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ブラックボックス/ポルカドットスティングレイ(ディスクレビュー)

このバンドは、ポルカドットスティングレイというバンドは、本当に展開のリフレインが少ない。フレーズとしての印象的なギターリフやサビのメロディーは様々な曲で個々の目的を持って繰り返し使われているが、ひとつの曲の中で展開を繰り返したり、展開と展開を結びつけるフレーズを無闇に使いまわしたりはしない。
日本のポップソングにありがちな、AメロBメロサビ・間奏・またAメロBメロサビ・ギターソロ・ラスサビ・アウトロ・・みたいな型は、王道が故、予想できる展開の中で歌詞に変化をつけたりボーカルに少しアレンジを加えることで、オーディエンスがその中にアーティストの考え方やセンスを見出していく。予測できるからこそ、アレンジされたメロディに、練り上げられた歌詞に心を奪われていき、その曲に自らを重ねたり勇気づけられたりする。
だがポルカドットスティングレイはアプローチが違う。まるで物語は繰り返さないと言わんばかりに、展開を、展開と展開の繋ぎ目を再利用しない。一度タイムリープしたら別の物語をみてやるんだと、転生した先で細かなマルチバースをいくつも生み出しながら物語を進めていく。予測できない現実の中で、繰り返せない人生の中で、進むしかないという覚悟と、それなら変化し続けていこうという洒落を滲ませながら。
本曲、ブラックボックスの中でもその傾向は顕著で、それぞれのフレーズと展開の組み合わせのバリエーションがいくつも搭載されている。ぐるぐると回るような感覚を助長するギターリフをメインに繰り返しながら、イントロと間奏ではど真ん中でリフを奏でているギターが、メロディが始まって数小節後に帰ってきた時には左右に分かれてそれぞれ違うフレーズを奏でて左右に振り回してきたり、メロディとは無関係なところで楽器陣がシンコペーションを多用してテンポ感を撹乱したりして、地に足がつかない不安な感覚を強めていく演出が光る。
メロディーラインでは、漢字や熟語をそのままに音の中に入れ込む抜群のアレンジセンスで、短い熟語を音として紡いでいき、短文がゆえ物語の全体像があえて見えないような不透明な世界観に一気に連れて行ってくれる。何かが起こっているんだろうけれど、ピントが手前に合いすぎていて遠景が見えずに、目まぐるしく変化していってしまっているという感覚を歌詞世界がいち早く作り上げ、その不安さや不安定さを展開のバリエーションがさらに色濃いものにしている。
わかりやすさを追求して、予測できる世界で予想できる楽しさを享受するだけでなく、ブラックボックスの中の不確定な現実に振り回されながら、変化し続けながら新鮮な感情を新鮮に使い捨てながら走り続けていく。そんな覚悟を、音楽という、繰り返し体験することを前提とした芸術であえて挑戦していく選択はこのバンドにしかできないし、だからこそ、次々と放たれる新曲を聴くことがより一層楽しみになる。

ブラックボックス (Black box) とは、内部の動作原理や構造を理解していなくても、外部から見た機能や使い方のみを知っていれば十分に得られる結果を利用する事のできる装置や機構の概念。転じて、内部機構を見ることができないよう密閉された機械装置を指してこう呼ぶ。

wikipedia

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