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信長島の惨劇 田中啓文著 ハヤカワ時代ミステリ文庫(2020年12月発行)

正統なミステリやおバカなミステリで有名な著者で、いつもおバカな方の作品しか読んでいなかったのですが、今回はあまりにも意表をついた設定なので思わず手に取りました。

本能寺の変で織田信長が明智光秀に討たれてから十数日後。死んだはずの信長を名乗る何者かの招待により、羽柴秀吉、柴田勝家、高山右近、そして徳川家康という四人の武将は、三河湾に浮かぶ小島を訪れる。それぞれ信長の死に対して密かに負い目を感じていた四人は、謎めいた童歌に沿って、一人また一人と殺されていく―。アガサ・クリスティー『そして誰もいなくなった』にオマージュを捧げた本格時代ミステリの傑作。

文庫裏表紙

勝家はともかく他の三人は死んじゃあかんだろう、どうするんだろう、「パラレルワールドおち」かなあ、「夢おち」かなぁと思いながら読み進めました。他にも蘭丸とか千利休も登場します。おいおい。

ミステリなので詳しくは書けませんが、歴史的事実とされている事柄や、俗説として伝えられている事柄とまったく矛盾せず、そして上記のような「逃げ」もなく、正々堂々とした事件?と推理が繰り広げられます。

といっても突然外から名探偵がやってくることもなく、武将の中の一人が推理役を務めるのですが。今回の面白さは推理の展開というより、呼び寄せられた武将全員が信長に対しての何らかの「遺恨」をもっているということでしょうか。

本来このような「孤島物」では、一見して何のかかわりもなさそうな人たちが次々と殺され、名探偵が犯人と同時に被害者の関係性を暴くところに醍醐味があるのですが、その関係性が最初から明らかにされていて、それがこの物語の読みごたえを支えているとも言えます。

「家康は知ってるけど他は知らん」という人には純粋なミステリとして、「全員のことをそれなりに知っている」人にとっては、歴史と今回のミステリとの巧妙な整合性を楽しめると思います。

読後感は「やるなぁ」という一言につきますね。お勧めです。


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