禁煙日記

世の中には2種類の人間がいる。煙草を吸う者と、そうでない者だ。そして前者は世の役に立つことなんぞ1つもせず有害極まりない煙を吐き出すだけで、後者の足元にも遠く及ばない。四字熟語を当てるとすれば差し詰め「邪智暴虐」が相応しいだろう。「かの王」以外にこの語とコロケーションを結ぶことを許されてるのは喫煙者だけである。

これは義務教育の範囲外の知識ではあるが、良識ある読者諸君であれば難なく理解していただけるだろう。

さて。今日は何とも清々しい気分だ。山頂の空気は美味い。いや、僕はまともな登山なんて生まれてこのかたしたことが無いのだが、知識としては知っている。山頂の空気は美味しいのだ。であれば、いま僕は極上美味の空気を吸っていることになる。登頂しているわけではないが、これはまさしく「頂き」の味だ。

禁煙するのだ。

なんと偉大なことだろうか。僕は今日から非喫煙者になる。非喫煙者――それは喫煙者という台形の集合の上部に位置する三角形の内側の住人だ。つまり人種のピラミッドのまさしく「頂き」だ。山頂の空気は澄んでいて、ニコチンもタールもない世界がそこには広がっている。視界はパノラマに開け、無限の可能性が広がっている。1日に10本吸っていたとしよう。1本につき3分間を要すると仮定すれば、30分の可処分時間が浮く。ドラえもんが2本見れる。オープニングとエンディング、CMのロスを考慮すれば3本くらい見れるかもしれない。ドラえもん3本分だ。

そもそも、もう別に美味しくもなんともないのだ。完全に舌がバグっている。解像度が異常だ。常人のそれが8K画質だとするならば僕のそれはもうスーファミ以下だ。調子が良くて64のスマブラの爆発くらい。

蓋しこれは肉体が必死に捻りだした決死のSOSだ。セブンスターだろうがハイライトだろうがマルボロだろうが1000円する缶のピースだろうが、本当に何を吸っても何とも思わない。8.6秒バズーカのネタくらい何も思わない。いやむしろ明らかな嫌悪感を感じる。恥ずかしげもなく全力で8.6秒バズーカのネタのコピバンをしている大学生と接するような気分だ。ダメ―ジしかない。

賢明な読者諸君は既にお気づきであろうが、筆者はこの上なく頭脳明晰である。この上なく、だ。恐らくは来る10年後に再び改訂されるであろう広辞苑のその第八版において【頭脳明晰】の語義に、あるいはせめて例文くらいには我が名が掲載されることはまず間違いない。

であれば、岩波の顔を立てるためにもここでしっかりと禁煙を成功させてやる義務がある。なにも岩波のためだけではないが日本の人文領域や日本語の未来の礎となるのが広辞苑だとすれば、僕は今後一切の煙を口に入れないことをここに誓おう。


とにかく禁煙するのだ。
未来は変えられる。僕はドラえもんの言葉を素直に信じるよ。


2018.09.05 05:08 最後のセブンスターを傍らに

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