オスロの水辺を市民の手に。生まれ変わる街のお散歩メモ

5月の初旬、久しぶりにフィンランドから出て、北欧5ヶ国の首都で唯一行ったことのなかったノルウェーの首都オスロを見てきた。ヘルシンキから日帰り、現地滞在は日曜日の午後だけという駆け足訪問。あまり詳しく知らなかったオスロ、行ってみたらダイナミックに街が生まれ変わる最中で、とても面白かったので、今回はその記録。

ちなみに、オスロは、フィヨルドの国ノルウェーの首都らしく、オスロ・フィヨルドと呼ばれる細長い海域の奥まったところに位置している。が、オスロ・フィヨルドは、学術的にはフィヨルドではないらしい。確かに、氷河に侵食されたような地形は見当たらない。でも、とにかくこの辺りのことをそう呼ぶらしい。

1050年に誕生したオスロの街は、1624年の大火事で壊滅的な状態になったものの、デンマーク王のクリスチャン4世によって復興。ただ、街の名前もクリスチャニアになってしまい、再びオスロと呼ばれるようになったのは1925年のこと。復興に当たり、クリスチャン4世は街の中心を動かしており、「ここに作ろう!」と指差す銅像が大聖堂前の広場に置かれている。この復興により、街はかなり碁盤の目になったという。

現在のオスロは人口67万人。ヘルシンキとほぼ同じ。ちなみに、ノルウェーの人口も530万人でフィンランドとほぼ同じ。サイズ的にはイメージしやすい。

でも、ノルウェーは石油・天然ガス資源があるお金持ちな国で、EUには非加盟、ユーロは非導入と、フィンランドとはかなり立ち位置が異なる国。フィンランドから見ても物価はけっこう高い。ゆとりがある一方、移民系の人たちも目についた。同じ北欧といっても、簡単にひとまとめにできない国である。

オスロでは、特に臨海部とその周辺で建設ラッシュ。お金のかかっていそうな建物が続々とできてきて、さらに建設中のビルもあちこちに。オイルでビルが建つのだろうか、都市を大々的に作り替えている様子が一目瞭然。

でも、そんな中を実際に歩いてみると、決して金満な嫌らしい街ではなく、人間スケールの素敵な空間が多かった。人の居場所となる心地よい空間・施設が豊富に用意され、まさに市民のための都市再開発。さすが北欧だ。

Fjord city program

オスロの中でもひときわ目立つ、ウォーターフロントを生まれ変わらせる事業が、フィヨルド・シティ・プログラム。造船所、港、高速道路などの施設があった10kmにも渡る海岸沿いの場所を、博物館、美術館、オフィス、集合住宅、公園など、市民が直接関わる施設に変えていくもの。既に決定していたいくつかの計画も含む形で、2008年に市はこのプログラムを決定。市民が近寄り難かった施設を市民のための施設に。海辺という最高の環境にある一等地を市民の手に。そんな発想で動いている事業なのだろう。

The Harbor Promenade

この海岸線に沿って、The Harbor Promenade(Havnepromenaden)として、約9kmの連続した歩けるコースが設定されている。途中、一定間隔でオレンジ色のタワーが目印が置かれている。これに沿って進むと、様々なスポットを経由しながら、気持ち良い海辺の空間を延々と楽しめる。

今回は、天気に恵まれた5月最初の日曜日の午後で、とにかく人が多くて賑わっていた。日曜日は基本的にお店があまり営業していないこの街で、時間を過ごすのにうってつけのウォーターフロント。市民でごった返す条件が揃ったのは間違いないが、それにしてもすごい賑わいだった。

ということで、プロムナードに沿って歩いたところを西から順に見てみようと思う。全部ではないけれど。

Skur 13

もともと倉庫だったものを、巨大な屋内スケートパークに転用し、2016年のX Gamesの会場になった場所。X Games開催後は、地元スケーターに開放され、誰でも利用可能。壁面はカラフルなアートで彩られ、周辺にはトレーニングスペースやベンチなどが置かれている。ムキムキのお兄さんたちが楽しそうに体を鍛えていた。

