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ゆとりをつくる「あき」

 アニメONEPIECEに体が自由に伸び縮みする「ゴムゴムの実」というのがでてきます。人間の体がゴムのように柔らかかったり、伸び縮みできたなら、ぴったりとした服も、硬いコスチュームも、するっと着られるに違いありません。しかし、私たちの世界にはゴムゴムの実はなく、人間の体が動く範囲には限りがあります。
 そこで、洋服のほうに、人の動きについてゆく自由度を持たせることが必要になってきます。「寸法を大きくする」「伸び縮みする素材を使う」「あきをつくる」ことでゆとりを確保するのです。

 先日私がつくったブラウスには、左脇にファスナーをつけました。ファスナーを開けなくても、腕をばんざ〜いとあげて肩をきゅっとすぼめて、体を細い筒のようにすれば、脱ぎ着することはできます。でも片方の脇があけば、腕を真上にあげなくても、肩をすぼませなくても脱ぎ着することができ、とても楽です。セーラー服にも使われている方法なので、身近に感じるかたもいらっしゃるかもしれません。
 私は右利きなので、ファスナーを右手で操作できるよう、左脇にあきをつくりました。左利きの方なら、右脇にあきを作った方が使いやすいと思います。

 今回「みんなにやさしい介護服」からご紹介するのは、「両腕が不自由なかたにも着せやすいシャツ」です。身幅や袖が細く、伸びにくい木綿のシャツは、動きに制限があると着るのが大変です。一見、なんの工夫もないように見えますが、

 袖下から脇をほどいて、ファスナーをつけてあります。体を通しにくい部分にあきをつくることで、着せやすくなる工夫です。

 今回、岩波さんのご提案と自分が作った服とを比べてみて、「動きづらいところにゆとりを確保する」ことが、この本の骨格であり、服作りの技術そのものだと改めてて実感しました。私が学んできたパターンメーキングの技術は、体型とか、障がいの有無とか、その程度がどうであるかといった背景に左右されずに活用できるはずだと、勇気をもらい、同時に大きな課題を受け取ったような気持ちでいます。