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全員野球論

これはチームワークで仕事をする上での実践的理論である。

でもなんのこたぁない。

やばいときはみんなで頑張ろう!と言いたいだけである。

が、これがなかなか難しい。

優秀な人材達によるチームワークが自然に出来上がっているプロジェクトなら問題ないだろう。誰も彼もいつも周囲に気を配り、誰か困っていないか、自分に手伝えることは無いかと言った視点で仕事をしているだろうから。

知りうる限りそんなチームが自然発生することは無い。絶対的にリーダーシップによる動機づけが無ければ、チーム全体が生き物のように自走することは経験上無い。

ここではシステムエンジニアとしていくつかの修羅場で実践してきた自分的リーダーシップ発揮手法を基に論じていきたい。

使えるものは全部使うのが全員野球

言葉は悪いが、使えるものは全部使う。全員野球さながら補欠選手のような立ち位置の人材がチームにいたなら彼らに絶えずタスクを振り続ける。

補欠選手にはA級選手並みの品質、スピードで仕事をする事は出来ない。しかし、ゼロを1にする事は可能だ。ヒットを飛ばす必要はない。送りバントでいいのだ。なんならキャッチャーフライでもいいし、ピッチャーゴロでもいい。とにかく動け。何かしろ。立場やスキルを考えずにやれ。

と、メンバーを鼓舞しつつ以下のタスクを振り続ける。

・一覧表作成などの単調作業
・裏付け調査としてのマニュアルや事例検索
・進捗管理資料の入力
・作業ログの回収やアップロード
・機器の起動停止作業
・パソコンのセキュリティパッチ更新
・事務申請作業

もちろん彼らの行動に感謝の念を忘れてはならない。事実、これらに費やす時間は分散され、結果的にA級選手が充分に高度な業務に集中する時間を捻出しているからだ。A級選手から単調作業や事務処理作業の時間をメンバーに奪わせると言う感覚が第一に重要だ。

そしてこの行いは、プロジェクトを進めるにあたり無数に発生する重要な作業であり、かつ物量がある。この一見つまらなさそうな作業を、千本ノックの如くメンバーがキャッチしていくことが試合の大一番に貢献する重要な作業なのだ。メンバーが足りなくなったら上司にだって作業を振っていい。私もPerlのスクリプト修正が突発的に発生した際は客の課長職に作業を依頼したし、Oracle Databaseの障害では他社のマネージャ職に調査用SQL文を依頼し解決に至った。目的達成のために使えるものは何でも使えば良い。

ピッチャーにボールを返す

タスクはやればいいと言うものではない。仕事は流すものである。誰かに渡すところまでがそのタスクだ。タスクを振った人へ、多くの場合はチームのリーダーにタスク完了を伝えるが、完了報告を乱暴に行ってはいけない。

「終わりました。」

と報告を受ける事があるが、これは実は終わったことにはならない。完了報告を返球に例えるならば、捕球の事を考えずに放り投げている暴投と同等の行為だ。

返球先(報告先)のリーダーはピッチャーだと思って良い。ピッチャーは、守備に一役買うが守備専任ではないし、無駄に肉体を稼働させる補給は後の投球に響いてしまう。下手にボールを返すと肩に響くので極力正位置で補給させるよう心掛けることが肝要だ。

つまり、タスク完了報告は、報告相手に別の負担が発生しないよう気を遣う。「終わりました。」の報告だけでは報告された相手はこう考えるだろう。

・何がいつ終わったのか。
・結果どうだったのか。
・その完了した資料はどこにあるのか、
 第三者にチェックはうけたのか。
・途中発生した不明点は解消したのか。
・新たな課題が発生したのか。
・受け取った直後の次のタスクは何になるか。
・全体への周知展開は自身でできるのか、
 またはリーダーや他者が巻き取ったほうがいいレベルか。
・完了した事で報告者は手が空いてしまわないか。

これらの疑問をタスクを受け取ったリーダー職は逡巡する。逡巡する事で脳のメモリから情報を引き出すが、報告受領時は異なる業務を行っているだろうから、手を止め、思考を切り替え、必要な資料を複数開き、受け取った資料のレベル感が分からないので目を通す、という時間が発生する。この時間を如何に短縮させ負担を減らすかが、良い完了報告である。先に挙げた逡巡するであろう疑問点に先手を打ち、報告者は整理した情報を添えて提示する事を意識する。そうする事でピッチャーは綺麗に補給し、ネクストバッターとの対峙に無駄なく集中できるだろう。

外野からの送球は内野を中継する

タスクの種類によってはリーダー職への直接報告が躊躇われる類のケースがあるだろう。明らかに上述の疑問点を報告対象者に抱かせてしまう事が分かっているならば、第三者に一度相談するかチェックを依頼すれば良い。

例えるならば、単調作業等の難易度低いタスクは、外野に飛来したボールだ。あなたが豪肩の強コントロール外野手であれば問題はないが、基本的にそのボールはまず内野手に送球するべきだ。送球先がピッチャーであれ、三塁から駆け出したランナーを仕留めるホームベースであれ、精度の高い送球が必要だ。

センターラインには中堅どころの先輩社員が構えている。一度彼らを経由することで、情報の精度は増し、結果全体の負荷は分散される。しかも、中継する選手はサブリーダーとしての素養を磨くチャンスであり、彼ら自身の成長にも繋がる利点もある。指示者と報告者の1対1で業務を行う必要はない。周囲の仲間を巻き込み、仲間を頼って働くべきなのだ。

スポーツ感覚で挑む

以上が私の仕事における全員野球論である。
なんのこたぁない、当たり前のチームマネジメントなのだが、スポーツ感覚で挑むと仕事も内心楽しく思えないだろうか。特にトラブル発生時や進捗の遅れが目立つ場合には、誰かが陣頭指揮を取らねば前に進まないし、状況が改善しない事がほとんどだ。そんな辛い立場は遠慮したいと思うことが自然だが、もしあなたが指揮をとる立場ならば、笑われてもいいから同僚たちにこう声を掛けてみては如何だろうか。

「よし、全員野球だ!」



ちなみに私は今まで野球経験ゼロである。

創作意欲の支えになります!