙が下に向かって進んでいきやがる。もう承知だろうが、俺はすぐに事に気づく。ここは空だ。デジャヴも説明がつく。どういう理屈か、いま望遠鏡で上を見てみりゃあ間抜けどものつむじが見えることだろう。まあ、ここが空だとわかったとこで特にどうということはねえ、俺は脳内でオカマの頭に銃をあてスープを作らせることにした。外に出りゃあ空のさらに上に落ちていくことになりどうにも気が進まねえ。この俺に、フォークソングのトゥルルみてえな気分はいらねえんだよ。

熱い石はいいのか?神が直立のまま上昇してきて少しキモかったが、俺はいらねえと言ってやった。熱い石は地上にいくらでもあらあ、人間捨てる気はねえよ。おめえはたぶん太陽なんかに連れてく気だろ。そりゃあ熱い石がゴロゴロあるだろうがそういうことじゃねえ。貧困な発想ってやつだぜ。この車もだせえ。四人乗りってのがいまいち理に適ってねえ。夜が明けると俺は太陽に焼かれちまう。ここはまだ地球だぜ。地球の道徳にのっとって早いとこ俺をセンベロに戻すこったな。お前は何もわかっちゃいねえよ。

神は俺を地上に送り届けた瞬間、溶けてくさい水になっちまった。俺はこれからも熱い石を探し、握り続ける。もう夏が来た。欲しいものの手に入れ方ってやつを、俺が太陽に教えてやらあ。

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