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”ロービジョンフットサル”、”見えない”ではない、もう一つのブラインドサッカーとは

こんにちは、かどじゅおです。僕は障害者スポーツロービジョンフットサルという競技を健常者としてプレーしています。
今日はそのロービジョンフットサルについて少し書きたいと思います。

そもそもこのテーマに関して、個人的にどこまで語っていいのか現段階でもわかっていませんが、ロービジョンフットサルという競技について少しでも多くの人に知ってほしいという思いとそこから障害者スポーツや普段日の当たることのないスポーツの永続的な発展があればいいなと思い、書くことをきめました。

まだ僕はこのスポーツに関わりだして一年足らずで「障害とは」、「障害者スポーツとは」ということを偉そうに語れる人間ではありませんし、健常者である自分は障害を持つ人々の葛藤や思いを完全に理解することはできませんが、この短期間”ロービジョンフットサル日本代表”としての活動を言語化し、整理するという意味でもいいかなと思っています。


・ロービジョンフットサルって何?

そもそもロービジョンフットサルというのは通称です。そして実は”ブラインドサッカーB2/B3”という正式名称を持っています。テレビなどでよく見る目隠しをして行う、いわゆる”ブラインドサッカー”の一種であり、視覚障害者スポーツなのです。
そのため所属はJBFA(日本ブラインドサッカー協会)になります。 



・ブラインドサッカーとのちがい

先述したいわゆる”ブラインドサッカー”、にも正式名称があり、”ブラインドサッカーB1”といいます。
このB1とB2、B3の意味に違いがあり、ブラインドサッカーとロービジョンフットサルの競技を分けるものとなっています。

このB1、B2、B3とはIPC(国際パラリンピック委員会)やIBSA(国際視覚障害者スポーツ協会)が定める視覚障害の程度をクラス分けしたものになります。

その中で

B1:視力が光覚まで(光の認知程度)で、どの距離や方向でも認知はできないもの、すなわち全盲かほとんど全盲。

B2:手の形を認知できるものから、視力0.03まで。または視野が5度以下のもの

B3:視力は0.03以上0.1までのものと視野が5度以上で20度以下のもの。

とクラス分けされます。

つまり

ブラインドサッカー:競技者が全盲又は光覚

ロービジョンフットサル:視覚情報をある程使える、すなわち弱視の選手がプレーする

という違いがあります。

※尚、国際大会の際は直前に視力検査を行い、そのクラス分けに基づき各選手がプレーすることになります。(classification)


・競技規則の違い

ブラインドサッカー:アイマスクを着用した全盲のフィールドプレイヤーと、弱視者もしくは健常者GKがプレーします。
また特徴的なものとしては音が鳴るボールの使用、ボールホルダーに対してディフェンスに行く際は「ボイ」という掛け声をしなければいけない、敵陣のゴール裏に「ガイド」とというゴールの位置等の指示を出す健常者を配置することが挙げられます。

ロービジョンフットサル:弱視のフィールドプレイヤー4人(B2二人、B3二人づつ)と弱視者もしくは健常者のGKがプレーします。
ブラインドサッカーが独自のルールを設けているのに対し、ロービジョンフットサルはアイマスクの装着は無し、ボールも通常のフットサルボールを使用するなど、健常者が行うフットサルとほぼ同じルール、同じピッチ規格でプレーします。(GKのプレーエリア制限等のルールはあり)


B1もですがブラインドサッカーは競技の特性上、GKは健常者もプレーすることが可能です。
つまり僕が冒頭から言っている健常者として障害者スポーツをプレーしているというのは、健常者でもプレーが可能なGKとしてロービジョンフットサルをプレーしているということになります。


・ロービジョンフットサルの競技特性

ここからは僕が実際にプレーをして感じた、他にはないロービジョンフットサルならではの特性や魅力について書きたいと思います。

①見え方がそれぞれ
まず視力によって弱視というものが定義されているとはいえ、見え方は人それぞれです。視野が狭かったり、中心暗転であったり、2重3重に物が重なって見えたりなど、その他にも人それぞれ見える世界、ピッチが異なるためプレイヤーによってできるプレーも異なります。そのためプレイヤー同士、お互いの見え方をよく把握したうえで補いながらプレーします。パスの出しどころ、質などは受けての見え方などによって変えていく必要があります。
http://www.rehab.go.jp/hakodate/explain.php

