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社会で生きる

社会とは、役割分担のシステムなのだと考えて生きている。

一人で何もかもこなせる器用な人はそうそういない。
人がそれぞれの得意な技能を発揮して、他の人の不得意な部分を補い合うことで、不得手なものも含めてすべてを個々人で対処するより効率の良い成果を得られる。そのシステムが社会だ。

例えば、狩りの得意な人と不得意な人がそれぞれ自分の分の食肉を調達するよりも、得意な人が2人分の食肉を調達したほうが合計の苦労は少なくて済む。狩りの不得意な人が工作を得意にしていれば、狩りに出ている人の分まで質の良い道具を作ることで、狩人は明日の心配なく狩りに専念できる。
集団の中でより便利な生活を営めるよう、役割分担を積み重ねる。そうして社会が生まれていく。

人は、社会を作って役割分担することにより、効率よく大きな物事を実現してきた。

さらにいろいろな道具を用いることで、役割分担の規模を拡げ、効率を高めている。

まずは貨幣という道具。
提供する物や役務の対価を一旦貨幣で受け取る仕組みが存在することにより、人は任意の機会に任意の物や役務を他の人に依頼できる。
貨幣を生み出したことで、人は距離や時間も越えて役割分担できるようになった。1つのシステムとみなせる社会の範囲が広がっていった。

そして組織という道具。
一つの役割のために組織を作ることで、個々が担える役割の合計よりも大きな役割を担うことができる。
組織単位で社会の大きな役割を担い、さらに組織の中でも役割分担することで、個々人の働きからより効率良く成果を得られる。

その他様々な道具を活用して、人は社会で大きな物事を実現してきた。

社会で生きることが、ヒトという生物種の特長だ。

他の人に共感する、言語で情報を伝える、目的に沿った道具を作る、といったヒトの生物学的特徴の数々が、大きな社会の運用を可能にしている。
他の生物種にはない強みだ。

そしてヒトの歴史は、社会の拡大の歴史である。
言語、国家、宗教、財産、企業、といった概念を編み出して活用しながら、ヒトはより広範囲の、より多人数から成る社会を作り、安全で豊かな生活を実現してきた。

ヒトにとっての進歩とはすなわち、小さな社会対社会の対立をなくし、ひとまとまりの社会を拡大させていくことなのだと思う。

社会を拡大させるためには、他者への信頼と敬意が必要だ。

社会というシステムは役割分担をすることで組み上がっている。
何らかの役割を他者に任せるにせよ、他者から任されるにせよ、他者と分担できる範囲は他者をどれだけ信頼し、敬意を払えるかによって決まる。

向き不向きや技能と経験の要不要はあっても、役割に貴賤は無い。
貨幣による対価を受けない役割も存在しうる。例えば大学で研究する学生は、社会から知識の整理と拡充の役割を担っている。無報酬で非営利の市民活動も、社会課題の提示と解決策の模索を担う役割だ。

多様な役割が存在し、より広く、より多人数で分担する社会を作る。
それが、ヒトの特長に沿った豊かな生き方なのだと考えている。

自分は他者から任された役割を担っている。他者には自分が任せた役割を担ってもらっている。
我々は、社会で生きている。

(1枚目の写真: 日本科学未来館にある、ヒトの社会形成について神経科学や心理学の知見から語る展示)
(2枚目の写真: 社会課題専門メディア「リディラバジャーナル」を運営するリディラバ代表・安部敏樹さんの講演)

■ 杉山啓の活動情報はこちら


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