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故郷と台風の季節

本日台風10号が日本に上陸した。非常に勢力が強いそうだ。先程ここ東京も強い雨が降った。

台風による床上浸水を経験したことがある。

子供の頃、福島県の浪江町で親が新築の住宅を建てる少し前、昭和的な平屋の貸家に家族4人で暮らしていた時のことだ。

東北にかけて勢力を保ったまま北上した台風は付近の高瀬川を氾濫させた。外は暗い。幼い妹は既に就寝している。警報が鳴る中、私の家族はテレビのニュースを不安げに見ていた。

玄関から雨水が侵入してきた。私も手伝って水を掻き出すが勢いは止まりそうもない。危機的状況に不安もあったが、少年だった私は非日常感にわくわくしていた。親はどういうつもりで避難しなかったのか分からない。平屋のため2階に避難することも出来ず、途方に暮れていたのか。

畳が浮いた。奇妙な浮遊感を感じて何が起きたのか分からなかった。寝室では布団の上に寝ている妹がふわふわと揺れている。どんな夢を見ていただろうか。そして家族4人は雨が降る闇の中へ歩き出した。

外は川だった。思えばよく扉が開いたものだ。子供たちは身体を親の背中に預けるしかなかった。

地元の消防団と思しき人物に案内され、何とか無事だったようだ。寝てしまったのかその後の記憶は曖昧で、次の記憶は同じ町に住む洋服店の叔父宅で生活している姿だ。

住んでいた自宅は床上60cmの浸水だったそうだ。当時好きだった絵本など、思い出のほとんどを全てを失ったが、泥だらけになった我が家を一度見に行って子供ながらに納得した。あまり悲しいと感じた記憶はない。

数年後、奇遇なことに中学校の恩師がその家に住むようになり、一度伺った事がある。すっかり綺麗になって、元我が家は息を吹き返していた。

その後、同じ浪江町の新築の家に住むようになったが、両親の離婚で再びその家にも帰ることはなくなった。また、2011年の東日本大地震では、原発の隣町であるため、降り積もる放射能物質の影響で長らく立ち入りが禁止された。よく遊びに行った同じ町の海辺のおばあちゃん家も津波で跡形もなくなった。何とか生き延びた祖母も昨年亡くなった。

住む家や故郷を何度も失ってきたが、いつか故郷と呼べるような、心の帰る場所が見つかるだろうか。


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