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武家の末裔の家 - ㉕

 会社の控室での、待機中の時間の事。長谷川等伯の言葉を書き残したと言われる「等伯画説 日通上人」に意識を集中していた。文禄元年(1592)ごろに表されたとされる古文書。なんとか読み進もうと四苦八苦していたら、隣に座っていた同僚が、
「俺の嫁さんの家は、武家の家なんだ」
 と、話し出した。
「家に罪人を介錯してた刀が残っていた」
 目の前の古文書はそっちのけになった。
「その刀って、実用性に富んだ幅広の刀?」
 と聞くと興味深い話が帰ってきた。
「実用一辺倒の刀でね。それが、何度きれいに研いても、鞘から抜けなくなるんだ」
 その話を聞いた時、背すじがゾクッとした。
 一度血を吸った刀は、ちょっとやそっとじゃ、きれいにならない。下手をすれば血が湧いて来て刀が錆びて鞘から抜けなくなる。そうなると鞘まで手を加えなくてはならなくなる、と読んだことがある。
「その刀、一度見せてくれないか?」
 と同僚に頼み込んだ。
「その刀、気味が悪いんで、おじさんにあげた」
 なんと。実際、側にあるとそう思っても仕方がないだろう。
 これだけて、なんだか書けそうな気がしてきた。
『蘇る妖刀』
 という話を。

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