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中国のカオスな医療現場は医療プラットフォーマーの飯のタネ

世界的に、AI+医療は今最もホットなテーマだ。各国ともに力を入れているが、中国の力の入れ加減はハンパない。人口が多いことも理由の一つだが、現状があまりにひどすぎるので、改善できる余地が途方もなく大きいからだ。人口×改善幅で見ると、とてつもない巨大市場が出現するだろう。

■カオスな現場

中国では普通の人が風邪をひいたりすると、たとえば上海市第六人民病院に行く。人民病院は、日本の感覚だと大きな市民病院という感じだ。

そもそも町医者というのが非常に少なく、あっても「どうせ金儲けしか考えていないだろう」と見られて信用度ゼロ。中国では病院の経営者は医師ではなくてもいいので、投資家が出資して医師を雇う場合が多く、小規模な病院は金持ちを対象にした高級クリニックというのが多い。「金儲け第一」は実際にそうなのである。

だから、ほとんどの人が近くの人民病院に行く。風邪程度であれば私も行った。ご期待の通りの大混雑で、受付番号を売るダフ屋も出現する。一人の病人に2〜3人の家族が付き添ってきたりするので、よけいに人が多い。

病院に到着したら数十分も並んで、まずは会計でデポジットを支払う。そうしないと診察すら受けられないのだ。それで受付番号をもらい、待合室に向かうが、椅子に空きはない。階段に行って中段に座るが、上のおばちゃんは弁当を食べているし、下のおっさんはモクモクとタバコを吸っている。日本人としてはイラつくが、他の人は誰も気にしない。この場所を離れると座れないので、小一時間はこの状態。熱が上がってきた感じがするが、メイバンファー(仕方ない)。

番号が表示されて診察室に向かうと、そこもラッシュアワー状態。人を掻き分けて、机にたどり着き、受付番号を並べる。ここはどこかと思いきや、医師もいるし、やはり診察室だ。他の人が受付番号の順番をごまかさないかと、みんな見張っている。さらに、医師の診察に口をはさむ人までいる。「そりゃ、ただの風邪じゃないよ」とか「たぶん胃腸の病気だ」とか、勝手に盛り上がる。患者のプライバシーも何もあったものではない。

そんなこんなでようやく私の番。診察はいたって普通で、体温や血圧を測り、触診と問診で「風邪でしょう」との診断。処方箋をいただいて退席する。もちろん、私の診察の時にも、周りは「そりゃ、肺炎だ」「いや、疲れだよ」などと言いたい放題。感心したのは医師の対応で、完全無視。下手に応じると、とめどないことになるのだ。

次は処置室ではなく、また会計へ。処方箋を見せて、診察料+薬代−デポジットの差額を払う。そうしないと、処置してくれないのだ。次に薬局へ。支払済のスタンプが押された処方箋を渡すと、飲み薬と点滴パックをくれる。それからようやく処置室に行き、ズラっと並んでいる点滴用の椅子に座り、看護婦を待つ。これまた数十分経って看護婦が声をかけてくれ、いざ点滴。終わっても誰も何も言ってくれないので、看護婦を呼び止めて、針を抜いてもらい、ようやく終了。丸1日がかりである。

■深刻な問題も 

私の風邪程度であれば、まあどうでもいいが、もっと深刻な問題も多々ある。

まずは偽薬。先日も子供用ワクチンの偽物が大量に出回っていたことが発覚して大問題になった。ヒアルロン酸やボトックスなども大量の偽物が流通しており、ゆえに日本の病院が横流しする事件が頻発する(薬は本物でも、日中ともに横流しは違法)。

次に、いい病院の数が足りない問題。たとえば上海には慶応大学病院クラスの病院が3つあるが、そこに上海だけではなく、江蘇省や浙江省など周辺の省からも患者が押し寄せる。だから、いい病院は、高額のデポジットと通常の数倍の診察料を払える人向けにVIPカードを発行し、優先的に予約を受け付ける。しかし、これにも金持ちが殺到するので、病院の偉い人にコネがないとVIPカードそのものを買えない。

