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【企業分析】Atlassian

TEAM (NYSE)
時価総額:300億ドル
株価:208ドル
売上高: 28億ドル
営業利益:▲1.1億ドル
(2022年)

事業内容: ソフトウェア開発ツールの提供
設立年:2002年、2015年上場
本社: オーストラリア🇦🇺シドニー
代表者: Shona Brown (会長)、Scott Farquhar (共同CEO)、Mike Cannon-Brookes (共同CEO)
従業員数: 8,813人

概要

Atlassian(アトラシアン)はソフトウェア開発ツール、コラボレーションツールを提供するオーストラリアのソフトウェア企業です。 現在、全世界で75,000社を超える企業がAtlassianの製品を利用して、ソフトウェアやサービスを生み出しています。

シドニー新本社(2025年に竣工予定)

シドニーに新たな本社となる世界一高いハイブリッド木造ビルを建設すると発表した。

 ビルは高さ180メートルの40階建てで、建設には軟木材を何層にも重ねて圧縮した構造材が使われる。正面部分はガラスと鉄製の装飾が施され、最上部には屋上庭園が設置される。

アトラシアンは2002年、当時大学生であったマイク・キャノンブルックスとスコット・ファークァーによって、次世代ビジネスにとって不可欠となるソフトウェアを自らつくりあげることを目標に設立されました。

設立当初から、営業担当を置かずに製品力と顧客の口コミによる拡散で事業を拡大してきました。2015年にはナスダックに上場、スタートアップといえばシリコンバレーが拠点とされる中で豪州企業のアトラシアンは注目を集めました。

上場後はさらにグローバル化を推進し、現在では世界13ヶ国に8,000人以上の従業員を有し、時価総額3兆円を超える世界有数のSaaS企業に成長しています。また、これまでに20社以上の企業買収を実施しており、新たな製品や優秀な人材を取り込みながらアトラシアンとして統合し、継続的に成長を実現しています。

プロダクト・ビジネスモデル

アトラシアンの顧客はバンク・オブ・アメリカ、レッドフィン、NASA、ベライゾン、Dropboxなど230,000社を超えています。

顧客企業はプロジェクト管理、コンテンツ作成・共有やサービス管理ツールを利用することでチーム・コラボレーションを実現し、期限内に質の高いサービスや製品を提供することができます。

主要製品はJira Software(ソフトウェア開発プロジェクト管理)、Confluence(コラボレーション)、Trello(タスク管理)、Bitbucket(ソースコード管理)、Jira Service Management(ITSM/ESM)、Jira Work Management(ビジネスプロジェクト管理)、Jira Align(エンタープライズ・アジャイル・プラニング)などがあげられます。

「フライホイールモデル」安定成長を実現

アトラシアンは、顧客を軸とした製品ディストリビューションサイクルを基盤とする「フライホイールアプローチ」と呼ばれるビジネスモデルを採用し成長を遂げました。

始点となるのは圧倒的な製品力です。製品が魅力的で顧客を惹きつけることができれば、顧客やファンによる口コミで製品が広まります。そこに、製品について学びやすく、買いやすい環境が整えば、自ずと製品ディストリビューションサイクルが出来上がり、ビジネスが回り始めます。

そのために、顧客自身が製品について判断できるよう情報を公開し、購入もオンラインショッピングのように顧客が容易にできるよう仕組みを整えました。エンタープライズ・ソフトウェアは従来、販売交渉や営業サイクルが長期に渡るのが一般的であったところ、アトラシアンは大口取引を優先することなくどの企業も同一に扱い、値下げをしない販売スタイルを基本としてきました。

こうして顧客のセルフサービスを阻害する要因を取り除く方針を貫き通すことで、「エンタープライズの罠」に陥らないように心がけました。このようなビジネスモデルは、当時の伝統的なソフトウェア企業の販売アプローチとは異質でありましたが、アトラシアンの成長を支える最大の要因となっていることから、今日では多くのスタートアップやSaaS企業が指針とするようになっています。

コーポレートバリューでフライホイールを強化

アトラシアンでは、創業20周年を迎えた今も変わらない、組織そのものを示す以下5つのコーポ―レートバリューを掲げています。出荷するあらゆるソフトウェアの機能、発売するすべての製品、すべての投資は、あらゆるチームの可能性を解き放つことに集中しており、すなわち、これらは、フライホイールを強化する価値観でもあります。

営業に依存しないAtlassianの成長モデル

伝統的なエンタープライズソフト企業であるMicrosoft、Oracle等、そしてSaaSの王者であるSalesforce.comやWorkday。SaaSの成長モデルは、顧客の生涯価値(LTV)が獲得コスト(CAC)を上回るという前提において、営業/マーケに多大なる投資を行い、その資本効率を競うことで成長してきた。しかし、Atlassianは全く異なる戦略により成長を遂げてきた。

主要SaaS企業のIPO時の営業・マーケティング費用比率を下図に示す。

SaaSの上場企業のS&M%は平均37-38%といわれる中で、Atlassianは19%と圧倒的にS&Mへの投資が少ないことがわかる。これは急成長SaaS企業としては異色な例と言える。背景にはどのような成長戦略があるのか?

