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平成生まれが選ぶ【平成の建築10選】_発表

私は目利きの建築家でもなければ、平成生まれで平成しか生きていないし、更には実務においてもまだまだひよっこの一級建築士です。

それでもその私が、【平成の建築】を評価することで、建築を学び始めて間もない学生さんに対して何か伝えられるのではないかと思い、この企画を始めました。

実際に【平成の建築】を評価しようと考えると、単純に「良い建築」を選ぶだけでは物足りなく、やはり【平成の建築】を生み出した「時代背景」を理解しなければなりません。

良いと思える建築はたくさんあります。この企画を行う上で多くの建築意匠に携わる平成生まれの方にヒアリングしましたが、驚くほど票がばらけました。

だからこそ平成という時代を作った【ポストモダン】という時代背景と震災後の【ソフトを重要視した愛の建築】を改めて勉強し「評価ポイント」を明確にしました。

【評価ポイント】
ポストモダンという時代の流れの中で生まれた【建築】と震災後のソフトを重要視した【愛の建築】は、
・地域住民に対して何が出来たのか
・街に対して何をプラスできたのか
・時代の変革に伴って建築の概念を新しいものへと変えた建築

詳細は下記コラムよりお読み下さい。


それでは上記の評価ポイントに基づいて【平成の建築10選】を発表します。

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平成生まれが選ぶ【平成の建築10選】

【第1位】金沢21世紀美術館

設計:SANAA
敷地:石川県金沢市
用途:美術館
竣工:平成16年(2004年)

圧倒的な意見で1位は石川県金沢市にある【金沢21世紀美術館】となりました。敷地に対して円形の美術館を計画して、どこからでもアプローチできるというのが特徴的です。

【美術館】という用途を誰でも気軽に入れるようにし、通り抜けしても良いという建築は新しい美術館建築となっています。

何よりここまで人で賑わっていることに、この建築の凄さがあります。

「美術館の概念と街を変えた建築」

【第2位】せんだいメディアテーク

設計:伊東豊雄
敷地:宮城県仙台市
用途:市民図書館・ギャラリー・イベントスペース(複合施設)
竣工:平成12年(2000年)

「芸術や文化の拠点施設でもあるこの建築の何が凄いのか」と友人に聞いてみました。

すると彼は「街に解放されたビルディングタイプの先駆者で、実際に人の活動が見えるのが良い」と言っていました。

当時はモダニズム建築の単純ラーメン構造(柱があって、梁があって、床を支える)が一般的でした。今でも一般的ですが。

それをチューブ状の機能も不可された構造体によって、床を支えるという正に新しい建築に挑戦したことが凄いのです。

それによって解放されたビルディングは実現し、多くの市民が訪れています。完成して20年近くになりますが、色あせることなく拠点の役割を担ってきています。

「新しい構造によってビルディングタイプを変えた建築」

【第3位】豊島美術館

設計:西沢立衛
敷地:香川県(瀬戸内海 豊島)
用途:美術館
竣工:平成22年(2010年)

訪れた人は口を揃えて、「凄かった」と聞きます。

ディテールなしの建築はとても原始的ではありますが、ここにつくる美術館は「これが1番良い」素直に感じることが出来ます。

型枠の代わりに土を盛って、コンクリートを打設したことも感動のスパイスです。

「ここに建つ美術館とはを提示したディテールなし建築」

【第4位】ふじようちえん

設計:手塚貴晴 手塚由比 (手塚建築研究所)
敷地:東京都立川市
用途:幼稚園
竣工:平成19年(2007年)

円形に作られた幼稚園とその中央にある園庭、そして建物上部にはデッキがあって、子供たちが走り回れる。

ここで多くの時間を過ごす子供達にとって、この幼稚園での環境は誰もが良いだろうと感じる建築です。

楽しく過ごせそう。そんな単純だがストレートなアイデアが素晴らしいです。

「幼稚園にふさわしい建築・教育施設を変えた建築」

【第5位】海の博物館

設計:内藤廣
敷地:三重県鳥羽市
用途:博物館
竣工:平成4年(1992年)

