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在宅ワーカーに人気の「アクトチェア」。No.1ヒット作を超えた、その魅力と開発秘話に迫る

家具メーカーのイトーキが開発したワークチェア、「Act(アクトチェア)」。2019年に発売された商品ですが、コロナ禍で在宅ワーク用に購入する人が増え、人気を集めています。2021年8月現在、同社で最も売れているチェアです。

どんなインテリアにも馴染みやすいデザインと、座り心地を追求した機能性の高さ。そして、個人ユーザーでも購入しやすいラインナップの豊富さが人気の理由だそうです。

アクトチェアの開発秘話や製品のこだわりについて、商品開発本部 プロダクトマネジメント部 商品企画室の寺本 宜広さんにお話を伺いました。

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「No.1を超える商品をつくってほしい。」未経験で託された、次世代のチェア開発

── 寺本さんはこれまで、チェアだけでなく様々な商品を開発されてきたそうですね。

2006年に入社後、工場での設計を経て、2011年から商品企画を担当するようになりました。キャビネットやワークステーション(デスク・ワゴンなど)の開発に長く携わった後、2019年発売のアクトチェアを開発しました。実はそれまで、チェアの開発はほぼ未経験だったんです。

── はじめて手掛けたチェアがヒット作になるとは、すごいですね‥‥!アクトチェアはどんな経緯で誕生したのでしょうか?

2012年発売の「f(エフチェア)」という商品があるのですが、デザイン性と機能性を兼ね備え、お手頃な価格ということもあり、当時イトーキ製品の中で一番売れていました。このNo.1チェアを超えるものをつくってほしい、ということで商品企画の私に声がかかったんです。

ちょうどその頃、日本でもフリーアドレスやABW(Activity Based Working)が浸透しはじめ、カフェのような内装のオフィスが急増していました。これから先、ワークチェアの使い方や求められる役割も変化していくだろうと予測し、次世代の商品となるアクトチェアを開発した、という経緯です。

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左:エフチェア/右:アクトチェア

どんな体格の人でも、どんな作業シーンでも使いやすく。他のチェアにはない、オリジナルの新機能を搭載

── アクトチェアは、どんな商品コンセプトで開発されたんですか?

アクトチェアは、先代エフチェアのコンセプトである「フィット&フリー」を昇華させ、「アジャスト&アクティブ」というコンセプトを採用しました。

作業に集中する時も、リフレッシュする時も、座る姿勢や身体の動きに順応し、ワークパフォーマンスを高める造りになっています。

── アクトチェアの特徴について、詳しく教えてください!

では、ポイントとなる機能について、チェアの部位ごとに説明していきますね。

まず背面についてですが、支柱にピボット構造を採用することによって、肩の動きに合わせてねじれるようになっています。身体をぐっと後ろにそらした時も、しなやかに追従してくれます。「アジャスト&アクティブ」というコンセプトの通り、フレキシブルに身体の動きをサポートしてくれるのが特徴です。

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ピボット構造を搭載した背面

次に注目していただきたいのが、肘置きです。一般的なワークチェアの場合、高さを変えて、角度を変えて、と順番に動かして調整することが多いですよね。アクトチェアの肘置きには「4Dリンクアーム」という新開発の機能を採用していて、調節用のレバーを押しながらワンアクションで自在に動かせるようになっています。

肘位置が瞬時に定まってストレスフリーですし、可動域が広いので、どんな体格の人にも合わせやすいです。また、キーボードでタイピングをする時やスマホを触る時など、作業シーンに応じて丁度いい位置に調整することができます。

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「4Dリンクアーム」を搭載した肘置き

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そして最も重要な座面ですが、おしりをすっぽりと包み込むようなバケットタイプのシート形状になっています。下半身がしっかり安定するので、非常に座り心地が良いです。

また、座面の先端部分を内側に巻き込み、長さを調整することができます。これはイトーキ独自の技術です。太ももの圧迫を解消することで、血流の悪化を防ぐことができます。

座面全体を前後にスライドさせて奥行きを変えるチェアも多いですが、それだと座った時に背面との距離感が変わってしまい、座り心地が悪くなってしまうこともあるんです。

小柄な方は特に、座面の奥行きサイズが合わなくて深く腰掛けられなかったり、脚が浮いてしまうことも多いので、ぜひこの機能を使っていただきたいですね。

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レバーを動かすと、座面を内側に巻き込んで長さを調整できる

── 背面から、肘置き、座面まで、さまざまな機能が搭載されているんですね。先代であるエフチェアから継承したものが多いんですか?