さらには誤診の問題。最近は医療インバウンドも盛んで、もちろん中国人が上得意。私の知り合いが来ると、「中国の医師はいい加減。友達がPET-CT検査を受けて異常なしと言われたが、念のため日本でも受診してみたらガンだった」という話をよく聞く。

しかも、金儲け主義の問題。「中国では、ガンにかかると、ガンではなく薬で死ぬ」と言われる。抗がん剤などを大量に使うので、みるみるうちに衰弱していくそうだ。ガンではなくても、とにかく薬漬けになるとのこと。しかし、「薬を出さないと文句を言われるから」という医師もいて、どっちもどっちとも言える。

最後に、医療従事者のリスク。日本でもたまに報道されるが、中国では、怒り狂った患者や家族が医師などを刺殺する事件が起こる。そのため、優秀な医師が執刀したがらず、よけいに医師が足りなくなる。

挙げていけばキリがないが、とにかく問題山積み。上海ですらそうなのだから、田舎はもっとすごいことになっているはずだ。中国に馴染んでいた私でさえ、帰国して日本で子育てをすることにしたくらいである。

AIやブロックチェーンなどのイマドキの技術を活用すれば、このような医療現場が一気に現代化できる。ビジネスチャンスなのだ。

■アリババは総合プラットフォーム 

まずはアリババを見てみる。同社の健康・医療部門の中核は、子会社の「阿里健康」だ。医薬品のネット通販と医療サービスプラットフォームの運営を行っている。

阿里健康
http://www.alihealth.cn

同社は2016年に2億2500万元を万里雲医療信息科技公司に投資して、医学映像プラットフォーム「Doctor You」を完成させた。2017年にはこれを包括医学研究診断AIプラットフォームとして発表した。医療現場の補助だけでなく、医師の能力向上訓練システムも備えている。

同社の幹部は「今後10年以内に医療AIは医者の仕事量の過半を担う」と述べている。アリババはDoctor Youを突破口として、医療経営モデルのイノベーションを図っていく。その際に、Ali Pay(支付宝)や芝麻信用の存在は、大きなアドバンテージとなるだろう。

■テンセントは現場重視 

次はテンセント。同社は2017年11月に、騰訊覓影(医療映像)で国家AIプロジェクトの指定を受けた。

騰訊覓影
https://miying.qq.com/official/

アリババやバイドゥは、PAAS(Platform-as-a-Service)、つまりプラットフォームを作り、サービスを提供している。これに対してテンセントは現場を重視している。2018年11月下旬に、3都市(貴陽、杭州、深圳)での3プロジェクトを発表した。

貴陽:同仁医院と提携して緑内症のAI早期診断
杭州:消化器内視鏡AI専門委員会に参画
深圳:AIによる臨床補助サービス

その他の国家重点研究に対しても積極的に関与する。すでに乾癬、耳石による諸症状、脳血管疾病等の研究で成果を挙げている。

■中国平安の“平安好医生” 

医療プラットフォームを狙うのはIT企業だけでない。保険会社を核として総合金融グル-プへ成長した「中国平安」も重要なプレーヤーだ。

平安好医生
http://www.jk.cn

健康医療部門を担うのは「平安好医生」である。同社は、今年上半期にこの分野で最大の投資を集めた。また5月には、「インターネット+医療健康」業態では初となる、香港市場への上場も果たした。資金力はBATに引けを取らないのである。

同社の中核事業は家庭向け医療サービスで、独自の「インターネット+医療健康」総合プラットフォームを運用中だ。2018年上半期には1日平均53万件の問い合わせがあったという。ウリ文句は「1分で診療、1時間で薬を配達」である。全国62都市、4150店の薬局をつないでおり、大手薬局チェーンも続々と参加している

■まとめ 

中国の医療改革の主役は、こうした大手のプラットフォーマーたちである。キャッシュレス社会が一気に実現したことを考えれば、中国の医療も短期間で劇的に変わる可能性がある。日本の医療機関や器具・設備メーカーも、彼らと連携して中国医療の現代化に貢献し、同時にビジネスの幅を拡大してはいかがだろうか。




コスパ・テクノロジーズCEO / BtoB企業のブランディングと海外向け施策が得意なWeb制作会社 / SNS総フォロワー5万 / HP→ https://cospa-tech.com/