船の貯蔵を目的にした博物館。

当時外国産材の波が押し寄せていた中、地元産の樹木を用いて計画されたこの施設は、林業を救うことにも一役買っています。

もちろんそれだけでなく、構造がこの建築のデザインであるという視点で見るととても美しく力強いです。この建築を実際に訪れて、その素晴らしさを実感できる作品です。

「時代の流れに逆らい構造と意匠が一体となった建築」

【第6位】森山邸

設計:西沢立衛
敷地:東京都
用途:共同住宅
竣工:平成17年(2005年)

知り合い数人で暮らす賃貸の集合住宅です。

住戸の機能を分散させることで、他者との関わりが密接になる住まい方を提案しています。

知り合い数人だったからこそ、実現していると思われますが、新しい集合住宅の在り方を提示した建築であると思います。

「共同住宅に新しい概念を取り込んだ建築」

【第7位】風の丘葬祭場

設計:槇文彦
敷地:三重県
用途:火葬場・斎場
竣工:平成8年(1996年)

ランドスケープと建築の在り方が素晴らしいです。まるでランドスケープがメインで、建築は控えめに置かれているような施設です。

全体計画もさることながら、そのディテールは凄いです。是非訪れることをお勧めします。

建築見学は、迷惑が掛からないように案内してもらえます。

「ランドスケープと建築のあり方を提示した建築」

【第8位】豊前(ぶぜん)の家

設計:谷尻誠
敷地:福岡県豊前市
用途:住宅
竣工:平成19年(2007年)

唯一の戸建て住宅からのランクインです。

谷尻氏の作品では、「当たり前を疑って、新しい価値を見出すこと」が主軸に置かれて設計されています。

この住宅では「廊下」というものを広げてみると、子供たちが遊べる多様な中庭が作れるというのがコンセプトにあります。

そういった物事の転換は、平成を代表すると言って良いと考えています。

「住宅にある廊下という既存の概念を覆した建築」

【第9位】KAIT工房 / 神奈川工科大学

設計:石上純也
敷地:神奈川県厚木市
用途:大学施設(創作活動専用施設)
竣工:平成20年(2008年)

創作活動専用施設として大学内に計画された工房です。

305本の細い柱は、荷重を支えるのではなく、与えられた引っ張り力の伸縮性によって、屋根を持たせるといった新しい構造計画が行われています。

さらには構造体だけではなく」、その細い柱の密度によって空間を仕切るように計画されています。

柱が無数にあるところは壁、柱がないところは活動する部屋のような仕切りです。構造によって、壁や部屋、廊下ができるというプランニングはとても新しくみんなが驚いた建築です。

「空間の仕切り方を新しく提案した建築」

【第10位】武蔵野美術大学図書館

設計:藤本壮介
敷地:東京都小平市
用途:大学施設(図書館)
竣工:平成20年(2008年)

本棚は壁に取り付けられるものではなく、本棚で空間を仕切ってしまおうという発想の元計画されています。

平面的に螺旋状に描かれた本棚は、内部空間から見ると圧巻です。

「家具で空間を仕切るという新しい着想を生んだ建築」

【第10位】ラコリーナ近江八幡

設計:藤森照信
敷地:滋賀県近江八幡市
用途:商業施設
竣工:平成27年(2015年)

原風景を何よりも重要視し、自然を愛し、自然に学び、人々が集まることをコンセプトに計画された商業施設(ショップ)です。

屋根の前面に芝が引かれ、人と自然が共に生きる「命のあり方」を提示した建築となっています。

藤森氏の建築はこのような真似のできない作品が多いですが、私はとても好きです。

「既存にはない自然と環境の中の新しい商業建築デザイン」

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平成生まれが選ぶ【平成の建築10選】の発表は以上となります。

いかがでしたか。

意外にも目利き建築家が選ぶ「平成の建築」と同じものも多くありました。

みなさんの中にも「そりゃそうだろう」思う作品もあれば意外なものもあるかと思います。逆に「なぜこれは入らないのか」きになる作品があればコメント頂ければ嬉しいです。

私達の中でも安藤忠雄氏が入らないのはおかしいとかSANAAは平成を変えたとかいう意見もありました。

考えることに意味があります。「平成生まれ」同士、これからの建築を真剣に考えて生きませんか。

是非みなさんも仲間内でしっかり議論してランキングしてみてはいかがでしょうか。

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【参考文献】


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