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ポーランド旅行記・17日目

いよいよ最終日。やり残したことと言って思いつくものは特にないが、せっかくなので航空博物館に行くことにした。少し前までなら是が非でも足を伸ばしていたところだが、ここ数年で行きすぎた気がしてなんとなく惹かれなくなっていた。泊まった家の大家さんが家族で行った時の写真を見せてくれて、少し興味がわいた。

昨日の反省を活かしきちんと下調べをする。と行ってもルート程度。トラム1本で行けるらしい。

会館の5分後に到着。館内は薄暗いがチケット売り場はきちんと開いていた。

入って1部屋目に飛行機が並べてある。スピットファイアやメッサーシュミット。それ以外には機械の反応が微妙で落ちる他ないシミュレーターや、どこかの航空会社のエコノミークラスの座席、通信部隊についての展示など。ここは外の展示がメインだそうだ。広々とした敷地とはいえ飛行機にはギリギリのようで、よその飛行機博物館と同様雑多に並べてある。メンテナンスも大変だろうし一度置いたら動かすのも大変だろうし、雑多と言ってしまうのは簡単だが苦労もあるのだろう。

飛行機と言うと一般的に共有されたイメージはあると思うが、実際にどういうものがあるのかとなると本当にたくさん種類がある。今回は特に「趣のある」機体が多かった。他の機体の間や奥や展示の端にそういうものがよくあった気がする。

「エンジンの部屋」というものを見つけた。入ってみると本当にエンジンがひたすら置いてあるだけで笑ってしまったが、あらためて考えてみるとすごい量だ。分かる人には分かり、好きな人にはたまらないのだろう。熱心に眺めてはああだこうだとしゃべっている人たちがいた。

3時間ほどかけて全部見た。写真を撮りながらなのでおそらく他の人よりゆっくり。これらの写真がいつ日の目をみるのかは、わからない。

博物館の前からトラムに乗り、旧市街とは逆へ。ノヴァ・フタ。第二次世界大戦後、ポーランドが共産主義の影響を受けた頃に作られた区域を見に行く。クラクフの別の一面として大家さんから勧められていた。

降りようと思っていた停留所のふたつ前くらいからそれらしい街並みになってきた。「グレー感」が高まり、古いヨーロッパの趣は薄まってゆく。

目的の停留所のひとつ手前で降りた。歩いて「ロナルド・レーガン広場」へ向かう。共産主義時代が終わって名前も変わったらしい。それもそれでという感じだ。クリスマスツリーもあった。

中心は特によくできている。まっすぐな道に建ち並ぶ建物。シンメトリー。徹底的な効率化とは言うが、それはそれで強く人間的だとも思う。街の博物館に寄ってみたがごく一部の区画についてのものだった。

歩けば歩くほど懐かしい感じがする。経験したこともない昭和レトロ的な懐かしさではなく、数年前のロシア暮らしを思い出す懐かしさ。あー確かにこんな感じだったなと、ここ数年かけて帰納的に共産主義を実感している。

色々歩き回ってみようかとも思ったがさすがにお腹がすいた。最後の昼食は旧市街のブルワリーレストランに行く。

ご飯の前に歴史博物館のガイドブックを買う。街の歴史についてはもっとしっかりした本が欲しかったが、結局なかなかいいものが見つからなかった。博物館の展示がやけに気に入ったので、多少薄くてもそのガイドブックが一番なのだろう。

街は1ヶ月後のクリスマスに向けて飾り付けが進んでいる。もう少しいればクリスマスマーケットの出店やイルミネーションなども楽しめたのかもしれないが、こればかりは仕方ない。聖マリア大聖堂へ行く。街の中心にあり、ほぼ毎日見ていた教会。本当に最後の最後に来ることになった。事前にすごいということだけはよく目にしていたが、本当にものすごかった。絢爛豪華という表現の画数の多さがよく合う。お祈りの人たちは無料で後ろの方だけ入れ、有料の観光客は教会のほとんど一番前まで行ける、という形だった。観光客こそ後ろだけで良いのではとも思ったが、色々事情もあるのだろう。

ずっと気になっていた場所だけに、言葉は見つからなかったが満足感は大きかった。いつも通りのお礼と「よろしく」を伝える。これで心置きなくご飯が食べられる。
時間は昼の2時半、ランチタイムは外したと思っていたがいつもに増して観光客が多かった。初めて奥の席に通される。クリスマスツリーがあった。1ヶ月前というのがそわそわし始める時期なのかもしれない。

ジュレックという酸味のあるスープに、豚のシチューをかけたじゃがいものパンケーキ、それとソーセージ。最終日ですもの、という勢いで豪勢に行く。期待通りおいしかった。意外と苦しすぎることにはならず、ちょうど良い満腹感で店を出た。旧市街をぶらぶらしようかとも思ったが、本当にぶらぶらする以外にアイデアがないのでまっすぐ帰ることにした。滞在最後のトラムに乗る。何をするにも「最後の」が付くようになってしまった。お腹が膨れたところで何を考える気にもならず、晩ごはんは食べかけのチョコでいいかな、なんてことを思っていたらよく行っていたケーキ屋さんが開いていた。最後のクリームケーキを買う。

エレベーターで上に上がるのも、このドアを開けるのも、何もかも最後だ、なんて思いはするが実感が湧かない。むしろ自分で必死に実感を持たせようとしているみたいだ。引くドアを押さなくなったのに気付いた時には感慨があった。

家に戻ってのんびりしていると大家さんが紅茶を淹れてくれた。ケーキをくれたりしょうが湯を作ってくれたり、最後に色々としてくれた。その流れで、というのかどうかわからないが、気がつくと手作りバターを作ることになっていた。クリームをミキサーに入れてしばらく回し、固体と液体に分離したところで固体を手で絞る。出来立てをパンに塗って食べたが、さっぱりしている割に濃厚、とよくわからない感覚だった。おいしかったことは確か。大家さん謹製のプラムジャムと合わせてパンに塗ると、それはまた非常においしかった。

シャワーを浴び荷物をまとめ、コーヒーを淹れてケーキを食べる。飛行機は朝の6時発。日頃だらだらしているくせに、こういう時だけなかなか時間が流れない。うっすら眠気と戦いつつ諸々の準備を済ませ、2時に家を出た。

2時半、空港着。ぱらぱらと人がいる。無料のはかりがあった。スーツケースは制限クリア。未だに持っただけでは重さがわからない。ダメだったら本を小脇に抱えていこうと思っていた。自分の感覚というのは本当にあてにならない。

5時20分。喉が痛い。売店でココアを買った。こんな時間に飛行機に乗る人もいないだろうと思ったが、意外といる。ポーランドは、とりあえずここまで。家に戻るまでが旅行なので、これ以降はおまけでもうひとつ、さらにエピローグでもうひとつ書こうかなとは思っている。


本とか買います。