スマホが商業エロゲーのセールス低下に影響を及ぼしたのはいつか?

商業エロゲーは、2001年から2010年の間にセールスが50%減少し、さらに2011年から2015年の間に50%減少した。

仮に2001年から毎年同じレベルで前年比が動いたと仮定、前年比94%が10年つづいたとすると、だいたい53%になる。2011年からは、だいたい毎年前年比85%前後をつづけている。仮に前年比87%が5年つづいたすると、約49%になる

2001年から10年間の減少は比較的緩やかな減少であり、2011年から5年間の減少は、比較的急激な減少であった。この間に、商業エロゲーの初期ロットは深刻なレベルにまで低下をつづけている。つくったはいいものの、発注が1000本台というのは、珍しくはない。その中でも魅力的なソフトは、決して多いとは言えないが、リリースされている。

なぜ商業エロゲーが売れなくなったのか、理由を検証している時に面白いデータにぶつかった。

一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)が、サイトで公開しているデータである。統計資料という項目の中に、「パーソナルコンピュータ国内出荷実績」と題して各年度の販売台数や売り上げが載っているのだ。

2007年度 930万1千台
2008年度 879万2千台
2009年度 951万8千台
※上半期405万2千台、下半期546万5千台
2010年度 1043万8千台
2011年度 1127万7千台
2012年度 1115万2千台
2013年度 1210万9千台
2014年度 918万7千台(前年比75.9%)
2015年度 711万1千台(前年比77.4%)
2016年度 427万7千台(※ただし、4~11月までの集計で、前年比100.5%)

2007年から2013年まで、ほぼ順調に微増をつづけてきたパソコン販売台数が、2014年から下降している。2014年以降の低下は、消費税増税の影響だろう。その影響がようやくストップしたのが2016年度。消費税増税は、実実施年を含めて2年間、消費活動を停滞させるらしい。

ただ、商業エロゲーのセールスが急降下を始めたのは、2010年以降である。JEITAの数字とは合わない。「新・エロゲーが売れなくなった7つの理由」でも記したが、パソコンの販売台数が商業エロゲー衰退に影響したわけではない。影響したのは、光学ディスクのオプション化である。

ところで、気になるのはマイナビのデータである。マイナビの調べでは、大学生のパソコン保有率は上がっている。

2012年 75.9%(2011年12月~2012年1月調査)
※文系男子74.5、理系男子87.6、文系女子67.9、理系女子76.9

2015年 84%(2015年1月~2016年1月調査)

このように、大学生のパソコン保有率は上がっている。2014年も2015年も、大学生のパソコン保有率は高かったはずである。にもかかわらず、パソコン全体の出荷数は下がっている。なぜなのだろうか?

「2014年以降、パソコン全体の出荷数は下がっているが、大学生のパソコン保有率は上がっている」という事実が導き出すのは、2014年以降、パソコンを買わなくなっている一番の人たちは、大学生よりむしろ社会人だということではないだろうか。

大学生は卒論のためにパソコンを購入するということが多いのだろう。だが、社会人に卒論はない。もちろん、仕事にパソコンは必要だが、会社によっては、ノートパソコンを支給あるいは貸与する。わざわざ自分専用のパソコンを持たなくてもいい、スマホやタブレットがあれば充分という社会人が、2014年から増えてきたということではないだろうか。

ちなみにデスクトップパソコンとノートパソコンの各年度の販売台数は、このようになっている。

2007年度 デスクトップ326万6千台、ノートパソコン603万5千台
2008年度 デスクトップ282万8千台、ノートパソコン596万3千台
2009年度 デスクトップ279万6千台、ノートパソコン672万1千台
2010年度 デスクトップ324万8千台、ノートパソコン719万台
2011年度 デスクトップ330万9千台、ノートパソコン796万8千台
2012年度 デスクトップ302万3千台、ノートパソコン810万9千台
2013年度 デスクトップ366万1千台、ノートパソコン844万8千台
2014年度 デスクトップ258万1千台、ノートパソコン660万6千台
2015年度 デスクトップ175万3千台、ノートパソコン535万8千台


2014年度から販売台数が落ちているのは、たぶん消費税増税(5%⇒8%)の影響。このままではよくわからないので、各年度のデスクトップパソコンとノートパソコン比率を見てみると、こんなふうになる。

2007年度 デスクトップ35.1%、ノートパソコン64.9%
2008年度 デスクトップ32.1%、ノートパソコン67.9%
2009年度 デスクトップ29.4%、ノートパソコン70.6%
2010年度 デスクトップ31.1%、ノートパソコン68.9%
2011年度 デスクトップ29.3%、ノートパソコン70.7%
2012年度 デスクトップ27.1%、ノートパソコン72.9%
2013年度 デスクトップ30.2%、ノートパソコン69.8%
2014年度 デスクトップ28.1%、ノートパソコン71.9%
2015年度 デスクトップ24.6%、ノートパソコン75.4%

