Future of Mobility / ヘルシンキで感じるこれからの交通

ヘルシンキの公共交通

フィンランドの首都ヘルシンキは、現在の人口が約64万人。国内人口の都市部への移動や海外からの移住などにより人口は増加中で、2050年には86万人になるという想定が、ヘルシンキ市の都市計画の前提となっている。

人が増える分だけ住居や職場が必要となるので、市は計画的な都市整備を進めようとしている。都市の隙間を埋めるように新たな開発を進めたり、複数の中核拠点を整備したりするのと同時に、これらを公共交通でうまく接続するというのがザックリしたイメージ。自動車ではなく、公共交通機関が市民の足となる。

市は、Denser cityと表現しているが、スプロール化せずに濃密な都市にしていこうという発想で、郊外がこれからどんどん濃くなっていく。濃密になった都市では、自動車をむしろ減らさなければ都市交通が機能しない。地区内では徒歩で、地区間や都心部への移動は公共交通で。

既に、公共交通機関の整備は少しずつ進められていて、世界最北の地下鉄、ヘルシンキメトロは、昨年11月に西側への延伸区間を開業した。この先、さらに西へと延伸する第2期の事業なども計画されている。

現在、ヘルシンキ市内に10路線が走る路面電車も、さらなる整備が進められる方針で、将来的にはかなり充実したネットワークとする構想がある。既に実施が決まっている具体的な事業もあって、ひとつは、環状に走るバスの主要路線を置き換える「Raide Jokeri」線。これは、現在のトラムに比べると、より高速でより定員の多い車両が投入されるもので、トラムではなくライトレールとして区別されている。もうひとつは、一部で新たな開発も進むラーヤサロという島とヘルシンキ市中心部を結ぶトラム。こちらは、大規模な架橋を伴うもので、メインの橋が完成すればフィンランド国内最長のものとなる。面白いのは、橋を通れるのがトラムの他には自転車と歩行者だけということ(緊急時には、緊急車両が通れるようにするらしいけれど)。

ヘルシンキ市では、交通に関する優先順位を設定しており、次のような感じだそう。
① 歩行者
② 自転車
③ 軌道系交通(路面電車、鉄道)
④ 道路上の交通(バス、タクシー)
⑤ その他の商用車両(トラックなど)
⑥ 自家用車
新たに架ける橋に自動車を通さないというのは、それなりに議論があったというものの、大胆な決断だ。日本だったら通った案だろうか。

公共交通優先として浸透していることの例が、ヘルシンキ市内の主要な道路では、だいたい2車線のうちの1つがバス・タクシーの優先レーンになっているというもの。だから、渋滞が発生しようとも、バスはけっこうスイスイと進み、渋滞にはまる自家用車との差別化が図られている。また、ヘルシンキ市内は駐車料金のゾーンが設定されているが、2016年秋にはいちばん料金の高いゾーン1の範囲が拡大された。都市整備が徐々に進むのに合わせて、じわりじわりとマイカーが使いにくくなってきていると言える。

こうした方針は、交通部門からのCO2排出削減の目標とも連動していて、公共交通を中心にしたスムーズな交通体系が、環境面からも重視されている。フィンランドのまちづくりの話題では、何かと持続可能とか気候変動対策といったキーワードが登場するのだ。

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MaaS、Mobility as a Service

少しずつマイカーから公共交通へという流れが見られる中、ここ数年、MaaSという言葉が広がっている。Mobility as a Serviceのこと。IT系で聞かれる「as a Service」から分かる通り、自ら移動手段(マイカーなど)を所有しなくても、サービスとして提供を受けられるというもの。シェアリングエコノミーの時代のさらに先を行くような発想だ。要するに、各種交通手段(公共交通機関、タクシー、レンタカー、ライドシェア、シェアサイクルなど)を、予約から決済までを一体的に扱い、利用者のニーズに合わせて提供しようというコンセプト。

