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写真批評 〜サシイロ 10 アニミズムを撮る

鈴木理策の写真展「Water Mirror」が渋谷で開催されていた。
鈴木理策の写真については、私は「熊野、雪、桜」で知ったのだが、Water Mirrorの写真も期待を裏切らない写真の数々だったのではないだろうか。

鈴木理策の写真の特徴は、写真から静謐な空気が伝わってくるところである。凛とした静けさは、幽玄な世界を私たちに見せてくれる。
鈴木理策はこのような写真をどうやって撮るのか。これについて、ある雑誌で、とにかくじっと三脚を立てて待つと話していた。それは何時間も、である。そうしていると、一帯の雰囲気と自身が同化してくるのだろう。例えば鳥や昆虫などを撮影したくて待つということはあるだろうが、鈴木理策の場合はそうではない。なかなか忍耐が必要な撮影過程だが、写真を見てみると、彼の狙いが納得できる。

日本には山岳信仰や龍神を祀る神社仏閣などに見られるように、自然に潜む人力を超えた大きなパワーの存在をはるか昔から感じとってきた歴史的経緯がある。そのパワーの正体については物理的、科学的なアプローチで明らかになりつつあるが、このパワーは目に見えないものであるにも関わらず、私たちは転変地変により運命を狂わせられることがないとは言えない。こうした力の存在を感じ、認め、表現していく世界観をアニミズムと呼ぶが、鈴木理策の写真にはその系譜の流れが見て取れる。

アニミズムを人為的に写真という表現手段で他人に感じさせることは、大変難しい。人為的と書いたのは、カメラのフィルターを通すという点に加え、予めいつそのパワーが発現するか人は全く読めないからである。それを鈴木理策はやってのける。その秘訣は、何だろうか。
そう、彼はきっと、誰もがそのパワーについて知っているはずの原点に立ち返っているだけなのだ。私たちは、自然を征服などできやしない。運命を自在に操ることなどできやしないということに。

静謐な空気の中、何時間も対象と対峙しているうちに、対象を丸ごと受け容れる境地に達する。その境地は、私たちが一生を生きていくうえで一番大切な姿勢なのだと、彼の写真は教えてくれている。

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