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【Ss/sSコマ撮り】 砂の音

■逆再生?

この企画も初めて早一ヶ月。
光陰矢の如し。時間は後には戻らない…………?

本当に戻らない?

さて、それは置いておいて、今回の素材は砂です。
コマ撮りでは割とよく使われる素材ですが、今回はこの砂に注目して音を視て行きますよ。

まず、今回の映像を見ていただいてどうだったでしょう?

「はいはい。逆再生ね」

そう思ったあなた。引っかかりましたね!(引っかかってくれたかな?)
これ、逆再生じゃないんです。逆再生に見えるように作った映像なんです。音楽もしかり、逆再生風に作っています。

どうしてこれと砂が関わってくるのか、順を追って説明します。
手がかりは、私たちが「時間の方向」を何を頼りに認識しているかです。
早速いきましょうね。2発目からややこしいんで覚悟してね。


■当たり前に塩胡椒を作る

砂は「時間の方向」を顕著に表します。
砂はほっとけばバラバラに散っていきます。しかし、その散った砂が自然に元の場所に集まることはまずありません。
もしそんなところに出くわしたら"魔法"だと感じると思います。
もしくは「時間が巻き戻った!」
整頓されたものは時間の経過とともに自然に散らかりますけど、散らかったものは自然に整頓されません。

もっと詳しく「時間の方向」を考えて行きます。
今回は話を簡単にするために「塩胡椒のレシピ」を紹介します。

ジャジャーン

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・塩胡椒の当たり前レシピ

1. 塩と胡椒を用意する。
2. かき混ぜる
3. しばらくすると塩と胡椒が混ざって塩胡椒ができる。

うーん。当たり前だ。お前は何の話をしている?
まあまあ。でも、なぜこれが当たり前なのでしょうか?

当たり前を知るために、当たり前じゃないものを作ってみましょう。
当たり前じゃないは当たり前の逆なので、先ほどのレシピを反転させてみます。

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・塩胡椒の当たり前じゃないレシピ

1. 塩胡椒がある。
2. かき混ぜる
3. しばらくすると塩と胡椒に分離する。


こんなこと「まず起こり得ない!と思ったでしょう。そこが重要。
実はこの塩と胡椒の分離は、正確には「起こる確率が限りなく少ない現象」なのです。かき混ぜて分離する可能性は限りなく少ないだけで、0ではないのです。しかし、そういった場面には、ほぼほぼまずまず出会わないので、私たちはそれを当たり前じゃないと認識します。

逆に、塩と胡椒が混ざるのは「起こる確率が高い現象」なのです。
そのため、こいった場面には、しばしばよくよく出会うので、当たり前だと認識するようになります。

起こりやすい → 当たり前
起こりづらい → 当たり前じゃない

(何だか当たり前の話をしている? はい、そうです)

あれ?「時間の方向」の話をしていたのではなかったですか?
そうそう。何を隠そうこの「当たり前/当たり前じゃない」が私たちの「時間の方向」の認識のひとつなのです。

世界は起こりやすい現象(当たり前の現象)が連鎖的に積み重なっていきます。その連鎖の進むの方向を、私たちは自然な時間の方向として認識しています。

■砂は混ざりやすい

先ほどまでに見てきた塩胡椒のように、砂はかき混ぜると、混ざるのが当たり前です。(当たり前の話をしている)
今回の映像の色をつけた砂が塩胡椒だと思ってください。
砂は、混ざる確率の方が高く、分離する確率の方が低いのです。

分離している色砂が混ざる確率 > 混ざった色砂が分離する確率

この「差」が、砂の中にある「時間の方向」の性質なのです。

映像内での、様々な色砂が混ざっている状態から、色ごとに分離されていく流れは、現実では当たり前じゃない「確率の低い現象」に見えるので、当たり前の「時間の方向」が逆転して見えるのです。

