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DEEP IN MODULAR #モジュラーシンセ 備忘録② 東西シンセシスについて

昨年9月ごろにモジュラーシンセの深淵を軽い気持ちで覗き込んだらそのまますっかり飲み込まれてしまいました。やれやれ。

当初考えていたより分からんことが多かったんですが、分からないなりにあちこちで収集した情報を備忘録として整理し残しておこうって趣旨のnoteです。あやふやな英語力で適当に集めた情報で「ちゃんと付けばOK」「音鳴ればOK」くらいの雑な判断でやってきたので、間違いも多いかもしれません。その辺はご指摘頂けたりしたらありがたい限りです。

東海岸 vs 西海岸

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ヒップホップの話じゃありません。シンセサイザーの話です。東海岸シンセシス(East Coast Synthesis)、西海岸シンセシス(West Coast Synthesis)なんて言われています。まず最初のモジュールを構築する為には、とりあえずにしろ、ある程度の方向性を考えねばってことでこの話なんです。

モジュールをどんな構成にするかは、まさに自由なわけですが、あまりに自由過ぎると逆に何買ったらいいかわかんないじゃないですか。2000年以降ユーロラック規格の恩恵により、大昔に比べれば手の届く価格になったとは言え、1モジュール概ね1万~、高ければ5万を超える価格の物だってざらにあります。そうなるとひとまず音が出せる最低限のモジュールを厳選したうえで、少しずつ増やしていくのが現実的ではないかと思うわけです。そこで必要最低限のモジュールを絞るために、60年代シンセサイザー黎明期の東西抗争(ヒップホップみたいに物騒な話ではないです)を、軽く頭に入れておくのも悪くないのではと思ったわけです。

East Coast

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いきなりざっくり結論から言ってしまいますが、東海岸シンセシスとはMOOG(モーグ)のことです。MOOG社がニューヨークにあったから東海岸。ウィキペディア引用しちゃいましょうか。

モーグ・シンセサイザーは、電気的振動を発生、変調、制御する統合的電圧制御モジュール群と、各種コントローラーで構成される 電子楽器(シンセサイザー)の一つである。 1964年、ニューヨークで開催されたAES (Audio Engineering Society Inc.) のコンベンションで初めて公に披露された。(ウィキペディア)

この『電気的振動を発生、変調、制御する統合的電圧制御モジュール群と、各種コントローラーで構成される 電子楽器』っていうのは、基本的には東も西も一緒です。

MOOGをはじめとする東海岸式の特徴といえば、減算合成方式と呼ばれる、倍音を多く含む波形(ノコギリ波、矩形波)から、フィルターで倍音を削り取ることで音作りをするというところ。それと重要なのが鍵盤による制御。だいたい世に広く浸透している「アナログシンセ」って、ほぼこの東海岸系じゃないでしょうか。MOOG社のMinimoogをはじめ、Sequential CircuitsのProphet-5、ARPのOdyssey、KORGのMS-20等々…名だたる名機ですね。左手でフィルターぐりぐりしながら右手で鍵盤弾くスタイル。これが東海岸スタイル。上の写真はMinimoogを弾くキース・エマーソン大先生(左手はフィルターじゃなくてオシレーターのフリーケンシー触ってますが)。

West Coast

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ところ変わって西海岸、ニューヨークでMOOGシンセサイザーが産声を上げたのと時を同じくして、サンフランシスコを拠点とするBuchla社が全く別の思想でシンセサイザーを創り出しました。それはあの60年代サイケデリック・ムーブメントとも深く関わっています。Buchla社を設立したドン・ブックラさんはNASAに勤めていたエンジニアで、NASAを辞めたのち、サンフランシスコのヘイトアシュベリー辺りでアート活動なんかをしてたらしい(イエス!サマー・オブ・ラブ!)。

