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「源氏物語」の「花宴」より

 茶道を初めて半年。最近、茶道に飽きて来た。
 アシスタントのTさんが、
「薄茶の16通りのお点前の次に、濃茶になります」
 という言葉を聞いて、一気に「16通りのお点前」が心にノシカカッて来た。
「ええっ! 16通りのお点前ですか!」
 先が思いやられると、気持ちが覚めそうになった。しかし、Tさんがもう一言、言った言葉を後で思い出した。
「道具拝見の時、茶杓の銘は、自分で考えるんです」
 と言った言葉である。
「お道具拝見」を終えて、客と主人の問答に入る。そこで、
「お茶杓の作は?」
「淡々斎でございます」
「御銘などありましたら」
 と聞かれる。姉弟子たちの問答を聞いていると、どうも、その場で自分で考えて答えているように思えた。そのことをアシスタントのT氏に、確認した。
『やはりそうだったのか。これは、まずいことになった』
 と、その時は不安になり恐怖におののいた。自分で、しかも、その場で茶杓の「銘」を応えなければならないのか、と。「銘」の必須条件は、「季語」だとか。
 時は2月。季語は「春の季語」。ということで自宅で、次回のお稽古の準備のために「茶道と季語」をPCで検索。「5000語」くらいあるらしいことが分かった。では、その中から「2月」でも使える季語を探した。一つ、気に入ったものを見つけた。
「朧月」
 が気に入った。それに「夜」を付ける。「朧月の夜」として使おうと思った。そこで、もう一度、確認の意味を込めて「朧月の夜」を検索した。すると、面白い話がヒットしました。
『源氏物語 花宴(はなのえん)』で、光源氏は『朧月夜』を口づさむ美女に出会う。
 あらすじは、
『姉弘徽殿女御の産んだ東宮(後の朱雀帝)の女御に入内する予定だったが、宮中の桜花の宴の夜に思いがけなくも光源氏と出会い、後に関係が発覚して入内は取り止めになる』
 と言うお話。これは面白いと思い、次回のお稽古で使おうと決めた。
 お稽古の当日。客として、中年女性の先生補佐の立場の人が、私の客としてついた。この女性は靖国神社のお茶会で「正客」を務めた人。高齢の兄弟子が彼女を評して、
「あそこまで問答のできる人は珍しい。いい問答だった」
 と感嘆していた女性。
 で、お稽古で、「道具拝見」の後の問答になった。
 「お茶杓の御銘など、ございましたら」
 と来た。待ってましたとばかりに、前日、考えておいた御銘を口にした。
「朧月の夜(おぼろつきのよる)に、ございます」
 彼女は、一瞬考えて、
「朧月…、春ですねっ」
 と、とりあえず合格のようだった。しかし、その先まで考えてあるとは、彼女も思いつかなかったようだ。源氏物語の話をしたかったのに……。

『お点前の所作』に飽き始めたころ、次の興味は「お茶杓の銘」に目覚めてしまいました。
 今夜もPCで、次の茶杓の「御銘」を探しています。
『大人の謎かけ遊び』。
 次は、どこまで気付いてくれるのだろうか、楽しみです。質問が無ければ、自分で付け加えようか、と思います。

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