ユーザー目線で言えば、決済機能がついたジャーニープランナーのスマホ用のアプリと思えばだいたい良いかもしれない。それ自体は、驚くほどのアイデアではないかもしれないけれど、いざ仕組みを作ろうとすれば、心が折れそうになる事業者間の厄介な調整が多そうだ。例えば、交通事業者が、オペレーター(アプリ側の事業者)にデータを共有する仕組みなどが必要だから。

でも、そこはフィンランド。先端技術に敏感で、自らを「テストベッド」と称するこの国では、持てる技術を積極的に取り入れるための考え方、とりあえずやってみる行動力、そういうフットワークの良さが感じられる。「まず試してみる」ことが、次のイノベーションにつながっていくのだ。

ちなみに、ヘルシンキ地域交通局は、4月から、チケット販売のAPIを公開する。このあたりの制度づくりは、政府も力を入れて進めているところ。

現在、モバイルアプリ「Whim」により、MaaSを提供するオペレータとして最先端を走るフィンランド企業が「MaaS Global」。彼らの言葉を借りながら、大雑把に表現すると、次のようなことを考えているらしい。

 その昔、移動とはA地点からB地点へ行くことだった。なぜなら、移動のための選択肢がほとんどなく、目的地にたどり着ければ良かったから。だが、ヘンリー・フォードによって、夢だったマイカーは、大衆の手の届くものとなり、移動の意味するところが変わった。人々は、自分が行きたい場所へ自由に行けるようになった。そして、運転とは楽しいものだから、クルマを買うことは、夢を買うことになった。

 だが、考えてみれば、「夢」にあまりにもお金を使っている人が多い。少し良いクルマを買おうとすれば、何割も高価になる。クルマの維持にもお金がかかる。最近、そのことに気づく人が増えてきた。日本でも海外でも、若者を中心に自動車離れが進んでいる。都市部では公共交通機関という代替手段があるし、酷い渋滞にはまって時間を浪費するのを嫌がる人も多いだろう。そして、最大の理由は経済面。

 モバイル通信と比較と比較すると分かりやすい。例えばフィンランドでのコストをざっくり考えると、携帯電話に月額30ユーロ、マイカーには平均すると月額300ユーロくらい使っているイメージ(これを「ARPU:average revenue per user」と呼ぶのだとか)。これは、世界全体で考えると、9兆ユーロの市場規模なのだそう。

 ところが、自動車が実際に動いているのは5%にも満たない僅かな時間だけで、残りは単に駐車されている。1台ごとの使われ方の効率も悪ければ、駐車スペースも無駄。こうした歪みにイノベーションの可能性とビジネスチャンスが存在する。クルマという、都市においては非効率な移動手段に大きなコストを割く代わりに、これを代替する手段さえ提供できれば、というようなこと。

この、モバイル通信とモビリティを同じ構造で捉えるという発想、なかなか面白い。「運輸」と「通信」を同じ省庁が一体的に見ているというこの国では、別に特別なことではないのだろうか?

もちろん、MaaSは公共交通の充実した都市部でないと今すぐ導入するのはかなり難しいだろうし、お金がかかってもクルマへの憧れを諦められない人もいるだろう。フィンランド人は、人里離れたサマーコテージにも行かないといけない(これはほぼ必須)。そして、少なくとも街の中では、複数の移動手段をシームレスに使って、任意の2地点間をストレスなく移動できる仕組みが必要である。ユーザー毎に異なる事情に合わせて、コストやスピードの観点から複数の選択肢を用意できることも重要。それでいて、煩わしくなくて分かりやすいことを実現するのは、けっこう大変そうだ。

