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CHLOE CHUA / Menuhin Competition 2018, Junior finals


 CHLOE CHUAは、当時まだ12歳だった。それから5年経っているから単純に今年で17歳ということになる。しかし、当時の映像の中で、周囲の大人の演奏者に混じって無心にバイオリンを弾いている姿が私の心を打つ。私はバイオリンニストでもクラシックの理解者でもないので、音の良し悪しはわからない。しかし、彼女の演奏から伝わってくるものが、私の心を打ちのめしてやまない。
 一曲終わって、ニコリと微笑む彼女の笑顔。それは自分の娘が、
「パパ、私、ちゃんと弾けた? 」
 とドヤ顔で父親に共感を求めているようで、彼女のあまりの無垢な笑顔の可愛さに、見ている私の全身がトロケてしまいそうになる。有無を言わず無防備に、自分の全身全霊で彼女の存在を受け入れていしまいたい。そんな欲望にかられる。こんな思いに駆られることは滅多にない。

 そんな彼女に興味を持って、最近の彼女の映像を見てみたが、やはり、以前ほどの感動は感じない。12歳のクロエの、あの瞬間でしか彼女が放つことのできないオーラがあったのだろう。
 たぶん、当日の彼女の演奏は関係者からすれば、なかなか素晴らしいが、完璧ではないのだろう。しかし、その時の彼女の演奏する姿は私の心を鷲掴みにしてしまって離さない。まさに、あの瞬間の彼女の全存在は二度と帰っては来ない。
 自分の子供であっても2歳、3歳当時の娘に、二度と会うことができない様に。
 まさに「一期一会」とは、こうことなのだろう。私の娘はもう30歳になった。しかし、2、3歳の頃の娘と再会することはできない。その時、その瞬間でしか成り立つことのできない存在は確実に存在する。だから、出来うる限り瞬間、瞬間を大切にして噛み締める様に生きていきたいものだ。
 しかし、そうは言っても、物事はそんなに単純じゃない。私の存在自体にしたって明日はどうなっているかなんて、分かりはしないのだから。なおさら今の瞬間を、考え得る限りの最善を尽くして生きて行きたいものだ。


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