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オモシロ批評録

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面白いと思った批評を紹介します。 主に批評雑誌「エクリヲ」(エクリヲ編集部)掲載のものから取り上げることが多いかもしれません。 評論の読み方がわからないと悩む方もぜひ。
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記事一覧

詩のこころを読む 〜茨木のり子

詩のこころを読む 〜茨木のり子

先日読売新聞で梯久美子さんが、
コロナの今読むべき本に茨木のり子さんの「詩のこころを読む」(岩波ジュニア新書)を薦めておられたので、読んでみました。
ジュニア新書だけあって、とても読みやすい本です。
十代の頃にこの本に出会っていたら、もっと思春期の孤独感から解放されていたかもしれないと思う。良書でした。

「生まれて」「恋唄」「生きるじたばた」「峠」「別れ」と、人が生まれて死ぬというライフサイクル

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フィクションとノンフィクション

フィクションとノンフィクション

本のジャンルの分け方は細かく分ければ、文芸、伝記、雑誌、趣味、教養などなど様々であるが、大きく分けると、フィクションとノンフィクションの二つに分かれる。私はこれまでノンフィクションは好まなかった。書く立場の全くの他人が、現実に生きた人間のどこまでを詳らかにしていいのか、できるのかという疑問があったからである。

そもそもフィクションとノンフィクションの違いは、端的に言うと、フィクションは現実に起こ

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教育と教養と豊かさについて

教育と教養と豊かさについて

 テレビ朝日系の「刑事7人」という連続ドラマの8月7日の放送回のテーマは、教育だった。内容の概要は、教育の限界を目の当たりにしてきた教師が、自分の教え子の家庭が抱える家庭内暴力や借金などの問題に関して、主たる原因となっている人物を、これまた自分の教え子の中で暴力団員や犯罪歴のある人間となった者を使って殺させるという衝撃的なものだった。一言でいうと、教育に携わる者が、教育の限界を目の当たりにして、極

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バイオアート3 〜偶発性と進化

バイオアート3 〜偶発性と進化

 近年、外国人観光客に人気のプランは、体験型だと言われている。単に観光地を巡るツアーではなく、例えば殺陣を体験したり、甲冑を着たり、舞妓の格好をして写真を撮ったりするプランが人気なのだそうだ。

 そして体験型の鑑賞方式はアートの鑑賞形態についても当てはまり、私が過去に足を運んだ展覧会の中でも、実際の仏寺の一間を再現した状態で襖絵や屏風を鑑賞させる形式やウィーンの某会館の壁画を再現し、その壁画のモ

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バイオアート 2 〜現代における神話の役割

バイオアート 2 〜現代における神話の役割

神話というのは面白いもので、どの国にも昔から存在する。西欧圏ではギリシャ神話や北欧神話があるし、日本にも大国主命を筆頭に神々の系譜が古事記や日本書紀に基づき、語り継がれている。

 この神話というものは、一体何なのか。科学技術が進歩し、地球の誕生や生命がどのように生まれ、進化してきたのかということを科学的に説明できるようになった現代においても、神話は広く知られているし、語り継がれていくのは、なぜな

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バイオアート 1 〜フェイクフードへの抵抗感

バイオアート 1 〜フェイクフードへの抵抗感

今回から数回に渡っては、バイオアートについて取り上げたい。

 先日テレビの特集で、アメリカで圧倒的に食べられているものと言えばハンバーガーなのだが、そのハンバーガーに挟む肉について、異変が起きているとの特集が組まれていた。

 通常だと、牛肉の挽肉が使われるはずだが、結論から言うと、牛(もっと言えば動物)の肉ではなく、植物性たんぱく質に、赤身、つまり血の中に含まれるヘモグロビンの主成分を人工的に

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時代が求めるもの 〜エクリヲvol.7 「僕たちのジャンプ ジャンプ・ディケイド」より

時代が求めるもの 〜エクリヲvol.7 「僕たちのジャンプ ジャンプ・ディケイド」より

近頃、雑誌は売れないと聞く。それは漫画雑誌も同じらしい。漫画以外にもゲームなどの楽しみ方がたくさんあるからだろうが、ストーリーがあるもの、つまり物語性のあるものには、先の展開が気になるというある種の中毒性があるから、週刊漫画が生き残る可能性は、媒体の変化はあれ、まだまだ高いと考えている。

さて、今回は批評雑誌エクリヲvol.7より「僕たちのジャンプ ジャンプ・ディケイド」を取り上げたい。これは週

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円城塔 「言葉と小説の果て、あるいは始まりはどこか」インタビューより 2

円城塔 「言葉と小説の果て、あるいは始まりはどこか」インタビューより 2

前回エクリヲvol.8の円城塔のインタビューを取り上げた。その中で、言語については二つのフェーズに分けて考えるべきであり、一つは、脳神経系のような形での情報処理で、もう一つは文法的、公理的なものであるとされていた。そして後者のみ判明すれば、それを真似ることで文章を生成すること自体は可能で、結果として、AIが言葉を話すようになったと述べられていた。

 これはつまり、AIが話すのは厳密にいえば言葉で

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円城塔 「言葉と小説の果て、あるいは始まりはどこか」インタビューより

円城塔 「言葉と小説の果て、あるいは始まりはどこか」インタビューより

今回はエクリヲVol.8においての特集「言葉の技術としてのSF」を取り上げたい。冒頭の作家円城塔へのインタビューは主に言葉や文章とSFというジャンルの関係性について考察したものとなっている。

 SFと言えば、宇宙や科学技術が進歩した近未来を舞台にしたファンタジーだという印象があった。見たことのない世界、現代の常識が通用しない枠組みの中で生きることは非常に恐怖を伴うものだ。SFというジャンルは、そ

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