見出し画像

前半のたるい展開がエロゲー離れを促した~エロゲーというガラパゴス~

※2016年の時点では自分の推論や分析に妥当性があると考えていましたが、2020年5月に消費者白書などを調べた結果、妥当性が弱いこと、つまり、推論や分析に誤りがあることが判明しました。

現時点で最新の推論は、こちらです。「商業エロゲーが黄金期を終え、一時的に衰退した理由についての推論」。

以下の文章については、2016年当時の誤った推論としてお読みください。

エンターテインメントがスピード化した。

恐らく、高速化&高密度化した漫画の影響(※)だろうと思うのだが、物語の展開速度が上がった。そしてその速い展開速度に慣れた子たちが大人になった。
※DSのタッチペンが影響したのでは?という指摘もあり。ニンテンドーDSが発売されたのは、ラノベバブルが始まり、『Fate』が発売された2004年。DSを少年時代に遊んだ子たちが高校を卒業してエロゲーに突入したと考えると、時期的には合致している。

速い展開速度に慣れた90年代生まれの子たちがエロゲー購入可能になったのは、2008年辺りである。その頃から、抜きゲーが批判されはじめた。

曰く、中身がない。

抜きゲー、すなわち純然たるポルノは、展開速度が遅い。こうなるとわかっていても、結末まで時間が掛かる。それが「中身がない」「ストーリーがない」と指摘されはじめたのだ。

中身がない、ストーリーがないというのは、展開速度が遅くてたるい、展開が読めて、おまけに全然進まなくてじれる、つまらない、という意味だった。抜きゲーに対して「ストーリーがない」という批判はそれまで起きていなかったので、びっくりした記憶がある。つまり、2008年付近までは、エロゲーに対してそこまで速い展開スピードは求められていなかったのだ。

抜きゲーが「中身がない」、すなわち展開スピードが遅いと批判されたということ。それは、他のゲームに対しても展開スピードを求める流れが強まっているということを意味している。ユーザーの変化――エロゲー全体に対して展開スピードを求める声の増加――は、抜きゲーへの批判という形で顕在化したのだ。

そして展開スピードへの要求が強まる中、2009年、『巨乳ファンタジーが出た。

『巨乳ファンタジー』は、展開速度が速かった。前半4~6割までたるいという旧来のスタイルではなかった。最初からサクサク進む。

開始早々、どうせ人妻と浮気するんだろ、と読者は予想している。ところが、予想外のスピードで物語が展開する。読者は驚く。

そういう、スピードのワンダーがあった。

ぼくは時代を読んでいたわけではなかったが、「いつもの展開速度だとつまらないや」と、いわゆるポルノの展開速度を逆手に取って、いつもよりスピーディに物語を進めたのだ。その結果、『巨乳ファンタジー』の展開速度は速くなり、幸運にも多くのプレイヤーに受け入れてもらうことができた。時代の変化に気づいたのは、『巨乳ファンタジー』のノベライズを書いてからである。

『巨乳ファンタジー』がそれなりに受け入れてもらえたというのは、速い展開スピードを求めるユーザーが増えていることを、恐らく示していたのだろうと思う。

が――。

エロゲーは、ずっとボリュームインフレーションをつづけてきた。ボリュームインフレーションの悪影響の下にありつづけていた。

その一番の悪影響が、たるい展開である。

なかなか物語が進まない。前半4~6割までがたるい。

店頭で売られている小説は、最初の1頁をめくらせなければレジまで持っていってもらえない。だから、序盤にスピードを入れようとする。そうしないとやばい、という作り手の緊迫感がある。

だが、ゲームは買ってもらえればある程度まではプレイしてもらえる。だから、結構だらだらと書いてしまう。ある方から聞いた話では、エロゲーのシナリオライターに一般ジャンルの物語を書かせると、なかなか山場が来なくてだるだるの展開になることが多いそうだ。

「序盤をだらだらと書いてしまう」という傾向は、すでに2000年頃にあった。2002年頃、「必要なだらだらと不要なだらだらがある、だらだらをだらだら書くのではなく最短で書くことが必要だ」ということを知り合いのシナリオライターたちに言ってみたのだが、彼らは「だらだらは必要でしょ?」と繰り返すばかりで、まったく言葉が通じなかった。今も、シナリオライターたちの認識は変わらないと思う。多くのディレクターも同じ感じかな?