まぁその辺の事情はともかく、西海岸シンセシスの特徴は、オシレーターから発振された波形をウェーヴフォルダーで折りたたんで倍音成分を加えることで音色を作るところ。またLow Pass Gateと呼ばれる、フィルターとエンベロープジェレネーターが一緒になったようなモジュールを使うことで有機的でパーカッシブなサウンドを作り出すところ。さらにこちら西海岸派は、開発当初から通常の鍵盤を使うことを頑なに拒否していて(サイケデリアのアーティスト達は既存の西洋12音階から逸脱~超越したかったんでしょう、たぶん)、制御には金属製のタッチプレートによるコントロールとともに、早くから電圧コントロールによるステップシーケンサーを開発していました。

Practical choice

ゴタクはこのぐらいにして、ではどのモジュールが必要なのかという話ですね。それを東西に分けて考えてみたいと思います。

東海岸式は、VCO(オシレーター)、VCF(フィルター)、VCA(アンプ)、EG(エンベロープ・ジェネレーター)、この辺が基本になります。さらにLFO(ロー・フリーケンシー・オシレーター)とノイズジェネレーター、最終段にオーディオI/O、なんかあればだいたい揃う感じでしょうか。

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Minimoogで示すとこんな感じです。ちゃんとMinimoogっぽくしようと思うと、VCOが3基(内1基はLFOに使用)、でMIXERを用意してオシレーターの音やノイズを重ねてフィルターをかけるって感じになります。独断と偏見に満ちた感じかもしれませんが、ほんのり先も見越して下のような感じを選んでみました。これで$1,420です。なかなかですねぇ。よく見て頂くと前回の記事で紹介した私が最初に入手した3モジュールが含まれています。これにCV/GATEの付いたMIDIキーボードを繋げばとりあえずキース・エマーソンごっこくらいは出来るはずです(キーボードに簡易なシーケンサーが付いていればなお楽しいですね)。

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こんな感じで中古で手に入れたモジュールなんかも上手く使って構成していけば多少は節約できるわけです。ちなみにこのMODULAR Gridというサイト、非常に便利で楽しいモジュラー情報サイトです。相当な数のモジュールが登録されていて、サイト内で自由にラックを構築できます。このサイトを使っていろいろ夢想するのも楽しいです。

では西海岸式はどうなるかというと、有名なモジュラー系YouTuberのmylarmelodiesさんが紹介してたものを元にすると、VCO(オシレーター)、LPG(ロー・パス・ゲート)、ウェーブ・フォルダーEG(エンベロープ・ジェネレーター)、LFO(ロー・フリーケンシー・オシレーター)、Random(ランダム・ボルテージ・ジェネレーター)と、この辺が基本でさらにMusic Easelぽく、ステップシーケンサースプリングリバーブ、なんかを追加するといい感じなんじゃないでしょうか。

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実際にmylarmelodiesさんの動画をもとにしてモジュールを組んでみたのが下の画像のような感じです。こちらは全部で$1,632。シーケンサーやエフェクターなんかも入ってるのでちょっと割高ですが、基本モジュールだけなら東海岸式とほぼ同じような価格かと思います。

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まとめ

上記ではモジュールの種類(VCOとかVCFとか)については書きましたが、個々のメーカーや商品名については画像だけです。なぜかといえばものすごい数のメーカーがいろいろな商品を出してるので、どうしても個人の偏った感想になっちゃうなぁと思いまして(偏った感想も今後書いていきたいですけどね)。MODULAR Gridを眺めて商品名をYouTubeで検索すれば、大概、紹介動画がヒットするので音や機能を確認できます。あとはお財布と相談ですね。

今回の記事は「最初の一歩」の為の(いろいろ端折ってる割には)長い話だったんですが、もちろん東西シンセシスにこだわる必要もないし、徹底的にこだわるのもまた面白いと思います。個人的にはこれまで馴染み深い東海岸系(MOOG等)の構成より、西海岸系の方が「触ってみたい!」という興味が強くて現在はその辺を念頭に置きつつモジュールを集めています。そんなわけで今回はこの辺で。

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