全ては圧倒的に優れたプロダクトから始まる

顧客は、ソフトウェアに限らずプロダクトを購入するか否かを考える際に、「口コミ」を最もあてにする。そのため、Atlassianでは、シード期から、口コミを最も重要な顧客獲得のチャネルと考えてきた。つまり、Atlassianの初期の戦略的な素晴らしさは、口コミを戦略的に活用したセルフ・サーブ型であり、オンラインで勝手に売れる優れたプロダクトにこだわったことだ。

しかし、これを成し遂げるには2つの要素が必要だ。
1つ目の要素は、「圧倒的に優れたプロダクト」だ。USテック業界の大物であるSeth Godlin曰く、"顧客に口コミさせる、つまり人に優れていると評価してもらいたいなら、評価に値するだけの優れたプロダクトでなければならない"と語る通り、優れたプロダクト無しでは口コミでの拡大はあり得ない。

2つ目の要素は、そのプロダクトの素晴らしさを積極的に社内外に喧伝してくれる、「熱狂的な顧客基盤」があることだ。これを実現するために、Atlassianは、プロダクト-マーケティング-顧客間でフィードバックループを徹底的に回し、顧客の引っかかるポイント(=摩擦)を徹底的に潰した。具体的には、どの顧客セグメントがどういった摩擦やペインを持っているのか、AdWordsを使い倒して、徹底的に調べ上げ、熱狂的な顧客になりそうなセグメントも設定した。

Atlassianの成長モデル:Flywheel

FlywheelはAmazonの成長モデルとしても有名だが、ロー・タッチ(営業リソースをかけずオンラインで売る)を主軸とした成長モデルだ。以下に、AtlassianのFlywheelモデルを示す。

なぜロー・タッチが現代において重要なのか?
10年前と現在とでは、B2Bにおける顧客のソフトウェア購入の仕方は全く違う。Googleで検索し、友達に相談し、職場の同僚に話をする。そんな感じではないだろうか。

現代では、既に昔のサプライヤー有利の時代からシフトしている。つまり、供給量が制限され、サプライヤーが顧客を支配する時代から、供給量が無限で、顧客がサプライヤーを支配する時代になったということだ。(これは、SaaSがカスタマー・サクセスを謳う背景でもある。)

この新しい時代において、顧客はプロダクトや企業に関する知識、周りの評判やイメージを全て知った上で購買サイクルに入ってくる。顧客は自ら勝手に学んでくる。それどころか、フリミアムでプロダクトを一通り使い倒してるかもしれない。そんな時代に、営業電話1つで顧客を獲得しようというのは、最も有効な方法とは言えない。むしろ顧客にさっさとプロダクトを使ってもらって、価値をいち早く理解してもらう方が有効だ。

価格をオープンに、透明にすることのメリット

SaaS企業は、普通はオンライン上で価格をオープンにしたがらない。何故なら、競合に価格を知られて価格競争に陥りたくないし、大型ディールでもっと高いカネが取れるのに、それを取りこぼすことにもなるからだ。それに、エンタープライズ顧客の値下げ交渉の材料を与えることにもなる。

この価格に対しても、Atlassianは特有の考えを持っている。Atlassianのプライシングのゴールは、顧客が営業の交渉プロセスに巻き込まれることなく、すぐ、カンタンに使いやすくすることだ。(顧客がクリックしたら、即購入できて、すぐ使える、みたいな。)

社長Jayは以下の通り説明している。

"顧客の最も引っかかるポイント(摩擦)は、コスト(=価格)だ。

どのソフトウェア企業も価格を公開したくない。そうなると顧客は、企業にコンタクトせざるを得なくなる。これが摩擦を生んでいる。
この背景にある、ソフトウェア企業側の心理は、こんな感じだ。

「確かに、価格を非公開にして顧客を怖がらせたくない。ただ価格先行になってほしくない。顧客の課題を理解して、プロダクトの価値を説明してからじゃないと、顧客にこの価格は妥当ですよ、とは説得はしにくい。」

