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世界近代文学

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vol.142 シェイクスピア「ハムレット」を読んで(福田恆存訳)

vol.142 シェイクスピア「ハムレット」を読んで(福田恆存訳)

「ハムレット」を楽しむ。
420年以上前に描かれ、世界中で上演されていたシェイクスピアの全5幕からなる戯曲。1600年ごろ。舞台はデンマークの城。死んだ父の亡霊から復讐を命ぜられる。理性と感情のはざまで悩むデンマーク王子「ハムレット」の復讐劇。

ハムレットのジレンマを凝縮した名ゼリフ「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ(第三幕第一場)この有名な哲学的な問いに、一歩も近づけないまま、読み終えた

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vol.137 モーパッサン「脂肪の塊」を読んで(青柳瑞穂訳)

vol.137 モーパッサン「脂肪の塊」を読んで(青柳瑞穂訳)

人間はいかに身勝手で愚かなものか。他人のことはどうでもいい。自分にとって有利か不利かだけが判断基準。この作品に描かれた上流階級の人たちの、愛国心や道徳心、思想はいかに薄っぺらいものか、それを思わせる内容だった。

また、女性が男社会の中で軽蔑的に扱われてきたかを想像させるものだった。

内容
時代は晋仏戦争(1870年−1871年)のさなか、プロシア軍に占領されたフランスのルーアンから大型馬車で避

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vol.136 E・ケストナー「飛ぶ教室」を読んで(池内紀 訳)

vol.136 E・ケストナー「飛ぶ教室」を読んで(池内紀 訳)

「子どもの涙は大人の涙より重たい時がある」この前書きに思いを馳せながら読んだ。作品は、ドイツの作家エーリヒ・ケストナーが1933年に発表した児童文学。

「子どもはいつも元気」は、大人が作り上げた思い込みなのだ。どの時代でもそうなのだ。大人以上に親のことで深く悩み、友だちを助けるために工夫を凝らし、お互いの立場を尊重し合う。人生に真っ直ぐに向き合う真剣さがある。作品からそんなことを思った。

内容

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vol.127 マーク・トウェーン「王子と乞食」を読んで(村岡花子訳)

vol.127 マーク・トウェーン「王子と乞食」を読んで(村岡花子訳)

ひょんなことから、王子になった乞食のトムと、乞食になった王子のエドワード。このふたり、両極端な生活を経験することで、それぞれの重荷を理解し、同情し、慈悲の心を深めていく。この児童文学の学びは、そんなところにあるのかもしれない。他方、生き方を選べない絶対君主制を痛烈に風刺し、ユーモアたっぷりに描かれているところにこの作品の魅力を感じた。そして、今当たり前のようにある貴重な『自由』を考えた。(「乞食」

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vol.125 チェーホフ「ワーニャ伯父さん」を読んで(神西清訳)

vol.125 チェーホフ「ワーニャ伯父さん」を読んで(神西清訳)

「どうしてくれる、俺の人生を返してくれ!」、ワーニャの嘆きが聞こえそう。

「ドライブ・マイカー」にも引用されているチェーホフ晩年の名作を久しぶりに読み直した。

19世紀末、ロシアの田園生活の情景を描いている四幕の戯曲。舞台となっているのは退任した教授の屋敷。何かストーリーがあるわけでもなく、登場人物の、報われない心情を吐露しながら、みんな何かを耐えながら生きている。幸せそうな人は誰も出てこない

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vol.124 カズオ・イシグロ「クララとお日さま」を読んで(土屋政雄訳)

vol.124 カズオ・イシグロ「クララとお日さま」を読んで(土屋政雄訳)

AIと人間の関わり合いを通じて、人間たらしめる条件はなんだろうかと考えさせられた。

昨年出たばかりの作品なので、ネタバレに注意しながら書く。

AF(Artificial Friends:人工親友?)と呼ばれる人工知能を搭載した人型ロボットのクララは、他の新型AFといっしょに店頭に並べられていた。ある日、お店にやってきた病弱の少女ジョジーは、一目でこのクララとの好相性を感じた。母親のクリシーも、

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Vol.117 サン=テグジュペリ「夜間飛行」を読んで(二木麻里訳)

Vol.117 サン=テグジュペリ「夜間飛行」を読んで(二木麻里訳)

この犠牲はきっと未来に役立つ。

いま生まれた赤ちゃんがいる。いま死んでいくおじいちゃんもいる。おじいちゃんが頑張ってきたことはきっと誰かの役に立つ。いま生まれた赤ちゃんの役に立つ。ずっと前から社会はそうやって歩みを続けているのだ。

「夜間飛行」を読んでそんなことを思った。

さらに、今こうして僕が読書を自由に楽しむことができるのは、過去にさまざまな人たちの努力のおかげなのだ。その努力の裏には、

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vol.115 チェーホフ「かもめ」を読んで(神西清訳)

vol.115 チェーホフ「かもめ」を読んで(神西清訳)

