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東武鉄道の保線作業員(電気関係)に聞いてみた

先日行われた東武ファンフェスタにて、電気関連の保守を行っている作業員さんとお話しできる機会があったので、この場にて内容を纏めようと思います。

Q.東武鉄道に軌陸車は何両いるの?

A.12両です。
東武野田線には1両が配置されており、区間が長すぎるため、東武動物公園より、大宮よりは東武動物公園の所属機を共有して検査しています。各車両基地などにある程度配置されており、大方、2両程度配置しています。例えば新栃木には配置場所が2箇所あり、合計で2両が配置されています。今回展示している車両は新栃木配置です。

Q.どのような検査を行っているの?

A.電車が走るうえで不可欠な架線などの検査を行っています。
特に、パンタグラフが接触する電車線の摩耗具合などを見ています。摩耗具合を見るときは軌陸高所作業車に乗って、ノギスで丁寧に測っています。電車線は15.3mmや12.34mm径の物を使用しています。電車線の断面は円ではなく、窪みがあります。これは、先程話したように二つの径の電車線があるため、共通部品が使用できるように窪みがつけられています。

図1 電車線(トロリ線)の断面 ※(JRTTより改変、引用)

この窪みに、ハンガーという部品で挟んで、吊架線から電車線を吊り下げる構造になっています。

図2 架線の構成 ※(JRTTより引用)

その為、擦り減りすぎてしまうと、ハンガーにパンタグラフが接触してしまいます。そのため、どの程度電車線が摩耗しているのかしっかりと検査する必要があるのです。カーブの区間であっても電車線は傾けず、敷設するため斜めに摩耗してしまいます。その為、カーブの区間は電車線の寿命が短くなってしまうのです。また、直線区間であってもパンタグラフがバウンドして波打ったように、電車線が摩耗することもあり、細かく検査していく必要があります。15.3㎜のものを例にとると、9.5㎜くらいまですり減ると交換の目安になり、交換作業を行います。

展示されていた電車線磨耗サンプル

Q.電車線の寿命はどのくらいなの?

A.だいたい2年程度です
都心に近い線区であれば2年程度で交換します。一方で、電車の往来が少ない車庫線や地方線区(小泉線とか)では寿命が長く、昭和時代に敷設したものが未だに活用されていたりします。

Q.1日どのくらいの距離を検査するの?

A.1日あたり大体、2~3km程度検査します。
日によって距離は変わりますが、2~3km程度検査を行います。多い時は5km程度検査できるときもありますが、大方、1駅間または2駅程度の区間を検査しています。

Q.どのくらいの頻度で検査しているの?

A.だいたい、週に2、3回程度検査しています。
東武鉄道は路線の距離が長いので路線系統や区間で管轄する支所が変わりますがそれでも、週に2、3回程度を1年を通して行ってちょうどよいといった感じです。

Q.大きな駅などの検査は大変なのでは?

A.はい。特に最近はその傾向が大きいです。
春日部駅などを例にとると、ただでさえ線路数が多く、ポイントも多いため、行ったり来たりすることがあります。事前に配線図などを見て、どのような経路で順番で検査するのかということを決めています。この時にその駅での工事経験がある人に計画をお願いしたり助言を受けるといったこともあります。春日部駅は近々高架化工事が予定されており、東武線各線でも線形改良工事や高架化工事など配線が変わることが増えています。架線はレールの敷設した場所に依存するため、できるまで配線が分からないといったこともあり、そのたびに配線図を作り直す必要があります。最近はそのような工事が多いため特に大変です。

Q.手作業で検査する理由は?

A.正確さを期すためです。
ご存知の通り、機械によって全自動で測ってくれる軌陸検測車を導入はしているのですが、結局機械なので、かなり誤差があることがあります。摩耗していないと判定された区間を実際に見に行くと、実は摩耗していたということも多く、結局は人の目が信頼できるからです。他社では営業車両に検測装置をつけるところもありますが、結局、誤差が出てしまうため、弊社では導入していません。

東武鉄道が導入している軌陸電気検測車

Q.自社で軌陸車を保有するのは珍しいのでは?

A.そうですね。珍しいと思います。
他の会社さんでは保線会社に委託したり、レンタルの車両を使うことがあるのでその点において、弊社は珍しいのかなと思います。先程、述べた通りの安全へのこだわりといったとこでしょうか。

委託の一例。日本リーテック社保有の軌陸高所作業車を使用。(JR青梅線 青梅駅にて)

Q.この軌陸車は納入されてからどのくらい?

A.2ヶ月前(22年10月初め頃)です。
担当している線区に配置された車両ではないので、今日初めて見るんですが、2ヶ月くらいに新栃木の保線基地に配置されたようです。うちには入っていないので新しい車両はうらやましいですね。

今回展示された車両

Q.この車両の特徴は?

A.ターンテーブルがある点です。
他の車両では線路に載線する際に、完全に線路と鉄輪の位置を合わせてから、車輪を展開する必要がありますが、このターンテーブルがあると楽に載線することが出来ます。幅の広い踏切から、狭い踏切までありますが、この装備のおかげで、車の通れる踏切であれば、どこでも載線作業を行えます。とは言え難しい作業なので上手な人に担当してもらうことが多いです。

車体中央部にあるターンテーブル

Q.道路走行から軌道走行への切替の操作はどこで行いますか?

