かえれない平日

某出版社、某放送局、某映画会社勤務の3人で運営している、カルチャー&ライフスタ…

かえれない平日

某出版社、某放送局、某映画会社勤務の3人で運営している、カルチャー&ライフスタイルマガジンです。 失われたときにはじめて気づく「平日」の愛しさをみつめて、3人がそれぞれ自由に綴ります。

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最近の記事

小便の臭いのするカードケース

小学校低学年の頃のことである。 「遊戯王」に熱を上げる少年たちの中に、例外なく、私も居た。 デッキが1パターンの私でも、手駒で精一杯、戦いに興じていた。 強いカードを決め打ちで買い与えられる同級生が羨ましかったが、勝手知ったるカードで布陣できることを、幸せに感じていたと思う。 *** ある日、友人が遊びに来ることになった。 目玉興行はむろん遊戯王であり、2週間ほど前からスケジュールを押さえられていた。彼は、階段式の工具箱にカードを目一杯敷き詰める、嫌な感じの同級生だった

    • 童貞について―三島由紀夫の場合

      今では彼が自尊心から拒んでいたものすべてが、逆に彼の自尊心を傷つけていた。南国の健康な王子たちの、浅黒い肌、鋭く突き刺すような官能の刃をひらめかすその瞳、それでいて、少年ながらいかにも愛撫に長けたようなその長い繊細な琥珀いろの指、それらのものが、こぞって清顕に、こう言っているように思われた。 『へえ? 君はその年で、一人も恋人がいないのかい?』 ―『春の雪』(三島由紀夫) (覚書・GunCrazyLarry)

      • あまりに薄い日めくりの紙

        祖父母の家と聞けば、薄紙の日めくりカレンダーを思い出す。 幼い頃、遊びに行くと必ず「昨日」の紙が残されていた。私がそれを剥がすのが好きだということを、祖父母は知っていたらしい。 大人になった今、この僅かな記憶を再現している内に、懐かしさではなく、漠然とした不安が押し寄せてきた。 *** 祖父母の家は、ふたりで住むには広すぎる戸建てで、老人が上がるには急すぎる階段が続いている。私の親の部屋は、来客には埃っぽすぎる空間で、幼な子には古すぎるレコードが山積みになっている。

        • 出処不明の文章。その続きに思いを馳せる。

          学生の頃、見惚れたセリフなり文章なりを、ハードカバーのノートに書き留めていた。 いま思えば、記録する行為より、モレスキンのノートをそうして使っていることに悦に入っていた様が、寒々しく、小っ恥ずかしく、かえって懐かしくもあり…… 出展を添える決まりにはしていたのだが、中には出処不明の迷い子もいる。 たまに読んでは、「これかしら」と当てずっぽうなひらめきに満足し、腹の底から湧くノスタルジアをアルコールで流し込む。 ただ、生まれを諦めきれぬ孤児もいて、この扱いにどうも困っている

        小便の臭いのするカードケース

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        • エッセイ
          10本
        • 映画について
          2本

        記事

          前代未聞のうぬぼれ

          "Misery" ,The Beatles―― 淡い失恋を歌いあげた一曲として鑑賞して良いのだろうが、これがどうも怖い。 歌詞の大意は「あんなにも愛し合ってたのに、どうして僕のもとを去っていったんだ…なんて冷たい世だ! 帰ってきておくれよ!」みたいなことで、実直すぎる吐露に、時代というか、気恥ずかしさのようなものを感じる。 それはまあ、当事者の悲喜交々だから良しなにやってくれ、としか思わないのだが、曲の後半でリフレインする歌詞に、ちょっと待ったを掛けずにはいられない。

          前代未聞のうぬぼれ

          ポスターに騙されるな!

          今年、日本で公開されたアメリカ映画は良作続きだったと思う。 『スリー・ビルボード』に始まり、『フロリダ・プロジェクト』、『ウインド・リバー』、そして(小説だが)『ブルーバード、ブルーバード』と、アメリカが忘れようとも付き纏う汚点に、誠意を持って向き合う作品が多かった。 ささやかながら、自分なりにこの一年に意味を与えようと、先送りにしていた映画を観た。 『ブラック・スネーク・モーン』。 ポスタービジュアルが語るように、この作品は、初老の黒人がロリ顔白人を鎖で監禁する不謹慎な

          ポスターに騙されるな!

          どんぐりと山猫と往復はがき

          2週間前のこと。郵便屋を早期退職した友人に、往復はがきを100枚もらった。はじめわたしは「メール魔なのではがきをもらっても使わないよ」と言ったが、友人は「遊びでもいいから使ってみてよ」とのこと。遊ぶ物には困っていないし、なにより要らないものは部屋に置きたくないと言うと、友人は寂しそうな顔をして口をつぐんだ。郵便屋を早期退職したとはいえ、彼の飯の種の象徴のような物を要らないなんて言うべきではなかった、とわたしはすぐに後悔し、「うそ、うそ」と急いで冗談のニュアンスをつけくわえ、包

          どんぐりと山猫と往復はがき

          ホッピー中350円、外130円

          この値段は東京では適正価格なのか。 千葉南房のはずれに出張中に、 年季の入ったラーメン屋の店主から問われた。 いや実際は「適正価格なのか」なんて、 気の利いた言葉ではなくて、 同じ土地で50年以上店を構えてる親父が、 乱雑に壁に貼られた価格表を指差しながら 年季の入ったぶっきらぼうが 時を経て温かみを増したような、 頑固を諦めたような優しさで聞いて来たのである。その指は震えていた。 親父は、震える手つきでラーメンを運び スーパーで売られているパックのライスが 雪冠して整