2009年度(2009年4月~2010年3月)に、ノートパソコンの比率が7割に到達している。2010年度には一時的に7割を切るが、それ以降はほほ7割以上をつづけている。だが、商業エロゲーに著しい影響を与えるほどの変化ではない。

となると、商業エロゲーのセールス低下を引き起こした大きな要因の1つは、ノートパソコンで光学ドライブがオプション化されたことになるのだろうか?(2011年のMacBookAirにより、各社がノートパソコンの軽量化&薄型化を推進、その結果、光学ドライブが内蔵ではなくオプション化されるようになっている)。

※2020年5月に消費者白書などを調べた結果、光学ドライブがオプション化されたことがセールス低下の原因であるとは言えないことが判明しました。詳しくは「商業エロゲーが黄金期を終え、一時的に衰退した理由についての推論」をご覧ください。

ちなみにタブレットの出荷台数については、このようになっている。

2012年度 41万台
2013年度 59万5千台
2014年度 87万1千台

さて、「新・エロゲーが売れなくなった7つの理由」において、ぼくは、

スマホの浸透によりスマホの利用時間が増大、パソコンは縁遠い存在となって、パソコンで遊ぶという機会が減少した

というようなことを理由に挙げた。だが、そのようになったのはいつ頃だったのだろう?

スマホが存在感を放ったのは、2008年の3G対応のiPhone発売からである。だが、スマホが2008年に直ちに影響力を発揮して、2008年のうちに商業エロゲーのセールスを低下させたわけではない。スマホが商業エロゲーのセールス低下に影響力を発揮したのは、いつだったのだろう?


MM総研が、「2014年度通期国内携帯電話端末出荷概況」を公表している。この概況に示された棒グラフを見ると、2011年にスマホの急上昇が始まったことがわかる。

先に挙げたJEITAのサイトにも、移動電話国内出荷台数実績が公開されている。ただし、データ元となっているのは、

NECモバイルコミュニケーションズ(株)、京セラ(株)、シャープ(株)、ソニーモバイルコミュニケーションズ(株)、パナソニックモバイルコミュニケーションズ(株)、富士通(株)

などである。iPhoneは入っていないっぽい。それでも、スマホの勢いを見ることができる。

※2009年までは、スマホの統計データなし
2010年度 379万台
2011年度 1323万7千台
2012年度 14594万5千台
2013年度 1220万5千台
2014年度 990万1千台


販売打数の推移は、以上である。2011年度に、凄まじい爆発、販売台数の上昇があったことがわかる。前年比で比べてみても、一目瞭然だ。

2011年度 前年比349.2%
2012年度 前年比110.3%
2013年度 前年比83.6%
2014年度 前年比81.1%

やはり、2011年度に爆発的増大がある。だが、それ以降は収束気味である。
ところで、移動電話全体に対するスマホの比率は、どのようになっているのだろうか?

2010年度 スマホ比率11.8%
2011年度 スマホ比率42.9%
2012年度 スマホ比率55.9%
2013年度 スマホ比率53.0%
2014年度 スマホ比率45.2%

2011年度に急上昇して2012年度まで伸びた後は、逆に下がっている。2015年度がどうなるかが注目だが、スマートフォンについては、急激な成長期は終わったということなのかもしれない。

ちなみに2008年から2011年頃までどんな変化が起きていたかというと、女性の割合が増えている。しかも、最初は高年齢層がスマホを購入し、最後に若年層がつづいた。(ニールセン、「スマートフォン利用者では女性の比率が拡大。2008年10月以前と比較すると30ポイント増」

ともあれ、スマホが急激にセールスを伸ばし、浸透を始めたのは2011年だと言える。

パソコンの販売台数自体が2014年から低下しはじめていることを考えると、2014~2015年以降については、この出荷台数の低下が商業エロゲーのセールス低下にさらに影響を与えているかもしれない。ただ、どの程度となると不明である。不明である限り、「確実に影響を与えている」とは言えない。2014年といって思い浮かぶのは、消費税増税である。パソコン販売台数の低下の原因が消費税増税だとするならば、消費税増税が商業エロゲーのセールスに対して影響を与えている可能性の方が高い。2013年以前については、パソコンの出荷台数の変化は、商業エロゲーのセールス低下に関係はしていない。

最後に。
恒例のCMで締めくくろう。

4月1日にぼくの新刊が出ることになっている。

高1ですが、異世界で城主はじめました8』である。

あと、

実践・エロティシズムと誘惑~鏡裕之のゲームシナリオ講義~

鏡裕之のゲームシナリオバイブル

ともに、電子書籍(PDF)で発売中です!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?