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スクリッティ・ポリッティのスウィーテスト・ガール:知的な甘さ

音楽人生が100倍豊かになる80年代の100曲 <その11>

Scritti Politti  "The Sweetest Girl"(1981) 

スクリッティ・ポリッティ(Scritti Politti)の「スウィーテスト・ガール(The Sweetest Girl)」は、私が生涯で1〜2番を競う名曲だと思ってるバラードです。

クールな音の中に、美しいとしか言いようのないメロディ。グリーン・ガートサイド(Green Gartside)の澄んだ天使のような歌声。

どこをとっても最高です。

スクリッティ・ポリッティがブレイクしたのは2枚目のアルバム「キューピッド&サイケ85(Cupid & Psyche 85)」。「ウッド・ビーズ(Wood Beez)」とか超最先端のダンスサウンドでフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド(Frankie Goes To Hollywood)より知的だし、めちゃかっこいいんですが、私はスウィーテスト・ガールが収録されているファーストアルバムの方が好きなんです。

元々バンド名がイタリア語で「政治的な文書」なんてちょいひねくれ系のネーミングなんですけど、ファーストにはフランスの哲学者の「ジャック・デリダ(Jacques Derrida)」とか「エルサレムの精神病院(Asylums In Jerusalem)」なんて名前の曲が並んでいる実にクールなアルバムなんです。

当時はニューアカと言われる浅田彰の「逃走論」とか、中沢新一の「チベットのモーツァルト」などの小難しい本が売れてまして、ジャック・デリダという名前も知っているので「おぉ」とか思うわけです。

ニューアカの本て半分わかったようなわからないような、とにかく小難しい内容なんですけど、がんばって読むんですよ、当時は。で、うーんうーんと難しい本と格闘して疲れた頭をスクリッティ・ポリッティの音で癒やすみたいな聴き方をしていました。

80年代って、閉塞的な時代だったと思うんですけど、それゆえに「変えよう」という意識が強かった時代なんだと思います。「思考」することも「変える」ことの1手段として必要だとされていましたし。

「新しければなんでもいい」といった風潮があったんですが、これも「変える」という命題があったからだと思います。

結局「思考」することや「新しいで在り続ける」の限界を「肉体=ダンス」で打破しようとしたのが90年代で、時代が進むにつれて音楽の持つ影響力は低下していきました。

たぶんインターネットとかスマホとか「変える」ことができるものが他に生まれてきたからだと思うんですが。

そういう視点からもスクリッティ・ポリッティのファーストアルバムである「ソングス・トゥ・リメンバー(Songs to Remember)」は、極めて80年代的だなぁと思いますし、それゆえに私は大好きなんだなぁとしみじみしたりしています。


↓ファーストがSpotifyになかったので、セカンドで。


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