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コロナでDVは増えたのか (4)

 投稿(1)から(3)では、配偶者暴力相談支援センター、内閣府のDV相談プラス、警察における相談の状況について確認しましたが、DV被害があってもこうした公的機関に相談しない被害者がいることを踏まえると、相談件数は、DV被害そのものの増減を把握する上では限定的な指標といえます。
 そこで、ここでは、相談件数にはあらわれない被害実態を把握するため、内閣府が全国の男女約5,000人を対象に3年に1回実施している実態調査である「男女間における暴力に関する調査」の結果をみていきます。最新の調査は、2020年11月下旬から12月下旬にかけて実施されたもので、まさにコロナが発生している状況下において調査されたものとなっており、コロナ禍でのDVの被害実態を把握する上で貴重なデータとなっています。

1.DV被害の相談状況

 はじめに、DV被害の相談状況をみると、全体で約半数の人が相談していないことがわかります。男女別では、女性は約4割、男性は約6割が相談していない状況となっています(図1)。

図1

 では、相談した半数の方が、具体的にどこ(誰)に相談しているのか、その相談先を確認します。
 多くの方が、家族・親戚や友人・知人などの身近にいる人に相談しています。一方で、警察や配偶者暴力相談支援センター・男女共同参画センターなどの公的機関への相談は非常に限られています(図2)。

図2

 これまでの投稿で、配偶者暴力相談支援センターや警察における相談件数を確認し、過去最高を記録していることなどについて述べてきましたが、こうした相談件数が被害者による相談のごく一部であることがわかります。このように、相談機関につながらない多くのDV被害者が潜在的に存在していることを理解しておく必要があります。

2.DV被害の経験率

 それでは、実際にDVの被害は増えたのでしょうか。これまでのDVの被害経験(「何度もあった」および「1,2度あった」の割合)について、性・暴力類型別に、前回の調査(2017年度)と比較してみると、男性の心理的攻撃のみほぼ横ばいですが、それ以外は減少傾向を示しており、全体としてはDVの被害経験は減少したという結果になっています(図3)。
 なお、ここでの暴力類型は、以下のように4つの類型に分類しています。

●  身体的暴行(例えば、なぐったり、けったり、物を投げつけたり、突き飛ばしたりするなどの身体に対する暴行)
●  心理的攻撃(例えば、人格を否定するような暴言、交友関係や行き先、電話・メールなどを細かく監視したり、長期間無視するなどの精神的な嫌がらせ、あるいは、自分もしくは自分の家族に危害が加えられるのではないかと恐怖を感じるような脅迫)
● 経済的圧迫(例えば、生活費を渡さない、給料や貯金を勝手に使われる、外で働くことを妨害されるなど)
● 性的強要(例えば、嫌がっているのに性的な行為を強要される、見たくないポルノ映像等を見せられる、避妊に協力しないなど)

図3-1

図3-2

 この結果から、コロナ禍ではDVは増えていないどころか減少したということになるのかというと、すぐにはそのような解釈にはなりません。
 なぜかというと、ここでの質問は、「これまでに」DVを受けたかどうかという聞き方をしており、つまり、10年前や20年前の被害も含まれますので、"コロナ禍"での被害だけではないということになるからです。

 その点に関しては、これまで被害経験があったと回答した方に対して「過去一年間」の状況についても質問しており、調査時期を踏まえると、ちょうど日本国内において感染が拡大し始めてからの期間(おおよそ2020年1月~12月)の状況を確認することができます。
 この結果についても、前回の調査(2017年度)と比較してみると、図4のようになっています。

 DVの被害経験(「何度もあった」および「1,2度あった」の割合)は、男女ともに全体としては微減していますが、暴力類型別では、女性において身体的暴行と性的強要は増加しており、男性でも性的強要が増加しています。

図4-1

図4-2

 さらに、性・年齢別にみてみると、20代と30代の女性、40代の男性で増加しています。
 「これまでの経験」でみると、男女ともにすべての年代で減少し、特に、20代での被害経験が大幅に減少(31.0→16.7)していることを踏まえると、これらの年代において、過去一年間で被害を経験した割合が相対的に大きかったことが推察されます。
 また、暴力の4類型における重複の状況を確認すると、「重複あり」の割合は、特に女性において、30.5%→43.1%と大幅な増加がみられ(男性は28.0%→28.6%)、複合的なDV被害が増えたことがわかります。

図5-1

図5-2

 さらに、これまでDVの被害を受けたことがある人のうち、命の危険を感じたことがある者の割合は男女ともに増加しました。
 DVの被害経験が全体で減少する一方で、「重複あり」が増加していることと併せて考えると、被害を受けていた(いる)一部の人については暴力の深刻度が高まったと言えるかもしれません。

図6

3.小括

 ここまでのことをまとめると、おおむね以下のようなことが言えます。

・ 相談件数としてあらわれているのは被害のごく一部であり、相談機関につながらない多くのDV被害者が潜在的に存在している
・ コロナの発生期間中(2020年)のDVの被害経験(女性)は、コロナ発生前(2017年)と比べて、全体としては微減する一方で、身体的DVや性的DVの増加、20~30代での被害増がみられた
・ 複合的なDVや命の危険を感じる深刻なDV被害が増えた

 これまで、調査結果から様々な傾向がみられることを述べてきましたが、最後に、本調査結果の解釈する上で留意すべき点を補足します。
 冒頭で説明したように、本調査は男女約5,000人を対象としたサンプル調査となっており、当然ながらその時々で調査対象者が変わります。回答者の属性をみると、前回調査と比べて、男女とも20代の回答者が増えた、4年制大卒者の割合が増加したことに加えて、女性について勤め人(常勤)が増加し専業主婦が減少した、収入100万円未満が減少し200~400万円未満が増加したといった特徴がありました。集計表の結果からこうした点の影響の程度を推し量ることは難しいですが、少なからず調査結果に変化を及ぼし得る背景として押さえておく必要があります。


(注1) ここ(本調査)でのDVとは、婚姻届を出していない事実婚や別居中の夫婦も含む配偶者からの暴力のことをさします。
(注2) 個人的には、DVが継続的に行われるものであるとの前提にたつと、過去に「1,2度あった」ことのみをもってDVの被害と断定してよいのかという点でやや疑問がある。暴力が重複する形で、心理的DVがあるなかで、身体的DVが1,2度あればDVであると考えるが、例えば、1,2度相手のメールを確認したことをもって心理的DVと言えるのかどうか。実際、本調査において、他のDVとの重複がない心理的DVのみの被害は、女性で約3割、男性で約5割を占める。

【引用・参考文献】
内閣府男女共同参画局(2021)『男女間における暴力に関する調査報告書(令和3年3月)』
内閣府男女共同参画局(2018)『男女間における暴力に関する調査報告書(平成30年3月)』

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