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『真壁家の相続』が文庫化されました

私に初めて連載のお仕事をくれたのは双葉社の文芸誌『小説推理』でした。

「何を連載しようか」という話になった時、担当編集者さんがちょうどご実家の遺産相続を乗り越えたばかりだという話になりました。「僕は遺産相続の話なら絶対読みますよ!」と言うので、プロットを送ったところ、すぐ連載が始まりました。しかし、よく考えてみると、私自身は相続にそれほど興味がありません。初めての連載ということもあり、書きはじめるとたちまち苦しむはめになりました。なんとかできたのがこの小説です。

一人の老人が亡くなったことで真壁家に巻き起こる遺産相続のドタバタを書いた小説です。預金は少なく、残されたのは古い家一軒だけ。なのになぜ揉めるのか? 民法の本を読んで、たとえばうちの実家の人間たちだったらこんな風に動くのではないか、と想像して書いたのですが、刊行後に行政書士の方から「いやもう、まさに現場はこんな感じです」というお手紙をもらったので、ちょっと嬉しかったのを覚えています。

文庫化のために読み返してみたのですが、苦しみながらも楽しく書いていたんだなということがわかります。相続の話し合いが険悪になっていく中、主人公の母親が「早く片付けてしまいたい」という理由で煎餅をみんなに勧める描写があるのですが、こんな風に「え、なぜ今?」ってタイミングで自分のこだわりを出してくる人が好きなんです。親戚同士の会話ってカオスなので、お正月に帰省して聞いていると楽しいです。私はお酒で気分が変わることがないので、友人たちが話す会社や同僚の愚痴なども記憶しており、「早く忘れてくれ」とよく嫌がられるのですが、『真鍋家の相続』にもそうやって実生活で拾ったいろんなセリフを盛り込みました。『わたし、定時で帰ります。』を書くときにも、この連載で鍛えた、大勢の人間が喋るシーンを書く技術が役立ちました。

文庫化にあたっては、読みやすくするため加筆修正しています。ぜひぜひお手にとってお読みください。

【追記:2020年1月7日】

朝日新聞の運営するサイト「相続会議」にてインタビューしていただきました。下記のリンクからお読みください。

「わた定」作者 朱野さんが語る 「相続は家庭の履歴の総決算」