A.車外の操作盤から行います。
他社で保有している車両と同じように、車外にある操作盤から鉄輪の展開を行うことが出来ます。なので、運転手は車外に出ずに運転のみに専念することが出来ます。

車両の型式は違うが囲ったところが操作盤。

Q.この車両は何人乗ることが出来ますか?

A.最大で6人です。
ただ、一回の作業は5人で行うため6人乗ることはあまりありません。また、線路際に車両を止めるスペースがあれば、最小限の人数で軌陸車は移動させ、普通の車で別途作業員を送る場合もあります。仮に、車両を止めるスペースがない場合は、滅多にないのですが、2両軌陸車を使う場合もあります。ちなみに、弊社で採用している車両は他社の車両に比べて大きめの車両を採用しているという特徴もありますね。

Q.この車両って結構(金額)するのでは?

A.特注の車両なのでとっても高いです…。
なので、公道を走る際や検査している時に、絶対ぶつけるなよ?と圧力がかかっています。ぶつけると怖いので、運転の上手な人に運転してもらっています。

Q.ナンバーが102(東武)ですが、希望ナンバーですか?

A.はい。希望ナンバーで出すようにしています。
最近導入された軌陸車は基本的に102の希望ナンバーを出しています。軌陸検測車や軌陸高所作業車に限らず大体そうなっています。ただ、古い車両だとそうではない車両もいるみたいです。

例外の車両。56-56となっている。新栃木で見たのでもしかしたら置き換えられた車両かも?
例外の車両。48-01となっている。

Q.この車両のバケットはどの程度上がりますか?

A.4.5mまで上がります。
レールから架線(電車線)の敷設位置まで、5mという基準があり、それに合わせた高さまで上がります。4.5m+人の身長と言った感じですね。とはいえ場所によって若干の高さの違いがあるため、バケット内部にある操作盤で高さを調整したりします。また、油圧式なので時間が経つと下がってきてしまうため微調整をすることもありますね。

後部から。

Q.この車両の運転免許は?

A.中型免許が必要です。
車両のサイズ的には準中型なのですが、保守用の機器を搭載した結果、重量が増加し、中型免許が必要な車両になっています。特殊な車両ならではですね。

最大積載量は500㎏…。つまり車両重量が7.5t以上ということだ。機材が重い…。

Q.線路上を走行する際の鉄輪の駆動はどうなっていますか?

A.後部の二輪に直接動力をあたえています。
鉄輪は四輪ありますが、駆動するのは後部の二輪のみです。車両によっては直接ゴムタイヤの回転を鉄輪に伝えるタイプの車両がありますがこの車両は鉄輪に直接動力を伝える構造になっています。また、ゴムタイヤの後輪の内側にあるタイヤも回転することで鉄輪を補助しています。

駆動する後部二輪。

Q.雨天時などは空転しますか?

A.ほぼ空転しません。
ただ、雨の降り始めは例外です。降り始めの時は空転しやすいので加速や減速には特に気を使います。空転すると鉄輪にどの程度動力を伝達するかなどの設定した数値が狂うので空転させるなよ?と圧がかかることもあります。どの程度動力を伝達するか、加減速をどのくらいの塩梅でするのか、は長年の経験がものをいいます。なので運転が上手な人にお願いしますね。ちなみに、人によって停車する際の衝撃も異なるので技量を見るポイントだったりします。

Q.今年、保線系の展示少ないですね?

A.そうですね…。今年は少ないですね。
今年のファンフェスタは物販にスペースを大きく取られているということもあり、展示場所を確保できませんでした。本当なら軌陸検測車も展示したかったんですけどね…。また、人員の配置も少なく、その事情で高所作業車に乗る体験や、保線作業の実演などを行えなかったという事情もあります…。来年はできるといいのですが…。ただ、嬉しいこともあって、最近は、テレビなどで、軌陸車や保線作業が取り上げられることもあり、例年に比べて足を止めてくださる方や、興味を持ってくださる方も多いので嬉しかったりします。前回まではスルーされてましたので…(苦笑)。軌陸車とかは、夜中に走ってるのであまり見かける機会もないと思うので、ぜひこの機会に見ていただけたらなーと思っています。

保線の展示は軌陸車と、この08-475のみ。

Q.緑色の事業用車(自動車)を見かけることがありますが、あれで移動するのですか?

A.いえ、あの車両は部署が違います。
うちは、電気関係の部署なので、スペーシアのようなサニーコーラルの帯を配した車両を使用しています。なので、この塗装の車両を見かけたらうちの部署ってことですね。(多分、緑の車両は軌道整備部門)

緑色の車両の一例。

東武鉄道は人の手によって確実に架線を検査し、日々の安全運行を守っていることがわかりました。安全運行へのこだわり、そして日々の保守の難しさや大変さなどもよく理解できた機会だったと思います。安全運行のために日夜働く保線作業員さんには頭が上がりません…。

と…言った感じに保線、それも特に電気関係や軌陸車関係のことについて多く聞くことが出来ました。大変貴重な機会をいただけて感謝!お話して下さりありがとうございました。来年もお邪魔させて頂けたらと思います。

それでは今回はここまで。


※図1,図2はJRTT 鉄道運輸機構 電車線のページより一部改変にて引用。


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