見出し画像

Helltaker妄執譚

注意だ: このテキストはフィクションです。Helltakerの本編とは一切関係がないし、これに類する描写もありません(なくもない)完全に筆者の妄執による産物であることをご理解ください。(たのんだぞ)

かいもの

眩しィ……
窓から日が差し込む。外を見れば高く昇った太陽。
頭イテェ……
二日酔いが頭を襲う。
足もイテェ……
ケルベロスが1匹、腿の上で丸まっていた。
胸がちべテェ……
命の水、ウォトカが零れてシャツを汚していた。
クソがよ……
最悪な週末が幕を開けた。

ケルベロスをクッションに押しやったら、空き瓶を手に、バキバキになった背骨を鳴らしながらゆっくりと立ち上がる。
頭がまだイテェ……
迎え酒をしようと冷蔵庫を開ける。中身はスッカラカン。クソが……
普段酒を置いているソファー前の机を見たが、そこにあるのは空き瓶とHellpad[訳注: ノートパソコン。Prologueまんがのアレ。]だけ。クソ……誰が呑んだんだよ……ああ、アタシか。クソッ……力任せに冷蔵庫のドアを閉めようとしたその時、背後から見慣れたデカい顔があらわれる。

「卵、牛乳、ジュース、チーズ……」さらさらと紙を擦る音が響き、荒々しくも育ちの良さを思わせる筆致で買い物メモが埋まっていく。
「んだよオッサン、買いもん行くのか?」
「そうだな。今日は良く晴れてるから都合がいい」
オッサンはパタンと冷蔵庫のドアが閉め、メモを読み返していた。

「なあ。」
空き瓶を掲げ、軽く振る。
「ふむ……ウォトカ2ダース……」
ペンが走る音。
「4ダースな」
「2ダースでじゅう……」
十分と言いかけたが、机上の惨状を見るや、メモを更新する音がした。

Hellpadを立ち上げ、暇を潰すとするか。
「それじゃ、留守番頼むぞ」
「ん」
目は合わせず、片手を軽く挙げて応える。
そしていつものように酒瓶に手が……
「あーもう、クソが」

「あたしも行く」
「珍しいな。ゲームはいいのか?」
「たまにはカラダ動かさねーと」
「だが留守番が……」
親指で後ろを指さす。裏口から声が聞こえてくる。

「んでさ、ココにドーンとバスケゴール立てようぜ!」
「下は芝生ですから、あんまり練習にならないと思いますよ」
「ゴール練習くらいはできんだろ……」
セキュリティを強化中の歴代最高検事総長たちだ。
話が脱線しているようだが、ジャッジメントがいるならいい感じに仕上げてくれるだろう。
「あんなのがいたら誰も入って来ないだろ」
「いや、不安なのは外よりむしろ……」

ボールが転がってきたかと思ったら、ケルベロス2匹がバーンと飛び出し、必死の形相で奪い合いを始めた。
「あいつらの方だ」
「あー」
ボクんのだ!わうあうあう!と不毛な争いが繰り広げられていた。この調子では、昼寝中のも合流して大乱闘オフラインマルチプレイが始まってしまうだろう。

「いンじゃねーの」
器用に足の指先でボールを掴み、剛速球を裏口へ射出した悪魔がいた。
クソ姉貴だ。
「犬ッコロどもの世話ならやっとっから、マリっちはデートにでも行ってくりゃいい」
こういうときだけオトナ面しやがって、まったくムカつくスケだ。
「フン。そりゃどうも」
礼を言ってやったというのに、姉貴はこっちを見向きもせずに、片手をひらひらと掲げてケルベロスたちの後にゆっくりとついていった。

「スゲェ!立てたばっかのゴールにさっそく得点したな!」
「ケルベロスどもがセキュリティ用鉄条網に絡まってなければ素直に喜べたんですがね」
「うえーん!服がボロボロになっちゃったよー!」
「アレじゃんほら、マリっちとかオタクくんがやってるゲームのカワイコちゃんみたいなやつ」
あたしはソシャゲはやらねぇと言いたかったが、ここであいつらに絡んで行ったら買い物には行けなくなるだろう。落ち着け、アタシはただ酒が呑みたいだけなんだ。

