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日本のスポーツマネジメントと肖像権

自分は長らくエンターテインメントビジネスに身を置いて働いてきたのですが、辞めてから半年経ちまして。

その間ひとりでいろんなところをふらふら回ったり、また新たな人の繋がりが出来ていってるんですが、国内のスポーツマネジメントビジネスに関わりのある方々から、

「スポーツマネジメントに良い人材がいないからやったらいいんじゃないか?」

というようなことを何度か言われるのです。要は”日本のスポーツマネジメントは未熟”だと。でも、そもそも人材以前に日本のスポーツビジネスは構造的に問題を孕んでいるんですよね。

結論から言ってしまうと、

『アスリートが自身の肖像権を持っていない』

これに尽きる。

”アスリート”に限らず、”シンガー”や”アーティスト”、はたまた”役者”でも本質的には変わらないのですが、『芸』を売りとする人種から価値を創り出してビジネスを成立させていく場合、考えられる手法としては大枠としては以下のようなものが考えられます。

1.パフォーマンスそのものを売る。
→試合・大会、コンサート、演技etc…

2.アスリートの技術や知見を伝え教えることで対価を得る。
→講演会、スクールおよびファンビジネス

3.アスリートの名前や肖像を使用した広告タイアップおよびグッズ販売。
→CMタイアップ、商品共同開発、オフィシャルグッズ


1は最もベーシックなところですね。パフォーマンスを見聞きして本人と共有する体験を価値として売り出していく。

2は講演会やスクールビジネスなど。企画内容次第ではファンクラブ的なものもこの一部と言えます。

3はCMへの出演であったり、最近では寝具などでアスリート個人が共同開発者として名前があるようなコラボ商品もよく見られます。あとはTシャツでもタオルでもキャップでもなんでもよいのですが自らグッズを製作して販売するいわゆるマーチャンダイズ事業。

細かいことは置いといて、ざっくりこんな感じ。

ただし日本のスポーツビジネス界においてはアスリート自身が肖像権を保有していないケースが多い。この何年かで少しずつ変わりつつあるけど、自分が必死こいてやってた野球については未だに権利的には選手の立場は圧倒的に弱く肖像権はチームに帰属していることになっています。選手は個人事業主扱いでアメリカみたいな強い年金システムもろくにないのに。

当時の日経新聞記事。(日経会員じゃないと途中までしか見られないかも)
https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1601R_W0A610C1000000/

以前最高裁まで肖像権の帰属が選手なのかチームなのか争われたのですが、プロ野球選手としての『統一契約書』内の以下の条項に基づいて肖像権はチームに帰属する、という判例が出ちゃってるんです。

以下、日本プロ野球選手会HP(http://jpbpa.net/system/contract.html)より引用。

第16条 (写真と出演) 球団が指示する場合、選手は写真、映画、テレビジョンに撮影されることを承諾する。なお、選手はこのような写真出演等にかんする肖像権、著作権等のすべてが球団に属し、また球団が宣伝目的のためにいかなる方法でそれらを利用しても、異議を申し立てないことを承認する。
なおこれによって球団が金銭の利益を受けるとき、選手は適当な分配金を受けることができる。さらに選手は球団の承諾なく、公衆の面前に出演し、ラジオ、テレビジョンのプログラムに参加し、写真の撮影を認め、新聞雑誌の記事を書き、これを後援し、また商品の広告に関与しないことを承諾する。

はい。

宣伝目的での使用はわかる。音楽や映画でいうプロモーションでの楽曲使用料とか肖像権使用料の免除と同じ。そこで金銭利益が発生したら分配されるというのもわかる。料率が全く謎で”適当な”という魔法の言葉入ってるけどね。

なんでこの条項を根拠にして、選手の肖像権は全てチームに帰属という結論なのか全く意味不明です。どんだけ当時の球団側がロビー活動したのか知らないけど。このおかげで、選手は自分の名前を使用したグッズにしろ個人でオンラインサロンみたいなビジネスを立ち上げることは現状実質不可能なわけです。副次的ビジネスで報酬があるのは、球団オフィシャルグッズのロイヤリティ程度。国内だとサッカーもかなり近い状態。まあひどいものです。昔の日本野球機構がお手本にしたアメリカのメジャーリーグでは肖像権は選手個人に帰属しているのに。

このような状態なので、

現役選手のマネージメントはサポートして頑張りたくてもほぼビジネスにならない
→ビジネスにならないからろくな人材が来ないし育たない

という悪循環。
いまは自分の経済圏を作る事は数年前からしたら考えられないくらい容易になっているし、アスリートが現役でいられる時間には限りがあるからより注目を集められる現役のうちにセカンドキャリアを見据えた動きをしておかなきゃいけないのに、出来ることが著しく制限されているんです。選手と一緒になって、リスクを取ってビジネスを考えることすらあまりできない。

このあたりが解決されていかないことには日本のスポーツマネジメントのクオリティが上がることはあまり期待できません。客観的にひとりの野球好きとして見ても、それこそプロ野球の選手会はスト起こしてもいいと思います。やり方と順序を間違えるとお客さんが離れてしまうリスクあるけど、今ある状況がどれだけおかしくて、どれだけの不利益を今まで産んで、この先もどれだけ搾取される危険性があるのかを理解して発信する必要がある。それは自分たちのセカンドキャリアだけでなく未来の選手たちを守ることに繋がっていくんです。

ただ、Change.orgでもなんでも、どうにかして発信して欲しいんですけど選手もあんまり頭がそこまで回ってない。以前、某球団の選手会長も務められていた方にお話する機会があったんですけど、自分たちよりも先の世代のために仕組みを変えて作っていかないと…ってな話をしても全然聞く耳持ってくれなかったし。球団から悪い意味で目をつけられると…みたいなリスク考える人じゃ無理なんで仕方ないんですけど、ちょっと寂しかった想い出。

なもんで、僕自身はがっつりスポーツマネジメントにおいてリスク背負って闘う気はあんまりないのですが、肖像権問題は誰かが選手なり引退されたビッグネームの方なりがもう一度疑問を投げかけてくれないかなと遠巻きに期待してる次第です。

あと個人的には大学生および若手社会人アスリートのサポートをするためのコミュニティ作りを目指してますが、そっちはお金にならなくても必死でやろうと思ってます。形が見えてきたらそのお話もまたいつか。

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