だが、不要なだらだらは不要だったのだ。にもかかわらず、不要なだらだらはボリュームインフレーションの下で増えつづけ、序盤だけでなく、前半にも広がった。この頃から、エロゲーはこんな方向に着実に向かいつつあったのだ。

エロゲーはたるい……。

その中、2008年、リーマンショックが起きた。不況が進み、プレイヤーの時間が少なくなった。さらに2011年以降はスマホが急速に拡大、浸透した。ますますプレイヤーの時間が少なくなった。

時代は、前半たるたるのシナリオを楽しむ方向とは逆ベクトルに急進していた。だが、エロゲーはスピードを採り入れなかった。序盤にだらだらと時間の掛かるシナリオをつづけていた。プレイヤーが離れていったのは、当然の結果だったのだ。

物事の変化(衰退や凋落、隆盛)には、必ず外側からの理由と内側からの理由がある。エロゲー衰退にも、外側の理由と内側の理由がある。スピード化への未対応は、内側からの理由である。エロゲー市場が衰退した内側からの理由については、他に2004年の『Fate』以降、ストーリーゲームにシフトしすぎた」「キラータイトルが減少して、若者の注意を引き寄せる機会が減少した」がある。外側からの理由については、「新・エロゲーが売れなくなった7つの理由」で補足していただけると助かる。

ボリュームインフレーションが、まったくの極悪人であったわけではない。

「ボリュームインフレーションと客離れ」
でも説明したが、ボリュームインフレーションは次の2つによって発生した。

・2000年の『Air』の大ヒット(大ボリュームのシナリオを用意するソフトハウスが増加)
・DVD-ROMの普及(シナリオ量を増やして音声データが増えても、DVD-ROM1枚に収まる)

ボリュームインフレーションは、だらだらの世界を楽しみたいというY世代(1975-85年生まれの世代)の心情に、恐らくマッチしていた。2000年付近の数年については、確実に時代にマッチしていたのだと思う。そして、結果的にボリュームインフレーションは、大容量によるストーリーを一気に読ませるという、エロゲーならではの可能性を切り開いた。

ただ、2008年頃から時代が変わってしまった。宇野常寛が指摘するように、「がんばっても意味が見えないし成功もしないし、傷つきたくないから何もしない」という時代から、「何もしないと死んじゃうからサバイバル的に動く」という時代へのシフトが、どんどん進んでいた。ストーリー展開のスピード化という時代変化も起きていた。だが、それに対して、エロゲーは対応できなかった。恐らくそのツケが、他の諸々の原因といっしょになって、2010年に入って一気に減少ということにつながったのだろうと思う。

エロゲーは、まるで時代の流れに取り残されたガラパゴスである。一般文芸もセールスを落としているようだが、エロゲーもセールスを落としている。両者の凋落の原因は、スピード化への対応不足にあるのかもしれない。

エロゲーはもう終わりなのだろうか?

ぼくは、処方箋間違いを正せば、もう少し可能性が残っていると思っている。

今業界人がやるべきことは、だらだらした展開のシナリオをやめることだ。必要なだらだらはあってよいが、不要なだらだらはいらない。序盤からスピーディに展開させること。具体的には、序盤の展開速度を上げたプロットを立てることだ。

もちろん、サクサク感だけを出せばいいわけではない。それで中身なしでは、やはり敬遠される。でも、スピード感やサクサク感は必須だ。「もうクリックしてもらえないかもしれない」という緊迫感をもって、作り手がプロットを立てる必要がある。

スピードを入れると、プロットは難易度が上がる。だが、難易度の低いプロットではプレイヤーは戻せないだろう。今までのたるい展開のプロットから、スピード感のあるプロット、不要なだらだらを排したプロットへ――。

そこに、市場挽回の鍵がある、とぼくは思っている。

どのようにしてボリュームインフレーションがユーザー離れにつながっていったのかについては、「ボリュームインフレーションとだらだら展開が、いかにして時代に合わなくなったか」をお読みいただきたい。

というわけで。

『巨乳ファンタジー3』のノベライズ、『巨乳ファンタジー3 上 無名の神と呪いの蛇乳』が、ぷちぱら文庫から発売中です。

原作とまるで違う展開です。キャラの立ち位置変わってんじゃねえかよ、原作はどこへいった、でも、おもしれえ! という内容です。是非!

あと、

実践・エロティシズムと誘惑~鏡裕之のゲームシナリオ講義~

鏡裕之のゲームシナリオバイブル

ともに、電子書籍(PDF)で発売中です!

最後に、最近の代表作『巨乳ファンタジー』シリーズ。中世ファンタジー世界で、主人公がさくさくと成り上がっていくサクセスものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?