「うるさーい!!!」
数ブロック[訳注: 家と家の距離。地域ごとで異なる。この文では200mくらい(デカい)]は響いたんじゃないか、閑静な住宅街に地獄CEOの叫び声が轟く。
「そんなにヒマなら洗濯物干しを手伝え、どいつもこいつも汚れものばっか増やしおって」
「「「「「へーい」」」」」一糸乱れぬ悪魔たちの返事が力なく聞こえる。怒りに任せず自制できた自分にすこし感謝した。

「それじゃ行くか」
オッサンに促されるまま、外へ出た。
――ん?
「車、なんでねえの?」
「ああ、パンデモニカさんに貸しているからな。」
「ふうん」
あまり詮索はしないことにした。オッサンもあたしも、指は惜しい。
「かわりにこいつを使う」
「……大八車(リヤカー)かよ……」

空の大八車を押して1時間。ようやくスーパーが見えてきた。こんなことなら、家でおとなしくAI戦でも回していればよかったと思ったが、酒がないならクソAIのインチキにキレてただろうから、判断に困る。
すると、オッサンがアタシの肩をつついて、ストリートカフェを指さした。
その先には、楽しそうにマスターと談笑するパンデモニカがいた。
……あまり詮索はしないことにした。オッサンもあたしも、命は惜しい。

スーパーに着いたら、メモの商品を次々と入れた。牛乳、小麦粉、ベーキングパウダー、ウォトカ、リンゴ……待てよ。
「なあオッサン、菓子買ってかね?今度ボドゲやんだろ?」
「それもそうだな。デカいポテチでどうだ?」
「んや、手が汚れるもんはやめとけ。カードやトークンが汚れんだろ」
「たしかにそうだ。個包装のにしよう」
都合よく個包装菓子が並んでいたので、片っ端からカゴにぶちこんだ。輸入品のこいつらなら、味にハズレはない。

あとは卵、卵……あー、特売品の棚にあったのか。店の案内の場所にないわけだ。ちょうど最後の1パックが目に入る。オッサンが手を伸ばそうとした瞬間、足元から気配がした。
そこには婆さんがいた。魔力も何も感じられない、ただの婆さん。オッサンはそのまま腕を伸ばし、卵パックを手にする。

「どうぞ」
オッサンはかがみ、最後のパックを婆さんに渡していた。
婆さんはオロオロしていたが、オッサンは優しい声で続ける。
「僕たちは大家族でして、1パックじゃ足りないんですよ。また別の店で探してきます。」
と言うと、婆さんは安心したようで、ありがとうねぇとペコリと頭を下げた。オッサンも、いえいえと頭を下げ、アタシもつられてペコリとした。
「良い旦那さんをもって、幸せ者だねぇ」
婆さんが余計なことを言い、オッサンはガハハと笑い出した。ぺしぺしと脇をパンチしたが、不思議と悪い気はしなかった。

帰り道。結局、卵は見つからなかった。
「卵がなくても、メシは作れるさ」
「けどパンケーキ焼けねぇだろ、あのCEOがお冠にならなきゃいいけど」
「なら代わりの菓子を――」
「ややや!マリーナ殿にヘルテイカー殿ではありませんか!」
周りを省みないクソデカボリュームで天使があたしたちに呼びかける。
その手には、声に負けないクソデカいバスケットが握られていた。

中身は大量の鶏卵。オッサンがすかさずたずねる。
「どうしたんだこんなたくさんの卵?」
「実は今日、牧場の出産ショーを見に行ったのでありますが、お土産でたくさん売っていまして」
「でかした!」
オッサンは大きく手を振って天使の英断を讃えた。明日の朝食はパンケーキだろう。

暗ェ……
西の空に、夕日が沈みゆく。
静かだ……
ほうぼうで遊んでいた子供たちは家に帰っていた。
足裏がかゆい……
アタシらの大八車もまもなく家につく。
んだアレ……
庭を見れば、洗濯物は取り込まれていたが、セキュリティだかあそび場だかわからない有刺鉄線デスバスケコートが庭にできあがっていた。
ふん、クソがよ……
買ったばかりのウォトカを喉に流し込む。
ああ、まったく最悪な週末だった。今日の晩メシは何かな。

ほんやくに必要なあれこれの原資になります。よろしくネ