見出し画像

中国で音楽配信サービスが流行る理由

弊社の役員の一人はかなりの音楽好き。いい歳をして、中国時代にはC-POPシーンをずっとウォッチしていた。その彼のオススメだったのが、本兮(ベン・シー)という女性シンガーソングライターだ。

■ネット出身アーティスト

「日本に帰国して一番驚いたのは、彼女が急逝したことなんだ」。彼によると、本兮は2016年12月24日に22歳で亡くなったという。「死因が発表されなかったのでネットでいろいろ詮索されたんだけど、結局はよく分からないままみたい」だという。

「この人は実にすごくて、作詞作曲する、若くして自分のレーベルを立ち上げる、MVの演技もうまい。マルチな才能に恵まれていた。楽曲も歌詞もとてもユニーク。ポップな曲でもどこか悲しげで、実に聴かせる」。

「ところが、ある時テレビを見ていて目を疑った。バラエティ番組に本兮が登場して、なんと、お笑い企画のイジられ役をやらされてたんだ。根っからのアーティストなのに、あり得ないだろう」と彼は今でもときどき憤慨する。

そもそも本兮が注目されたのは、「ネット出身アーティスト」の草分けの一人だからだ。2009年ごろから自作の楽曲をネットで発表し、徐々に人気が出た。いろいろ工夫してセルフプロデュースしただろうに、テレビ出演で台無しになったかもしれない。「だからね、中国でアーティストが自分を表現するためにはネットしかない」という。

聞く方だって同じだ。国営テレビのお仕着せの企画や演出ではピンと来ない。というか、そもそもテレビを信用しないし、見てもいない。大事にするのは、他の人の評価であり、アーティストと直につながっている感だ。

■音楽配信サービス隆盛

かくして、アーティスト側とリスナー側の双方から支持されて、中国ではあっという間に音楽配信サービスが広まった。

そして、その中のトップ企業、テンセント・ミュージック(騰訊音楽)が2018年12月にニューヨークで上場した。時価総額は200億ドル超。数億人の若者や子供が音楽でつながろうとしているのだから、もっと価値が高くてもいい。

実際にテンセント・ミュージックの月間アクティブユーザー数は8億(2018/3Q)。国内市場シェアは60%を超えている。1日当たり使用時間は70分と、業界平均の54分を大きく上回る。2018年1~9月までの営業収入は135億8800万元(約2200億円)で、前年比83.7%増、経常利益は32億5700万元(約530億円)。

そして、テンセントはスウェーデンのSpotfyと提携した。そのSpotfyのユーザー数は1億9100万で、直近の時価総額は218億ドルなので、中国人の所得が順調に伸びれば、テンセント・ミュージックの時価総額は800億ドルに手が届くことになる。

ちなみに、テンセント系に次ぐのは、ネットイース系の「網易雲音楽」、中国移動系の「咪咕音楽」、アリババ系の「蝦米音楽」の3つで、それぞれユーザー数1000万に満たない。テンセント & Spotfy連合の優位は揺らぎそうもない。

音楽配信プラットフォームが浸透すれば、新疆ウィグル出身の本兮が表舞台に出れたように、各地から新人が次々に出てくるだろう。そして、ストレスフルな環境で悪戦苦闘する若者たちの救いとなるはずだ。


コスパ・テクノロジーズCEO / BtoB企業のブランディングと海外向け施策が得意なWeb制作会社 / SNS総フォロワー5万 / HP→ https://cospa-tech.com/