七物語の好きな歌

解凍をした刻みネギは頼りなくこれくらいでいいから好きでいて
/小池佑「ねんいちのあいまいにちの」
確かに解凍したネギは頼りない。歯ざわりも風味も、フレッシュなネギに比すべくもありません。それでも私たちはネギを凍らせてしまう。たぶん、不完全でもいいからそこにいて欲しい、頼りなくても必要な時がある、そんな思いからネギを冷凍してしまうのでしょう。
掲出歌はそんなネギへの思いと、恋人への思いが下句で重なっていく。不思議な比喩ですが、妙な納得感があります。解凍されたネギのへにゃへにゃとした頼りなさと、主体の祈りの切実さに呼応するような下句の破調も効いていると思います。好きな歌。

桃缶のなかで眠っている桃とおなじ気持ちで腕におさまる
/伊波慧「星を拾う」
桃缶の中で眠る桃の気持ちってどんなんだろう、まずそんなことを考えてしまいます。コンポートされてシロップに浸かっている状態には甘やかな印象がある反面、缶の中は狭くて暗いのかもしれません。主体は甘やかさと仄暗さを誰かの腕におさまりながら感じているような気がします。不思議で面白い比喩。

都会とはイオンモールのことやった世界の果ては播州赤穂
/西村湯呑「うり坊ズ」
大人になるにつれて世界は大きくなります。猪よけのフェンスのあるような町の子どもにとって、都会とはイオンモールであるというのはとても納得感のある認識だと思います。下句の播州赤穂は電車の行き先でしょうか。たぶんまだ行ったことのない終点の播州赤穂、それは世界の果てである。ある意味では幼い認識です。ただ、狭い世界が客観的に歌に詠まれたということは、作者はもう広い世界を知っているのでしょう。それは大人になったことを意味しますが、一抹のさみしさがそこにはあるような気もします。共感。

特に好きやった歌を3首ほど引きました。
七物語、2年前に参加させていただいて楽しかった思い出です。
個人的には恋歌を詠むのも、読むのもあまり得意ではないけれど、年に一度七物語を読むのは楽しいなぁと、そんなことを思うのです。

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