ちょこんと触れる

地震が起きた時、車通勤の途上だった。携帯電話がけたたましく鳴る。揺れにはいまいちぴんと来なかったけど、なんかヤバそうだなぁ、と思う。
職場に着いて、ググってみると大阪で震度6弱となっていて、驚く。近いな、そう思っていると、職場のある市が震度5弱となっていて、そんなに揺れたんやと、より驚く。出社してきた同僚たちもざわざわしている。どうやら電車が止まっているようで、出社できない旨の連絡が増えはじめる。安否確認の連絡が携帯電話にぱらぱらと届く。Twitterのリプライで森本が、ご無事でなにより、と言っている。
そうか、私もか。
震度3以上の地震ははじめてかも知れない。今日は朝礼の小話担当日だったので、百人一首の話をするつもりだったけど、なんとなく地震の話にさしかえる。

日中は、地震の関係でばたばたしている人達もいたけれど、概ねいつも通りの仕事をする。それでも、電車が止まって10キロを2時間かけて出社したという人がいたりして、その都度驚く。

終業後、近所に住んでいる歳上の後輩と一緒に帰る。電車はまだ止まっていて、帰れないらしい。彼の奥さんは妊娠していて、地震があった時に家にひとりでいたらしい。大丈夫やったんですか?って聞いたら、とりあえず和室で大の字に寝転んだみたい、無傷ですよ、とのこと。少し安心する。

家のドアを開けると、変なにおいがした。洗面所の引き出しが床に飛び出し、ストックの洗剤やらなんやらがところ狭しと飛び散っている。洗面台の上には香水やら、ヘアワックスやらが散らばり、妻のマニキュアの瓶が割れていて、マニキュアの液が飛び散り、においを発していた。飛び出した引き出しはネジが折れていて、たぶん修理が必要だろう。
リビングに入る。キッチンカウンターに置いていた酒瓶がみな床に落ちている。ぐりっと、床に傷がついていた。本棚からは本が飛び出し、本棚自体が三十センチばかり動いている。戸棚からはワイングラスが飛び出していて、破片が床に落ちている。戸棚を開けると、割とひっちゃかめっちゃがになっていたが、幸いにもグラスが数個割れただけだった。

地震が起きた時にこの場所にいたら、本当に恐かっただろうなと思う。後輩の奥さん、なんともなくてよかったと思いなおす。

とりあえず、破片を片付け、細かなガラスを吸うために掃除機をかける。妻は洗面所を片付ける。
キッチンが片付いたらところで、ご飯を作ることにする。今日はハンバーグにするつもりで、昨日のうちに肉を買い、飴色たまねぎを作っていたので予定通り作る。合挽き肉、牛挽肉、それに豚こまを細かく刻んだものに、飴色たまねぎやら、パン粉やはら、牛乳やら、おろしにんにくやらを入れて捏ねる。むしゃくしゃしたので、300g級の巨大なハンバーグにする。成形して、時間をかけて焼く。その隙に付け合わせを準備する。トマトとキュウリを切り、ゴーヤをおひたしにし、舞茸を炒める。味醂と創味のつゆで照り焼きソースをつくり、焼きあがった巨大ハンバーグにかける。

人生で作ったハンバーグの中で、ほんとうに1番美味いハンバーグだった。ハンバーグをがつがつと食い終わると、なんだか安心した。万一に備えてお酒は飲まないことにする。
本棚の周囲にはたくさんの本が散乱していて、著者に申し訳ない気がしてくる。

今日、生まれてはじめて災害に触れた。たぶんこいつはとことんに無慈悲なのだろう。それが、とてもよくわかった。理屈ではなく、ただそこにあらわれる。そんな感じ。そして、巡り合わせ悪くまともに触れると、どうしようもないことになるんだろうなと。

何よりも怪我をしていないこと、そして、生きていることに感謝をしながら、本を片付ける。

読んだらダメだ。終わらなくなる。

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