          ホッピー中350円、外130円

          帰れないウィークデイ&エンド

          土曜日の宇都宮で餃子 日曜日の稲荷町でタバコ 月曜日の北千住で焼き鳥 火曜日の新中野で刺身 水曜日の新橋には行かず 木曜日の新宿でニラ玉とアブサン 金曜日の渋谷でモツ煮 土曜日の六本木に篭り 日曜にようやく帰る 文もいすと

          帰れないウィークデイ&エンド

          物臭な煙草

          「煙だけが、昇ってくんだよなァ」 大学生の頃のことである。 友人のアパートで夜を明かした。 未練がましく部屋に残る酒の匂いから逃れるように、ふたりは外へ出た。 頭は痛いし、呼気はまだ昨晩の安酒を記憶している。こうして体は腐っていくのだと思ったが、その思いがかえって煙草に火を付けさせた。この怠惰を代替するものは、存在するのだろうか? 冴えぬ肺では一本の減りも遅いし、眠い頭は何も考えたくないから、自然と空を見上げていた。ピーカン晴れだった。 彼のアパート2階には若い番い

          友人の文章について―かえれない平日の成立

          私には友人がほとんどいないのだが、数少ないそれと呼べるふたりと、このnoteを続けている。 私を含む三人とも、映画や音楽などが好きで、そしてまた、ほどほどに趣味が分かれている。 飲み交わす度に、評論家じみた態度でくだを巻く。好みは違えど、互いの物言いを信用しているはずだし、私にとってはささやかなサロンだとも思っていて、居心地の良さを感じる。 馴れ合いだとは言わないが、ただそれが勿体ないことは知っていた。 三人とも、出版、テレビ、映画と、人の言葉を借りて表現する職業についた

          友人の文章について―かえれない平日の成立

          不愉快な顔

          中学生の頃、母親から「お前は顔が悪いから、せめて行儀だけは良くしてほしい」と言われた。 顔は直せないし、親を憎むほど恥じるようなものではないと(自分では)思っていたので、ひがみながらも受け止めてはいた。 とはいうものの、思春期は自分の顔を気にさせるし、地下鉄の窓に映る私はいつも自分を見返してくる。 見惚れるにも値せぬ容姿がどうも気がかりで、それがかえって自意識となった。 大学に入り、初めて恋人ができた。 名のある大学だったし、それまでもそういうことで評価されることは十分に

          グーグル・マップ・ミラノ・サンポ

          ふらんすへ行きたしと思へども ふらんすはあまりに遠し せめては新しき背広をきて きままなる旅にいでてみん 萩原朔太郎 「旅上」----エピグラムにかえて * * * ミラノに行きたい、ずっとそう思っていた、いつからだろうか、なにがきっかけだったろうか、 おそらく、中田のヒデだったと思う、あの金髪で、短髪の、切れ長の目の、中田のヒデが、ミラノでセンセーショナルな活躍をして、宮沢りえと海老反りのキスをして、そのときにぼくは、ミラノを、はじめて、遠い遠い異国の地として

          グーグル・マップ・ミラノ・サンポ

          夏真っ盛りという大げさな言葉に比較した時の切れるような真冬の冷たさ

          今年は10月頭くらいからダウンを着ていた。 たまに寒い日があったのと、衣替えが面倒臭かったからだ。 色々な人に突っ込まれた。久しぶりに会った人にも、近況を聞かれる前に「暑くないの?」と尋ねられた。その度に「暑くないです」と答えたが、実際は暑い日もあった。10月の気候は難しい。 11月末。 少し混み合う午前8時前の丸ノ内線、方南町行き。普段乗らない時間の電車の学生の多さに気がつく。 目の前に一人の女子高生が立っていた。 少し眉間の幅が広い目鼻立ちのはっきりした可愛い

          夏真っ盛りという大げさな言葉に比較した時の切れるような真冬の冷たさ

          「かえれない平日」について

          このnoteが複数人で運営していることが分かるようにと、某映画会社勤務の"GunCrazyLarry"と名乗る男の一声で、プロフィールが明確になった。そして同時に「カルチャー&ライフスタイルマガジン」のテイなのだということも、某出版社勤務の"スウィートメモリー"と名乗る男が、意識的か無意識的かは別として、文字に起こし、方向性を定めてくれた。自分の関与しない所で形作られていくのは、疎外感というよりむしろある種の嬉しさを感じる。 改めてプロフィールを読み返すと、「ライフスタイル

          「かえれない平日」について

          くっきーは、誰かを傷つけているのか?

          『野性爆弾のザ・ワールド チャネリング シーズン2』「くっきーProduceドラマ女優オーディション(前後編)」が素晴らしい。 オリジナルドラマの主演に当て込んでいた矢口真里が、ネット番組で多忙を極めるゆえ、ブッキングできないことに! 急遽開催されたオーディションに集まったのは、野呂佳代、橋本愛奈、岡田ロビン翔子の3名(アシスタントMCは矢口真里)。熾烈な審査を経て、見事主演女優の座を勝ち取るのはいったい……! くっきーによる番組恒例のセクハラに耐えながら、要求に応えてい

          くっきーは、誰かを傷つけているのか?