そのため、Atlassianは敢えて、この価格に対する顧客の摩擦をなくし、透明性を維持することにフォーカスしている。そのため、ディスカウントや支払条件の交渉には一切対応しない。例え、それが顧客にとって高価格だとしても。結果、セールススピードは速い。例えば、エンタープライズ顧客が、アカウント10人分に1万ドルで使い始める時も、僕らと話す必要性は無い。”

企業の変革支援に不可欠な3つの領域に対応する製品とソリューション

アトラシアンでは、技術と市場の変化にスピーディーに適応して永続的に変化し続けられる企業となることを支援する幅広い製品ラインアップを提供しています。現在は、以下の3つの領域に注力し、企業がデジタル化と様々なトランスフォーメーションに対応できるよう支援しています。

ソフトウェア開発

アトラシアン最初の製品であり、現在も主力製品でもあるJira Softwareは、デジタルトランスフォーメーションに欠かせないアジャイル開発を採用している世界のソフトウェア開発チームに、最も支持される開発プロジェクト管理ツールへと成長を遂げました。また、開発チームが必要とする多様なサードパーティー製ツールとの統合を数クリックで自動化することができ、多様なツールチェーンをオールインワン製品のように扱うことを可能としています。

関連製品/ソリューション:Jira Software, Jira Align, Jira Product Discovery, Bitbucket, Compass, Open DevOps

ITサービス管理

ビジネス市場の激流に合わせてITサービスの開発や運用に俊敏性が求められるようになるにつれ、ITサービス管理とソフトウェア開発の境界は融合し始めています。歴史的に分断されてきたIT部門間の壁を取り除き、事業活動を支える複数部門のシームレスなワークフローやインテリジェントなコミュニケーションを可能にするエンタープライズサービス管理ソリューションを提供することで、社内外への俊敏なITサービス提供をサポートしています。

関連製品/ソリューション: Jira Service Management, Halp, Statuspage, Opsgenie

ワークマネージメント

最近では変化に応じて優先順位やアプローチを迅速に変えながら意思決定を行うチームづくりが重視されるようになっています。アトラシアンは、変化に柔軟に対応するためのアジャイル開発チーム向けの製品開発の知見を活かし、ビジネスに関わるあらゆるチームが、在宅やリモートを含むハイブリッドな環境において、仕事に関する計画、進捗管理、情報共有を行うことができる、モダンなチーム・コラボレーションの実現を支援しています。

関連製品/ソリューション:Confluence, Trello, Jira Work Management

新たな働き方の中で育むチーム・コラボレーション

アトラシアンの共同創業者兼共同最高経営責任者であるスコット・ファークァーは次のように述べています。「アトラシアンは、画期的なアイデア、強い価値観、そして素晴らしいチームワークの上に成り立っています。20 年の歴史の中で多くのことが変化しましたが、私たちの価値観とミッションは変わりません。

20周年は、お客様が様々な方法でともに働き、あらゆる可能性を解き放つことできるよう努めてきた当社のチームによる功績でもあります。次の20年に向けて、お客様一人ひとりがその時代にあったチームワークの未来を指南できるような製品を世の中に送り出せることに喜びを感じています。」

コロナ禍の中で多くの日本企業の働き方はリモートワークやハイブリッドワークへと急速に移行しました。アトラシアンが2021年に実施したグローバル調査では、オフィスで一同に介さないことから以前のようにチームワークを醸成することが困難になったことが明らかになっています。

調査によると、世界では58%がチーム内で強い一体感や結束力を感じていると回答しているのに対し、日本でそう感じるのはわずか27%に留まっており、その割合は2020年の32%からも減少しています。日本企業ではチーム・コラボレーションを育み、企業のトランスフォーメーションやイノベーションを推進することが他の国と比較しても難しいことがわかります。

アトラシアンは創業来20年間、個人の力は大事ですが、チームになればそれを凌ぐ素晴らしい成果を生むことができると信じて事業を展開してきました。

市場動向

SaaS業界の市場シェア・市場規模の分析

SaaSとは

Software as a Service(ソフトウェアアズアサービス、サーズ)の略です。文書作成、ファイル作成、表計算、会計、財務、ERPといったソフトウェアをクラウド上で提供するサービスの総称です。派生形の用語として、サーバーをクラウドサーバーとして提供するIaaS(Infrastructure as a Service、インフラストラクチャーアズアサービス)、開発者向けのミドルウェアをクラウド上で提供するPlatform as a Service(PaaS、プラットフォームアズアサービス)などへ細分化できます。