Tjuvholmen

建物の展示会さながら、20あまりのモダン建築が並ぶ地区。と同時に、ビーチやデッキがあり、水遊びをする家族連れや、のんびり日光浴を楽しむ人がたくさん。そして、Astrup Fearnley Museumという現代美術館は、現代的ながら木を使った北欧らしい建築。そして、ビーチや海とうまく一体化している。建物と建物の間に設けられた水路をSUPで通り抜ける若者がいたり。建物も巨大すぎなくて良いのだろう。

Aker Brygge wharf

レストラン、様々な店舗、住宅、オフィスが混在。ミクストユースが図られたエリアだが、歩行空間に沿って、飲食店がずらりと並んでいる。歩行者目線では完全な商業エリアで、屋外空間だけでなく屋内通路でも、写真展やポップアップのファッションイベント、芸術・文化イベントが行われる。もともとは100年以上にわたって造船所があった場所。歩行者エリアに沿って並ぶレストランは、屋外座席数がなんと合計2,500!

Vippa Oslo

新たな食文化を発信するフードホール。派手な外壁に、飲食店とテーブルが並ぶ屋内ホール、屋外の座席は賑わいでいっぱい。見るからに楽しそうだ。

SALT

三角形の骨組みが印象的なアートプロジェクトであるのだが、飲食店も置かれている。音楽を聴きながら外で一杯、というのにも良さそうだが、色んなイベントの会場にもなるらしい。

The Norwegian National Opera & Ballet

オスロのオペラハウスは、中央駅から南へすぐのところにあり、Bjørvika地区の一角にあたる。Bjørvika地区は、かつて港湾施設が並んでいたが、これを現在は文化的な地区に変えているところ。新しいムンク美術館や中央図書館もこの地区に建設される。

オペラハウスの外観は海に浮かぶ氷河をイメージしたもので、内部もノルウェーらしく、木材をうまく使って、豊かな自然を連想させる雰囲気を作り出している。ノルウェーらしさ、オスロらしさを凝縮して、再開発地区のど真ん中に置いた、象徴的な目玉施設。設計はスノーヘッタ、2007年完成、2008年オープン。2008年の世界建築フェスティバル文化賞などを受賞し話題になったらしい。

建物の屋根がスロープになっていて、誰でも歩いて登れるようになっている。スロープは緩やかで、登るのも苦ではなく、ゆっくり歩いて上まで上がれる。途中で腰をおろして佇む人もいれば、遊んでいる子どもの姿もある。屋上まで上がると、オスロ・フィヨルドや市内が一望できる。こんな場所が普通に解放されているのだから素晴らしい。

Barcode

BarcodeもBjørvika地区に位置する。モダンな高層多目的複合ビルが12棟も建ち並び、それぞれ異なる外観で面白い。ビルとビルの間には、ある程度のスペースをとってあり、それがバーコードと呼ばれる理由。10,000人が働くオフィスなどのビジネス向け施設の他、400のアパートに、保育園も設置されている。また、1階部分にはレストラン、ショップ、ギャラリーなどの様々な店舗が並んでいる。

Barcodeからは、中央駅横のたくさんの線路を飛び越える歩行者用のAkrobaten pedestrian bridgeが架けられている。

Sørenga

海辺に話を戻して、Sørenga地区へは、オペラハウスから、建設中の新しいムンク美術館の横を通り、浮き橋を渡ってアクセスできる。このルートもthe Harbor Promenadeの一部。なんだかワクワクして楽しい。

かつては古いコンテナドックがあった場所。オスロ・フィヨルドの水辺という絶好のロケーションを活かして、カッコいい集合住宅が並ぶほか、カフェやレストランが適度に配置され、プロムナードが通る。そこに住む人にも、どこかからやって来た人にも、誰にとっても心地よい空間。

その先にはSørenga Seawater Pool、プールのように海水浴ができるデッキを備えた人気施設。そして、振り返ればオペラハウスやbarcodeが一望できる。

