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母の魔法が解けたとき

バナナミルク。母親が時々作ってくれたことがある。
何やら仰々しい機械を出してきて、ものすごい音がして、できあがったそれは、さらさらの牛乳がとろとろになっていて、甘くておいしい。

自分の中でバナナミルクはなんとなく、そのへんの飲み物とはレベルが違う、「親が作ってくれる」ほんのりとレベルが高い飲み物だった。

先日、バナナが余っていた。牛乳も残っていた。家を出掛けに母が「バナナミルクでも作ったら?」と言ってきた。

母が出ていってひとり、台所の大掃除中でちょうど出ていたミキサーをコンセントにつなぎ、バナナを入れて、牛乳を入れて、砂糖を入れて、蓋をして、スイッチ。

できた。……できた。あっという間に。

自分の中で「親」はなんとなくすごいキャラクター。なんだかよくわからないことをして、おいしいものを食べさせてくれたりする(なぜか食べることについての記憶が多い)。

20代も半ばを過ぎる頃になってくると、大体のことは自分でできる。だんだんと、親の使っていた「魔法」が見えてくる。というか、いつの間にか自分でそれを「なぞって」いることに気付く。なーんだ、案外たいしたことないじゃん、と言ってしまうと小馬鹿にしているようだけど、そういうことでもなく。なんとなくふわふわしていた「なんとなくすごい」イメージの輪郭がはっきりとしてきて、だんだんと「ふつうの人」に見えてくる。

つくづく、「親」は「親」なだけじゃなくて、「ひと」なんだなあと思う。

そして、自分もいつの間にか大きくなって、魔法が使えるようになるんだろうと思う。子どもには「ひと」の面も見せてやりたいな、と思った。

本とか買います。