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神奈川県SDGs社会的インパクト・マネジメント実践研修 【第1回】開催レポート

はじめに:「SDGs社会的インパクト・マネジメント実践研修」が始まりました!

2020年11月5日(木)、SDGs達成に必要な「社会的インパクト・マネジメント」の手法を学ぶ「SDGs社会的インパクト・マネジメント実践研修(以下、実践研修)」が始まりました。この研修は、「SDGs未来都市」「自治体SDGsモデル事業」の両方に選定された神奈川県が、2018年度から実施している「SDGs社会的インパクト評価実証事業」の中で行われているもので、昨年に続き2回目の実施です。

今年の参加組織は、選考を通過した企業9社、非営利組織2団体に、神奈川県を含めた計12組織。来年1月までの全5回で、参加組織はSDGsの目標・ターゲットに沿って、社会的インパクトを定量的・定性的に把握することを学び、具体的な事業改善や資金調達につなげることを目指します。

「社会的インパクト・マネジメント」は日本においてはまだまだ新しい考え方であると思います。このレポートでは、研修内容をお伝えしながら、社会的インパクト・マネジメントと実践研修にまつわる様々な疑問に答えていきたいと思います。第1回実践研修レポートでは、以下のような疑問にお答えします:

1. なぜ神奈川県が取り組むのか
2. なぜこの実践研修を行うのか
3. 社会的インパクト・マネジメントとは何か
4. 社会的インパクト・マネジメントのツールはどのようなものか

第1回実践研修の内容

1. なぜ神奈川県が取り組むのか?

神奈川県理事、いのち・SDGs担当の山口健太郎氏からのご挨拶で実践研修が始まりました。

山口理事

神奈川県は「いのち輝くかながわ」を基本理念とし、複雑多様化する社会の課題に取り組んでいます。また、神奈川県は2018年には「SDGs未来都市」と「自治体SDGsモデル事業」の両方に同時に選ばれ、「いのち輝くかながわ」と共通する理念を有するSDGsへの取り組みも一体的に推進しています。この「いのち輝くかながわ」とSDGsの達成のためには、行政だけではなく民間セクターの取り組み、それも民間企業が本業としてSDGsに取り組むことが重要であり、神奈川県としては、これを金融が後押する神奈川県版の SDGs 金融フレームワークを構築しているところです。

今回の研修では、事業によって生み出される社会的・環境的なインパクトを見える化する「社会的インパクト・マネジメント」の手法について、参加者の方々はエッセンスを得て、そこから具体的な事業改善や資金調達などにつなげることを期待しています。参加者の方々の成果は、神奈川県としてもモデル事業の事例として紹介したいですし、一定の条件を満たした参加者は、「神奈川SDGs社会的インパクトマネージャー」として認定させていただく予定です。

2. なぜこの実践研修を行うのか? 

続いてケイスリー株式会社落合から、今回の研修の狙い3点とその達成によって目指すところの説明をしました。

実践研修においては、社会的インパクト・マネジメント手法を習得・活用し、1.各参加者の研修終了時の目的「資金調達」「事業改善」等の達成を支援すること、2.事例づくりをすすめ、神奈川県事業としての実績を広く公開し、より多くの取り組みへとつなげること、3.研修への参加者や登壇者間のネットワークをつくり、今後の発展へと役立てること、の3点を目指しています。

それぞれを達成することにより、1.ではSDGs経営を実践できる組織の増加、2.では活用事例や金融接続事例の増加、3.では将来的な多様な事例の創出、にそれぞれつながることが期待されます。また、これら事例が積み重なっていくことにより、SDGs経営実践のためのエコシステムの構築を目指しています。

3. 社会的インパクト・マネジメントとは何か? -SDGsと社会的インパクト・マネジメントの接続-

ケイスリー株式会社今尾から、社会的インパクト・マネジメントの概要と、SDGsと社会的インパクト・マネジメントがどうリンクするのかという点について説明しました。

一般社団法人日本能率協会の調査によると、2020年時点で回答が得られた532社の企業経営者のうち約9割の方がSDG sを「知っている」「ある程度、知っている」と答えています。経年変化を見ると、毎年10~15%ずつ認知度は上がっています。企業規模別にみると、大企業の間では9割認知されている一方で、中小企業間では約5割の認知度にとどまっています。大企業の方が外部的な圧力を受ける環境にもあって、認知度が高まっていると思われます。