Sørenga bridge

海辺のプロムナードから少し離れるものの、Sørenga地区の中にもうひとつ面白いものがあった。もともと交通量の多かった橋を、一部を残して撤去して、その残った部分を公園のような、イベントスペースのような形に整備したというもの。その名もSørenga bridge。長さは全く違うけれど、ニューヨークのThe High Lineに似たようなコンセプト。

古い構造物を再生して、街の賑わいのために活用するというのは面白いんだけど、アクセスがあまり良くないこともあり、現在は中途半端な状態で放置されている印象。これからどのようになっていくのか、ちょっと気になる。

ちなみに、このプロジェクトには、DOGA(Design and Architecture Norway)という団体が関わっているらしい。この組織は、デザインと建築の力を使って、経済・社会・環境上の価値を高めていこうという目標を掲げており、世の中の課題解決に向けて、人々中心で総合的なアプローチをとるというデザインや建築の強みを活かしていくことを目指しているらしい。

フィンランドのことをある程度知った上でこういう話を聞くと、北欧ってお互いに参考にし合いながら、面白いことを考えているんだなと思ってしまう。

話を戻して、とにかく今、オスロのウォーターフロントが面白い。モダンにどんどん生まれ変わるだけではなく、うまく人間スケールの要素も取り入れられている。そして、生まれ変わったこのエリアは、あくまでも市民が中心に位置づけられている。工事がもっと進んだ姿も、いつかまた見てみたいと思う。

Vulkan(ヴァルカン)とGrünerløkka(グルーネルロッカ)

Vulkan地区

さて、話の場所を変えて、少し街の内陸側へ。中央駅から北の方へ行ったところ、Akerselva(アーケル川)の西側に広がるのがVulkan(ヴァルカン)。もともとは川を活かした工業地区だったところで、2009年から始まった再開発によって、とても活気のある場所に生まれ変わった。劇場、アートスクール、フードマーケットなどが並び、たくさんの市民で賑わっている。

Grünerløkka地区

Vulkan地区からアーケル川を挟んですぐ東隣のGrünerløkka(グルーネルロッカ)地区は、お洒落な雑貨店やカフェなどが並ぶ人気エリア。飲食店も公園も歩行者天国も、どこもかしこも人だらけ。日曜日のお昼時、ここにばっかり人が集まっているのかなというくらい。

Akerselva(アーケル川)周辺の再生

ということで、VulkanもGrünerløkkaも素敵なエリアだが、その中心を流れるアーケル川の存在は大きい。1970年代までは、周辺の工業化の影響などで汚染が酷かったらしいが、1980年代に地域主導で排出制限が行われるようになり、水質が改善していったのだとか。いまではとっても雰囲気の良い水辺空間を創出していて、地域の不可欠な公共空間になっている。

Kampen(カンペン)のレトロな街並み

モダンな建築がニョキニョキ増えているオスロにあって、この地区は19世紀からの木造住宅がたくさん残っているかわいらしい街並み。こういうエリアもちゃんと残されて、愛されているのも大切なこと。

Coffee story

最後に、ちょっとコーヒーの話を。フィンランドは、世界トップのコーヒー消費量を誇る国。それに比べると、ノルウェーは若干少ない消費量。でも、オスロの街のコーヒーショップは世界最先端。なんでも、バリスタ世界チャンピオンのお店というのがゴロゴロ転がっている。

雰囲気の良い店内で、ていねいに入れてくれたコーヒーをのんびり味わう時間というのが、とてもオスロっぽいと感じられる。駆け足の半日旅ながら、この時ばかりはゆったりした時間の流れを楽しんだ。

ブルーとグリーンに囲まれた都市

半日で見られるのはこのくらいが限度。でも、見ているととても活気があって面白い街、オスロ。自然がとても身近で、海を向けばフィヨルドのブルーが、街の周囲には木々のグリーンがすぐそこに。この街では、都市としての発展と自然環境とは切っても切れない関係だと感じられる。

どんどん生まれ変わる街でありながら、自然を最大限に尊重し、とにかく市民のための空間を作り続けている。これまであまり知らなかったオスロの姿は、訪れて初めて知る楽しい発見だった。


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Yoshito

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