世界シェア

SaaS運営会社の2021年度の売上高を分子に、後述する市場規模を分母にして、2021年のSaaS業界の世界市場シェアを簡易に計算すると、1位はマイクロソフト、2位はオラクル、3位はSAPとなります。

マイクロソフト、オラクル、SAP、セールスフォースがSaaS分野の大手4社となります。

1位のマイクロソフトはビジネス用ソフトウェア(ワード、エクセル、パワーポイント)や基幹OSであるWindowsのSaaSを推進しており首位となっております。

2位はデータベース管理ソフトに強みを持つオラクルです。

3位は企業向けのERPに強いドイツのSAPです。

4位はCRMアプリケーションのSaaS提供を切り開いてきたセールスフォースです。各社ともに強みとするソフトウェアの領域が異なることが特徴です。

市場規模

調査会社のビジネスリサーチカンパニーによると、2021年の同業界の市場規模は2122億ドルです。2022年にかけて年平均13.4%の成長を見込みます。

また調査会社のスタティスタによると、2020年の同市場規模は1570億ドルです。前年比11.3%での成長となっています。

マイクロソフトのOffice365に代表される販売方法の変化(Officeソフトウェアの切り売りからSaaS型のサブスクリプションサービスへの移行)は今後も継続し、さらにパブリックやプライベートクラウドを通じての人工知能(AI)サービス、機械学習、既存のサービスのデジタル化の進展はSaaSにとっても追い風となります。

業績

売上高(セグメント別)の推移

FY2021(2020年7月-2021年6月期)の売上高は20.9億ドルと、前年度比+29.4%、過去5年間で年率+35.5%となりました。

2022Q1(2021年7−9月期)の売上高は6.1億ドル(前年同期比+33.6%)と、コンセンサス(5.9億ドル)を上回りました。

セグメント別の売上高は、以下の通りです。

・サブスクリプション:4.4億ドル、前年同期比+57%

・メンテナンス:1.3億ドル、前年同期比+2%

・その他:0.5億ドル、前年同期比+52%

セグメント別の売上高構成比は、サブスクリプションが71%を占め、ライセンスからの切り替えが進みました。

顧客数は21.7万件(前年同期比+18%)となりました。

利益の推移

FY2021の非IFRS 営業利益は5.2億ドルと、前年度比+40.3%、過去5年間で年率+46.4%となりました。

非IFRS 営業利益率は24.8%と、前年度の22.9%から改善しました。

FY2021の非IFRS EPSは1.40ドルと、前年度比+21.7%、過去5年間で年率+32.0%となりました。

キャッシュフローの推移

FY2021の営業キャッシュフローは8.4億ドルと、前年度比+46.5%、過去5年間で年率+45.4%となりました。

営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は40.3%と、前年度の35.6%から改善しました。

FY2021のフリーキャッシュフローは8.1億ドルと、前年度比+50.0%、過去5年間で年率+53.3%となりました。

フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は38.7%と、前年度の33.4%から改善しました。

株主還元(配当、自社株買い)の推移

株主還元の実施はなしです。

(参考)過去5年間の発行済株式数

発行済株式数は、過去5年間で年率+5.2%となりました。

経営者 

同社の2人の創業者兼CEOのマイク・キャノンブルックスとスコット・ファーカー。

「アトラシアン(Atlassian)」創業者のマイク・キャノンブルックスとスコット・ファーカー(c)Atlassian

オーストラリア出身の2人は、ニューサウスウェールズ大学在学中に知り合った。大学では、2人とも同じ奨学金を授与されていたという。キャノンブルックスは、在学中に友人数名にメールを送り、一緒に起業する仲間を募ったところ、唯一了承したのがファーカーだったという。

2人は卒業後、スウェーデンのソフトウェア企業向けに外部サポートを提供し、自宅でプログラミングを行ったという。しかし、この事業は規模拡大が困難だったため、試行錯誤を重ねた結果、バグトラッキングシステム「Jira」の開発に行き着いたという。

彼らはシドニーに住みながら海外展開ができるよう、Jiraをオンラインで購入できるようにしたところ、世界中の技術者チームから注文を受けるようになり、ビジネスは急成長を遂げた。その後、アトラシアンは情報共有アプリ「Confluence」や、スラックに似たチャットツール「Hipchat」などを開発し、今では多くのコラボレーションツールを提供している。

キャノンブルックスは「グローバル・ゲームチェンジャーズ」に選出された際、長期ビジョンについて次のように述べている。

「今から10年後、私とファーカーはまだ47歳で、バリバリ仕事をしているだろう。我々は、10年単位で世界について考えるようにしている」

財務状況

株価推移

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