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河川敷に泊まろう。

突然焚き火がしたくなった。昨年の11月のことだ。

焚き火がしたい!、という欲求を満たすために焚き火台と薪を買って、河川敷にあるキャンプ場まで電車で行って焚き火をしたら、これがもうほんとうに楽しい。火をつけて火のお守りをする非日常感と、故郷で風呂を薪で沸かしていた記憶が呼び起こされるノスタルジーとがごちゃごちゃになって、それはもうテンションが上がってしまった。
スキレットを買って肉を焼き、ヤカンを買ってコーヒーを淹れた。ポップコーンを作りたい、薪割りがしてみたい、ホットサンドを作りたい、広葉樹の薪を燃やしてみたい…やりたいことは無限にある。何度か昼間に焚き火をしているうちに、「あ、泊まればずっと焚き火ができるやん」と気がついた。

焚き火をするのと、キャンプをするのとではずいぶんと勝手が違う。最大の違いは朝まで眠る必要があること。ときは12月。油断すると凍死してしまう。凍死を防いでくれる寝袋とテントを限られた予算で買うためには、キャンプ道具について学ばなければならない。焚き火は何度もしたことがあったが、キャンプはしたことがない。テントの中で寝袋で寝るやつ、そんな解像度の低い理解で12月の河川敷で眠る勇気はなかった。なくてよかった。

冬用の寝袋を買い、冬でも使えるとYouTuberが言っていた安いテントを買った。安いリュックサックも買い、調理器具をいくつか買い、マットなどの寝具を買い、ガスバーナーとナイフを買った。
これで多分死なないだろうと思ったので、何度か焚き火をした河川敷のキャンプ場にふらっとひとりで向かうことにした。

まず、誤算だったのは、荷物の重さだ。冬用の寝袋は比較的安くて耐寒性能がかなり高いものを選んだのだが、まず重い(2.5Kgくらいらある)。それ単体では容易に持つことができても、テント、焚き火台、薪、食料、調理器具、などなどを足して行くと、10Kg、20Kgと増えていく。重さ、全然考慮していなかった。
また、寝袋の下に敷くマットやガスバーナーなんかは大して重くはないのだが、まあ、かさばる。結果として50リットルのリュックサックをパンパンにして、その上でリュックにくくりつけれるだけ荷物をくくりつけて、両手いっぱいに物を持つことになる。1泊2日の旅装には到底見えない。
駅までの道のりで何度も休憩し、改札をどうにかこうにかとおり、他の乗客にちらちら見られながら電車に揺られて夕方のキャンプ場にたどり着いた。キャンプ場は駅から歩いて5分の距離だけど、休憩しながら30分くらいかけて歩いた。受付のおばちゃんにその荷物を担いで来たのかとあきれられた。

テントは案外簡単に組み上がった。設営ができない場合にはその場で帰宅しようと決めていたけど、あの荷物を持ってとんぼ帰りは本当に嫌だったのでめちゃくちゃホッとした。とりあえず、ビールの缶を開ける。よなよなエール。うまい。人生で五指に入るうまさだと思う。
焚き付け用の木片を持ってきたのでナイフで削り、そこに火を着ける。火は易々と燃え上がる。ファミリー向けのでかい(そして重い)焚き火台なので、どんどん薪が燃えて行く。薪を買い足して、どんどん燃やす。暖かい。

焚き火でポップコーンを作り、ビールを飲み、ガスバーナーで豚汁を作り、ガスバーナーで湯を沸かして焼酎のお湯割りを飲み、豚汁にうどんを突っ込んで食べ、珈琲を飲む。本は何冊か持ってきたけど、一度も開かなかった。湯が沸くのを待つ間はぼーっと焚き火の炎を見ていた。眠る間際に生姜湯を飲む。内側から温まれという祈りの気持ちだ。
重かった寝袋に入る。まだこの寝袋を信じきれていないので、ダウンジャケットを着たまま入った。テントの天井に吊るしたLEDランタンの灯りを消して、目を瞑る。風の音、川のせせらぎ、遠くで誰かが話す声…。そんなものをぼーっと聞いていると、すとんと眠ってしまった。

朝、目が覚める。テントは霜がおりて白く凍っている。生きていたことが無性にうれしい。2.5Kgの寝袋の力は絶大で、寝入ってすぐに暑くて目が覚めたのでダウンジャケットを脱ぎ、それでも暑くてフリースを脱ぎ、ロンTとヒートテックで眠った。十分暖かかった。
ガスバーナーで湯を沸かし、カップヌードルカレーに納豆をのせたものを食べ、コーヒーを飲んだ。ぼーっと川を見ていると、ちゃんと生きていてよかったなと思える。

設営は簡単だったが、撤収は難しかった。思い返せば、寝袋もテントもパンパンの状態で収納袋に入っていた。不器用で堪え性の無いわたしは、それを再現することができない。設営はYouTubeをみて散々予習したけど、撤収は予習していない。テントは霜が溶けてべちょべちょに濡れていて、しまう前に乾かす必要がある。テントを干し、寝袋を苦闘して畳み、テントを苦闘して収納袋に入れた。1時間に1本しか無い電車を2本逃した。

どうにかこうにか片付け終えて、次の電車まで間があったので、荷物を減らすためと言い訳をしながら、最後の缶ビールを飲んだ。アサヒスーパドライ。うまい。本当に、ビールは偉いなと思った。
酒と食料と薪が無くなり、行きよりはほんの少し軽くなった。昨日の徒歩行の結果、筋肉痛の気配がする。

短歌は1首もできなかった。

21.12.19-20
焚き火台:ファイアーディスク(Coleman)
寝袋:スリーパーエクスペディション (Snugpak)
テント:ツーリングテント(Azarxis)
バーナー:オーリック(キャプテンスタッグ)
リュック:50リットル(HOMIEE)
などなど…

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