いえ、アクトチェアはエフチェアの後継でありながら、「少し手を加えただけ」の商品ではありません。実は、ほとんどの機能をゼロから構想・開発しています。実際に、2つのイスを並べて細部を比較すると、その違いが分かると思います。

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左のエフチェアと、右のアクトチェア。
肘置きや座面の形を見比べると、違いは一目瞭然。

カジュアルな空間に合うデザインとカラー展開。樹脂の色は、こだわりのグレーを採用

── アクトチェアは、高機能でありながらデザインも洗練されていますよね。

「ザ・ワークチェア」という印象を軽減できるよう、デザインも細部までこだわっています。たとえば、チェアを横から見た時に、背面と座面がなだらかに繋がるよう工夫しています。背から座への角度が急だと、一気に機能チックというか、業務用チェアっぽさが出てしまうんです。

また、背面や肘置きに使っている樹脂は、白や黒ではなく薄いグレーにしました。これは、カフェのようなカジュアルな雰囲気のオフィスが増えているなかで、木質の家具に合う色を追求した結果です。

グレーはグレーでも、あまり濃い色だと昔の職員室にあったイスのようになってしまうので、ほんのり淡いグレーにしました。また、青みグレーや赤みグレーなど様々な色調があるのですが、どんなテイストの内装にも合わせやすいよう、できるだけ色味・温度感のないグレーを採用しています。

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── 背面・座面のカラーバリエーションも、優しい色合いのものが多いですよね。

メッシュ・クロス共に、テクスチャーや色味にこだわった張地を使っています。カラーバリエーションは全部で6色あり、インテリアに合わせやすいトーンで揃えました。ホワイトグレーやグレイッシュブラウン、ダックブルーなど、落ち着いたカラーが人気です。

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企業のオフィスの場合、執務スペースのチェアをコーポレートカラーで全脚揃えたり、シンプルな会議室のアクセントとして複数カラーのチェアを混ぜて置いたりと、さまざまな使い方をされている印象ですね。

木質家具が多めのカジュアルなオフィスに合うデザインなので、必然的に家のインテリアにも合わせやすく、コロナ禍では在宅ワーク用に購入いただく機会が非常に増えています。

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ニューノーマルな働き方を見据えて。ワークチェアの価値を問い直し、今までにないアイデアで商品を開発したい

── アクトチェアは、先代エフチェアを超えるヒット作になりましたが、開発を担当された寺本さんとしてはどんなお気持ちですか?

当時一番売れていたエフチェアの後継をつくるというのは、正直とてもプレッシャーでした(笑)。アクトチェアは、私にとってはじめてゼロから手掛けたチェアでしたが、多くの方に使っていただける商品になって嬉しいです。

逆に、チェアの開発が未経験だったからこそ、「あんな機能があったらいいな」「こんなデザインにできたらいいな」とゼロベースでアイデアを出すことができたと思います。これまでイトーキが培ってきた技術を最大限に活かしつつ、従来の常識にとらわれない製品をつくることこそ、商品企画に求められている役割だと考えています。

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── 最近は在宅ワーク用のチェアニーズが高まっていることもあって、個人ユーザーが急増しているんですよね。

そうですね。これまでは法人のお客さまが多かったのですが、コロナ禍で個人の方からお問い合わせをいただく機会が増えました。2021年7月現在は、イトーキのショールームにお越しいただく方の半分以上が個人ユーザーです。

ワークチェアというのは従来オフィスでしか使わないものでしたし、その存在を意識する機会も少なかったと思います。ただ、コロナ禍で在宅ワークを経験してみて、「ダイニングチェアやソファでは長時間働けない」「ワークチェアって大事なものだったんだ」と気付かされた方も多いのではないでしょうか。この1年で、ワークチェアの価値が再認識されるようになったと実感しています。

さらに、ワークチェアが単なる「什器」ではなく、お部屋の一部、つまり「インテリア」「家具」として扱われることも増えているんです。これは、ワークチェアの長い歴史の中でも例を見ない、大きな転換点だと思います。

── まさに、ワークチェアに対する考え方、そして求められる役割が変化していますね。最後に、寺本さんの今後の展望を教えてください!

コロナ禍で働き方が多様化して、オフィスや自宅、コワーキングスペース、カフェなど、働く場所の選択肢もどんどん増えています。同時に、「オフィス=働く場所」「自宅=くつろぐ場所」という概念も徐々に薄れていき、それぞれの境界線がなくなっていくと予想しています。

こうした新しい時代にマッチするワークチェアとは、一体どんなものなのか。法人・個人を問わずワークチェアに注目が集まっている今だからこそ、家具メーカーである私たち自身も原点に帰り、改めてその価値を問い直していきたいと思っています。

あえて突飛な例を挙げるなら、たとえば在宅ワークであぐらをかいて座る用のチェアがあってもいいかもしれない、とか。「ワークチェアはこうあるべき」という固定観念を覆すようなアイデアで、今後も新商品の開発に取り組んでいきたいですね。

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interview by Kagg note編集部 / photo by 森田剛史

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