今回の研修では、SDGs経営と金融との接続もテーマの一つとなっています。金融と一言で言っても、銀行融資や制度融資、ベンチャー投資、債権投資、株式投資、クラウドファンディングなど非常に多様な種類のものがありますが、中でも世界最大規模の運用資産を保有する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、環境・社会・ガバナンス(ESG)要素を投資プロセスに組み入れる責任投資原則(PRI)に署名し、SDGsを実践する企業に対して投資を実施することでPRIを実現していくとしています。SDGs経営企業に対して資金が流れる、という一つの大きな流れが生まれていると言えます。

その流れの中で、金融サービスを受け取る側の企業もSDGsに取り組んでいるところは約6割(一般社団法人日本能率協会調査による)に上り、年々その割合も増えています。では、その具体的な取り組み内容を見てみると、企業によって濃淡があり、多くの企業はSDGs経営の入り口にいるのが現状です。

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今回の研修では、入口の次のステージである真にSDGs経営を実践している段階に行くための手法として有効な、「社会的インパクト・マネジメント」をお伝えします。

SDGs経営への取り組みは、以下のようにレベル1から5まで分けることができます。

レベル1:SDGsの各ゴールと自社事業との関連付け
レベル2:意思表明
レベル3:計画
レベル4:測定
レベル5:活用

このうち、レベル3では自社事業がどのように、どのような成果を生み、SDGsに貢献していくのかというロジックを整理することになります。今回の研修ではそれを「ロジックモデル」というツールを使って行います。

それを踏まえてレベル4では、成果を見える化し、測定することになりますが、どういった指標を用いるとその成果が測定しうるのか、を考えて指標を設定し、実際にデータを収集します。ここで見えた成果の活用方法を考えるのがレベル5となります。活用方法としては、事業改善や経営判断、情報発信、連携促進など様々な形が考えられます。この一連のステップを一つずつ踏んで次へとつなげていくことが、社会的インパクト・マネジメントの実践です。

社会的インパクト・マネジメントを実施しながら、真にSDGs経営を実践するステージに向かうために重要なことは、自社事業がいかにSDGsに貢献するかを説明するロジックモデル策定という計画から、成果を様々な目的に活用していくという改善まで、PDCAを回すことにあります。それによって、ロジックの再検討の必要性が明らかになったり、成果をより明確に測るために指標の見直しが求められたりと、より精度の高いSDGs経営の実践に近づきます。今回の研修でPDCAサイクルのどこまでやるのかは、各企業がメンタリングを通じて決めていくことになります。

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SDGsは、2015年に国連で採択された合意文書「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中に定められている目標です。この文書タイトルが示す通り、現在の経済成長の在り方では社会や環境が立ち行かなくなるという危機的状況を、我々は変革していくことが求められています。つまり、変革を求めているのがSDGsと言え、企業においては自社事業についてもどのようにSDGsに紐づいているかを洗い出したうえで、持続可能な世界に向けて変革につなげていくことが非常に重要になります。

また、自社事業を社会にネガティブなインパクトをもたらすものとせず、社会を構成する人々を誰一人取り残さないものとしていくことも、SDGsの達成に向けて進む中で肝要なポイントです。それには、自社だけで取り組むのではなく、多様なアクターと連携していくことも必要になるでしょう。

さらに、SDGsには17のゴールと169ターゲット、232の指標が設定されていますが、自社事業が必ずしもそれらに明確に紐づけられるわけではありません。大事なことは、その達成に向けて、自らの課題の特定と、それを測るための指標設定をすることです。今回の研修ではこの点を特にお手伝いさせていただきます。

【グループワーク①:各参加者によるゴール設定と計画策定】

実践研修では、3組織で構成する4グループに分かれてのワークも行いました。参加組織には事前に、研修終了時に実現したいことと、研修中に獲得したいことを考えてきていただきました。その内容に対して、各参加組織はケイスリー株式会社の担当メンターに相談したり、同じグループの他の組織の宿題や相談内容を聞いたりしながら、自分の宿題に活かすことなどが、このワークの目的です。