ずっと若いころ、何度かアングラ風の演劇を見たことがある。小劇場から伝わる印象はどれも暗かった。人間の心の奥にある葛藤を誇張的に独白したものや、理不尽な社会を描きながら誰かに共感を求めるように手を広げ、薄暗い舞台にたたずむ俳優を思い浮かべる。

この戯曲「かもめ」は、1896年秋、サンクトペテルブルクの劇場が初演らしい。僕は、ゴーゴリの「外套」で、襟を立てうつむき歩く小役人「アカーキイ」が住む街の、

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vol.109 ショーロホフ「人間の運命」を読んで(米川正夫/漆原隆子訳)

vol.109 ショーロホフ「人間の運命」を読んで(米川正夫/漆原隆子訳)

1956年にソビエト連邦共産党機関紙に掲載された、ノーベル文学賞作家ミハイル・ショーロホフの作品。

タイトルにつられて初めて読んだ。

あらすじ
第二次世界大戦が終わって初めての春の日、幼い少年を連れたソ連のトラック運転手アンドレイ・ソコロフが、偶然出会った「私(著者)」に自身の戦争体験を物語る。戦争が始まると、彼は妻と3人の子供と別れ前線に向かう。戦いで負傷を負ってドイツ軍の捕虜となる。各地の

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vol.108 ゲーテ「若きウェルテルの悩み」を読んで(高橋義孝訳)

vol.108 ゲーテ「若きウェルテルの悩み」を読んで(高橋義孝訳)

読み終わり、本を置き、目を閉じる。心にしっくりしない疑問が浮かぶ。

なぜウェルテルは、自殺を決意したのだろうか。
人を愛することと死がどうして結びつくのだろうか。

【あらすじ】舞踏会で知り合った裁判官の娘ロッテに恋をしたウェルテル。彼女には婚約者がいることを知りながら、その美しさや豊かな感性に惹かれる。人妻となったロッテも、ウェルテルの優れた面を認める。会うごとに夢中にるウェルテル。かなわない

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vol.105 ジーン・ウェブスター「あしながおじさん」を読んで(谷川俊太郎訳)

vol.105 ジーン・ウェブスター「あしながおじさん」を読んで(谷川俊太郎訳)

この有名な児童文学の古典を初めて読んだ。遺児の教育を支援する「あしなが育英会」はこの作品をモチーフに、継続的な活動で多くの支援者を得ていることを知っている。

あらすじ

18歳の女性ジュディ・アボットは、みなしごとして孤児院で暮らしていた。高校卒業のころ、たまたまお金持ちの理事(あしながおじさん)から文章の才能を期待され、学資支援の申し入れがあり、大学で学ぶことになった。引き換えに、「あしながお

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vol.103 J.D.サリンジャー「ライ麦畑でつかまえて」を読んで(野崎 孝訳)

vol.103 J.D.サリンジャー「ライ麦畑でつかまえて」を読んで(野崎 孝訳)

大人のインチキは、社会生活を営むための潤滑油ぐらいに思っている僕が、インチキを嗅ぎ分けてその欺瞞性を暴こうとするホールデン少年にどこまで入っていけるか、この驚異的なベストセラーを初めて読んだ。

高校を退学させられた16歳の少年、ホールデン・コールフィールドが、ニューヨークの街をふらついた時の、悪夢のような3日間の追憶が、湧き上がるように語られていた。一人称で軽快に語る17歳になった彼の言葉は、神

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vol.101 グリム童話「ヘンゼルとグレーテル」を読んで

vol.101 グリム童話「ヘンゼルとグレーテル」を読んで

口減らしのために、親が幼い子どもを捨てる。グリム兄弟が描いたメルヘンに、うすら寒さを感じた。

「明日の朝はやく、子どもたちを連れて森の奥まで行きましょう。・・・子どもたちをそこに置きっぱなしにするのよ。ふたりは森の中でさんざん迷って、帰れなくなるでしょう」

母親のこんな提案から始まる、中世ヨーロッパの民話を集めた幻想的な物語を読んで、僕は何を感じたのだろうか。

あらすじ

ヘンゼルとグレーテ

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vol.95 ジッド「狭き門」を読んで(中条省平・中条志穂訳)

vol.95 ジッド「狭き門」を読んで(中条省平・中条志穂訳)

人を愛することと、信仰に忠実であることと、相反するものなら、僕は神様なんかいらない。

概要
いとこ同士のジェロームとアリサは幼い時から、プロテスタントの厳しい教育の中で育った。聖書を読み合い、語り合っていた。思春期に二人は互いを意識するようになる。アリサは、母の不倫と駆け落ちを知り、その後の人生に大きな影響を受ける。ある日、聖書の1節にある「努力して狭き門からは入れ」を牧師から説かれ、徳を高め、

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