「覆水盆に返らず」ならぬ「覆水を盆に集める」
これはコマ撮りという「嘘」を使うことで、やっとこさ実現できるんですね。ひー。


映像内で、ところどころ砂が勝手に動いているところがあるのがわかると思います。これは作者が現実の当たり前に負けている証拠です。


■当たり前の音量変化

はぁ……山場は超えましたよ。次は音を視ていきます。

まずがギターをポロんと鳴らしましょう。

弦が周りの空気を揺らすことで音が発生します。
(正確には、空気の揺れが音の正体です)
弦の位置を中心に空気の揺れが広がって行きます。
空気の揺れは徐々に収まり、音が小さくなっていきます。
これが、音的な当たり前です。

・ギターの当たり前レシピ

1. 弦が揺れる。(音が鳴る)
2. 弦が周りの空気を揺らす。
3. 空気の揺れが徐々に収まっていく。(音が小さくなっていく)


どうも音量の変化が「当たり前」と関係ありそうです。
時間に対しての音量の変化を表してみましょう。
このようなグラフを音楽用語でエンベロープと言います。

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上の図は、ギターの音量変化です。
音が鳴り始めてから時間の経過とともに音量が小さくなっていくことを表しています。

この当たり前のエンベロープを、当たり前じゃないエンベロープにしてみます。塩胡椒の時のようにレシピを反転。

・ギターの当たり前じゃないレシピ

1. 空気の揺れが徐々に強くなっていく。(音が大きくなっていく)
2. 空気が弦を揺らす。
3. 弦が揺れる。

どういうことだ……!何もないところで空気が揺れ出して、ギターを鳴らす。こんなことはまず起こり得な……起こる確率が限りなく少ない、ですね。失礼。
とりあえず、音量変化に注目してエンベロープを描いてみましょう。

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こんな感じですかね。音量0から徐々に大きくなって、あるところ(弦の弾き始め)で音がまた0になる。
フワーーーっと音がこちらにやってくるような感じ。
このグラフに合わせて音作りをすれば、逆再生っぽい音に聞こえるはずだ。

■コラム
音量変化をコントロールするエンベロープはシンセサイザーでの音作りに欠かせないものです。前回に話した倍音に加え、音量の変化はその楽器らしさを出す重要な要素です。主に、立ち上がり(Attack)、減衰(Decay)、保持(Sustain)、余韻(Release)の四つの要素をいじって音作りをします。
例えば、バイオリンだったら立ち上がりがゆっくり、など。

エレキギターでは音量つまみをいじってバイオリンのエンベロープを再現する「バイオリン奏法」なるものがあります。
百見は一聞にしかず → https://www.youtube.com/watch?v=QPRFOdV_iGQ

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■実験 砂の音を聴く

さて、じゃあ映像で何をしたか。
ほとんど答えは書いているのですが、おさらい。

・砂
砂に色をつけ均等に混ぜます。それらをコマを送るごとに、混ざった砂を取り除き、色でまとまった砂を追加していきます。そうして映像上で混ざった砂が分離して見えるようにしました。
(初めは全部ピンセットで分離するつもりでしたが、永劫の時間がかかってしまうことを悟り、諦(明きら見)たのでした)

・音
音の方は、作った当たり前じゃないエンベロープに合わせてシンセサイザーを調整し、徐々に音量の上がっていく音源を作りました。
そうして音が一箇所に集まってくる、時間の逆転したような音像に。
下図は作業ソフト(logic pro X)のエンベロープの画面

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砂は自然にしていれば混ざっていく
音は自然にしていれば小さくなっていく
彼らには当たり前にこうなる性質があります

この当たり前を似非的に逆転させ「時間の方向」が反転した映像を作ることで、その性質を浮き彫りにし、砂と音の時間的なつながりを見出してみました。

最後に逆再生風の映像を逆再生した、「当たり前風」の映像をご覧ください。(元の映像でバイオリンのように聞こえた音が、「当たり前風」ではピアノの音に聞こえると思います)

お疲れ様でした。終わりです。


■まとめ

今回は迂回しすぎたかな。もっとすんなり繋がるのがベストです。
エントロピーの話とか本当はしたかった。

時間の方向について、また別の角度からの視点もまとめてます。


音と砂と言えばクラドニ図形という有名なものがあります。薄い膜に粒子を撒いて振動させると空気の振動の影響で様々な図形が浮かび上がるものです。こっちは砂の音聴化というより、空気の視覚化に砂が使われている感じですかね。


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・企画の概要


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