各参加組織の皆さんは、SDGsは知っていても社会的インパクト・マネジメント手法を自らの組織に取り込んでいくことは初めての経験であり、ワークにおいても、自らの組織にとっての課題とSDGsとがどう紐づくのか、少し戸惑いながら作業を進めている姿が見られました。また、解決したい課題の種類も、現時点で社会課題が先行するケース、一方で自分の組織の事業課題が先行するケース、と参加組織によって様々でした。

それらを紐解いてSDGsに紐づく課題を特定していくことになりますが、誰に、何を、どういった媒体で、どういった内容で伝えるか、という点を最初に明らかにしてみると、整理が進むものと思います。

4. 社会的インパクト・マネジメントのツールはどのようなものか

ここでは、社会的インパクト・マネジメント実践の要となる「ロジックモデル」についてご説明します。ロジックモデルとは、事業に関わる資源(インプット)、活動、直接の結果(アウトプット)、成果(アウトカム)を繋ぎ合わせ、それを体系的に図示化したものです。

このうちアウトカムについては、大まかに、活動によって生じる直接的な変化である直接アウトカム、最終アウトカムに貢献するために事業として達成を目指す望ましい状態を示す中間アウトカム、事業が貢献する社会課題が改善または解決された状態である最終アウトカム、の3つに分けることができます。

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このロジックモデルを書くには、まず①取り組む課題、出したい成果に関する問題構造を紐解くことから始めます。次に②その課題や現在の事業に関わる関係者と役割を洗い出します。そして、③課題の裏返しとも呼ばれる最終アウトカムを言語化し、関係者間で合意します。SDGsはバックキャスティングで(逆算的に)考えていくことが大事で、最終アウトカムを合意したうえで、④中間アウトカム、そして直接アウトカムを整理し、活動と結びつけます。

アウトカムは必ずしも一つに限られておりませんが、直接アウトカムや中間アウトカムが複数になることもありますし、活用目的によって直接アウトカムが何段階かに分かれることも考えられます。また、複数の中間アウトカムが一つの最終アウトカムに集約されることや、一つの中間アウトカムが複数の最終アウトカムに広がることもありえます。ただし、最終アウトカムがSDGsに紐づいており、そこからバックキャスティングで考えていくことが大事であること、さらに誰に対してこのロジックを説明したいのか、を考えると最終アウトカムは一つであることがスタンダードと言えます。

【グループワーク②:ロジックモデル作成開始】

本日2回目のワークでは、各参加組織が、5.で説明したロジックモデル作成ステップのうち①から③のアウトカムの言語化に取り組みました。

日々取り組んでいることや考えていることを言語化するのは、社会的インパクト・マネジメントのアウトカムに限らずとても難しいことだと思います。散在している情報の断片をロジカルにつなぎ合わせ、聞き手や読み手が共通の理解をしうる表現を見つけ出す必要があります。

このワークでは各参加組織の皆さんも、その点で苦労していたようです。実際に、資金提供者が使用している表現が、必ずしも自分の組織の事業が目指しているところを正確に表していないと悩んでいる組織がありました。それゆえ、自分たちの事業が何を目指しているのかが見えなくなっている状態でしたが、そのもやもやを洗い出し、整理し、適切な表現を見出していくこの過程自体が、事業がどうSDGsに貢献するのかを、まずは自分たちが明確に理解するために、必要不可欠なものといえるでしょう。

他にも、自らの組織が目指す最終アウトカムが、価値を創造するものではあるが、必ずしも社会課題を解決するものではないと考えている組織もありました。しかし最終アウトカムは、社会のポジティブな変化であるので、自らの組織が生み出そうとしている価値が、社会にどのような変化を起こすのかをまず明らかにしてみるとよいでしょう。

おわりに:次回にむけて

今日のワークの結果をもとに、各参加組織は次回の研修までに宿題としてロジックモデルの作成に取り組みます。作成したロジックモデルは各チームのメンバー間でお互いにコメントし合うこととしています。また、研修受講や宿題への取り組みの中で感じるもやもやは、オンラインでメンターに相談したり、参加者間で議論をする機会もあります。それらを通じて、ロジックモデルをブラッシュアップしていきます。

次回、11月20日(金)に開催の第2回実践研修のレポートもお楽しみに!


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