②声と耳をフル活用する
試合中は目まぐるしく状況が変わるため見えづらい選手は自分のマーク、ボールがどこにあるのか、味方がどこにいるかが分からなくなることがよくあります。そのため耳をフル活用します。視覚から得られる情報に限界のあるフィールドプレイヤーは基本的に聴覚情報に頼ります。僕はここがこの競技をより面白くするポイントであると思っています。というのもプレイヤーが各々得られる視覚情報は、全員が目隠しをするB1や健常者と違いバラバラであるからです。その選手の見え方を把握したうえで見えない点をいかに声で補うかの微妙な匙加減が非常に難しくもあり、面白くもあります。
B1よりもプレースピードが速い分、コーチングが抽象的になりすぎて情報が伝わらなかったり、逆に与えすぎて情報過多になってしまったりと、各選手に適したコーチングができないとフィールドの選手は状況把握ができなくなり、すぐにやられてしまうのです。ですから声にはどのスポーツよりも気を遣います。
またコミュニケーションの際は僕のプレーするGKが司令塔となります。ロービジョンでは”GKの指示=フィールドの視覚情報”ととらえても過言ではない程とても大事です。反応であったり、諸々の技術はもちろん大切ですが、それ以上に的確なコーチング能力を持ったGKが重宝される競技だと思います。

③健常者のスポーツに最も近い障害者スポーツ
乱暴な言い方ですが、何も知らない人が見たら一見、”うまくない健常者ががやっているフットサル”にしか見えないと思います。ただ見えずらいはずなのに、選手は見えてるようなプレーをすることが多々あります。そしてこの瞬間がもっとも盛り上がります。
またヨーロッパのチームの中には普段から健常者のリーグでプレーをするほどの技術を持つ選手が数多くいますし、健常者のチームに比肩するレベルをもつチームもあります。特に世界王者のウクライナには健常者の関東リーグクラスかそれ以上のレベルでプレーすることが可能な技術とスピードを持っています。そこにたどり着くにはとてもつもない努力と、ロービジョンならではの工夫があるのだなと感心させられます。


・ロービジョンフットサルのいま

ロービジョンフットサルという競技の現状を一言でいうと

”圧倒的に知られてない!”

って感じです。国内リーグに焦点を当ててB1と比較してみても

ブラインドサッカーが20チームに対し
ロービジョンフットサルは4チームと

大きな差があります。

ここで一つ言わせていただきたいのは、視覚障害=全盲ではないということです。おそらくこの記事をここまで読んでくださっている方はご存じかと思いますが、少なからずこの誤解が社会にはあるのかなと思います。

そしてこのことが影響し、視覚障害者サッカー=ブラインドサッカーということが社会の認識なっていて、そこが競技普及がうまくいかない要因の一つなのではないかと思います。

ブラインドサッカーは2020年パラリンピックの正式種目ということでメディアに取り上げられる機会が増えたため、認知度は非常に高く、国内リーグへの参加率が上昇傾向にあります。一方でロービジョンフットサルはパラリンピック正式種目でなく、メディアでも取り上げられる機会が少ないため、競技者の確保がうまくできていない現状にあります。

実際、日本にいる視覚障害者のうち約9割が弱視であるのですが、視覚障害者サッカーといえば”ブラインドサッカー”だけだと思われがちなのです。
そのため我々としてはまず多くの人にロービジョンフットサルを知ってもらうことが競技のためにも、これからプレーを始めたいと思っている人のためにも必要であると考えています。 


・日本代表

2011年、”世界選手権優勝”という目標を掲げ代表チームは結成しました。
当時の状況についてはそこまで詳しくはないのですが、現在は埼玉県本庄市の方々、熊本の「ロービジョンフットサルを応援する会」の方々など多くの人のバックアップを頂き、月に一度キャンプを行い、チームを強化することができています。

2017年イタリア大会まではヨーロッパの国相手に1勝も挙げたことのないチームであったのですが、ここ数年で多くの方々が支援してくださるようなったこと、若い選手も増えたことで、急速にチームの強化が進んでいます。

そして先月にスペインのセビリアで行われた国際大会では、世界トップ4に入るスペイン代表を破るという快挙を成し遂げました。
もちろんこれは単なる一歩に過ぎませんが、しかし日本が成長を確実に遂げていると個人的には思っています。もちろんウクライナなどの強豪国に比べたらまだまだなのですが。



・日本代表の今後

チーム発足から掲げる”世界チャンピオン”という目標が変わることはありません。
まずは2021年の世界選手権でチャンピオンを目指します。
そしてこれは僕なんかよりもチームメイトたちがずっと強く思っていることですが、”すべての障害を持つ人たちの希望になること”を目標に活動していきます。そのためにも強化、普及にも選手各個人がこれまで以上に力を入れて取り組もうと思っています。 


・最後に

僕はこのスポーツから本当に多くを学びました。競技中や合宿中に触れる、プレイヤーたちのマインドには常に勇気づけられます。そしてなによりこの競技、関わるすべての人が大好きです。
だからこそもっと多くの人にこの競技を知ってほしいし、この記事を通じてみなさんが弱視、ロービジョンフットサルに少しでも興味を持ち、日本選手権や代表合宿に足を運ぼうと思ってくれれば最高です。

また、今日書いた内容はロービジョンフットサルのほんの一部にすぎません。そしてその他にも、実際、障害者スポーツの現場に立ってみて初めて感じたことなど、書ききれなかった内容がたくさんあります。
それらに関しては、また別で記事にしてみたいと思っていますので読んでいただけたら光栄です。

それではまた

Juo 


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