でも、都市ではマイカーを持たなくてもよい、というのは画期的。ヘルシンキでは2025年までに、マイカーを所有する必要がない状況に持っていくという構想も聞かれる。

こうした発想は、国をあげて「デジタル化」に取り組むフィンランドならでは(地下鉄やトラムが改札を必要としない信用乗車方式なのも意外と大きいかもしれない)。ICTの進んだこの国で、デジタル化の波が交通分野にも押し寄せたという状況。失敗が許されないのではなく、とりあえずやってみて、改良を加えていこうという雰囲気も後押ししている。モバイル通信だって、最初は今ほど使い勝手が良くなかったけど、やっているうちにここまで来た。5GやIoTでもっとすごい時代がすぐに来る。MaaSだって、やってみればどんどん良くなるはず。

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未来の交通

現状の交通機関をベースにすれば、MaaSとは、公共交通の優れた都市部での話と聞こえる。ところが、もしここに、自動運転などが加わってくるとどうだろう。例えば、任意の2地点間を無人で走るオンデマンド型の車両があれば、必ずしも公共交通機関が発達していない地方でも、少ないバスや自転車と一緒になって十分に機能し得る。これからの技術革新次第では、あらゆるところでMaaSが実現していくかもしれない。

ヘルシンキ地域交通局は、少し前にオンデマンド型バスの実験を行っていたし、国内複数のサイトで自動運転車両の走行実験も行われてきた。先進的な取り組みがバランス良く並行して進められている。

モビリティをテーマにしたイベントもよく見かける。下の写真は世界的なスタートアップの祭典「Slush」のサイドイベントに、現職大臣まで参加した時の様子。こうやって真剣に議論して、柔軟なアイデアをみんなで発展させ、社会全体でより良い交通を目指している。Co-creationというのもフィンランドでよく耳にする言葉のひとつだが、交通の分野でもあちこちで協働が感じられる。Talkootという、助け合いながら共同作業をする文化が根付いている国だからだろうか。

とにかく、MaaSと自動運転、この2つがともに発展するとしたら、未来の交通がなんとなく想像できそうだ。フィンランド人は、想像したことが実現するのを信じる力も強い気がする。

ただ、忘れてはいけないのは、徒歩と自転車が基本だということ。高度な交通を考える前に、Walkable CityとBicycle Networkは、交通と賑わいの両面から常に重要だと意識したい。実際、ヘルシンキでも真剣に扱われていて、ここ数年は自転車インフラへの投資が大きくなっている。

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日本のこれから

そんな中、前述のMaaS Globalには昨年トヨタグループの企業が出資を行った。1月にラスベガスで開催されたCES 2018では、トヨタがこれまでの自動車を作る会社から、人の移動に関する「モビリティ・カンパニー」へと変わっていくと宣言。プラットフォームを構築して、サービスを提供する企業を目指すということか。自らの枠の中で考えるのではなく、変わり続ける社会に合わせて、ビジネスの仕組みを移行しようという意識が頼もしい。

こういう動きが加速して、未来の交通は、車両などのハードをソリューションとして提供するというよりも、移動そのものがサービスの対象となり、その質をどう高めるのかという概念に変わっていくのかもしれない。

この先どう展開するのか、世界がどう反応していくのか。加えて、日本の都市の交通も同じく急速に変わっていくのか、さらには、クルマに頼って疲弊した地方の交通を変えられるのかなど、興味は尽きない。少なくとも、個々の市民がそれぞれ自分のクルマを所有しなくてよくなれば、地域の余力を生み出すことになる。その余力を、交通の利便性を高めながら活性化につながるように使われるスパイラルに持ち込めるだろうか。さらに、ビジネスだけではなく、MaaSの仕組みに地域の助け合い精神を組み込めるだろうか。その時、クルマはどうなっているだろうか。未来のクルマはどう使われているだろうか。色んな疑問にきれいに答えながら、地域を救ってくれるようなイノベーションが見られたらと思う。

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Kiitos!(ありがとうございます)
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Yoshito

ヘルシンキってこんな街、 フィンランドってこんな国

ヘルシンキと、フィンランドで気になったことを書いています。
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