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頭の中で受精卵の宗達が、細胞分裂をはじめたぞ!

 いつ、どこで、どんな両親の元で生まれ育ったか全く不明の主人公に、集められた資料をもとにして、推測の域を出ないが戸籍を仮りに与えた。 
 するとだろう。私の頭の中の俵屋宗達の卵子が受精卵になって、一気に細胞分裂を始めた。その成長の勢いに自分でも驚いている。
 受精卵に強い生命力を与えた一番の功労者は、岡倉天心であるが、彼の一言をきっかけに小堀遠州が爆走を始めた。そこから宗達の受精卵の細胞分裂が、一気に加速し出した。
 本阿弥光悦の孫が書き残した資料も、細胞分裂に大きく寄与した。さらに金沢在住の研究者の論文が傍証となり、私が仮定した方向性に勇気を与えてくれた。
 これで、もう少しで乳幼児の俵屋宗達が、私の頭の中で産声を上げる。あとは、環境を整えてあげれば、親がなくとも子は育つと言われる様に、産声をあげた彼は、定められた歴史上の運命の軌跡を辿って行くだろう。その姿を私は、一人の記者として追いかけていけば良い。
 一つ懸念があるとすれば、私の年齢である。息切れしないか心配である。不安に駆られそうになった時、先輩方の言葉を思い出す様にしている。
「作家の傑作と言われる作品の多くは、70歳台で生まれている」
 それまでに数年ある。まだまだ行けるはず。

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