篭田 雪江(かごた ゆきえ)

車いす乗り兼物書き屋※電子書籍「川べりからふたりは」発売中※「#2020年代の未来予想…

篭田 雪江(かごた ゆきえ)

車いす乗り兼物書き屋※電子書籍「川べりからふたりは」発売中※「#2020年代の未来予想図」withnews賞※webニュースサイトwithnewsでコラム不定期連載中。※ご連絡はTwitterDMまでよろしくお願いします。※現在体調不良により更新等停滞中です。申し訳ありません。

マガジン

  • 狼狽させるものたち

    からだとこころがかき乱されたnote

  • #エモいってなんですか?〜心揺さぶられるnoteマガジン〜

    • 114本

    理屈ではなく何か感情がゆさぶられるそんなnoteたちを集めています。なんとなく涙を流したい夜、甘い時間を過ごしたい時そんなときに読んでいただきたいマガジンです。

  • いのちの削ぎ落とし

    短編、掌編小説など。

  • 掌編集「カッシアリタ」

    車いすの主人公と、彼のもとへ転がり込んできた車いすの女「カッシアリタ」、通称リタの日々を描いた掌編集。一話完結なのでどこからでも読めます。

  • からだとこころの奥から

    エッセイ、その他

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電子書籍「川べりからふたりは」出版に寄せて

 切ないけれど、あたたかい気持ちになれる小説が書けたらなあ。  そんな思いで、大学ノートに下書きを書きはじめたのは、確か三年くらい前だったと思います。  それまでも自分をモチーフにして、いろんなかたちの小説を書いてきました。でも、できあがる作品はどこか暗く、重く、ネガティブな色の濃いものがどうしても多くなってました。無意識のうちに、自分の「障がい」をそういうものとしてとらえていたからかもしれません。  それでも、それなりに評価してもらえたのか、地元紙が毎月主催している短編文

    • 掌編「カッシアリタ」 春の歌

       電線が幾本も走る窓から、春の日差しが差し込んできていた。やわらかい毛布みたいな光だ、とリタはずっと待ち望んでいた陽を、あぐらをかいた姿勢で全身に受けた。  あったかい。  ついつぶやいてからふと思い立ち、着ていたクリーム色のパーカーとTシャツ、膝が擦り切れはじめたジーンズを脱ぐ。下着も取ろうか、と思ったが、まださすがにそこまでやるには寒そうなのでやめた。  半裸のまま、床の上に大の字になる。胸元やお腹に日差しが当たり、ほんのり熱を持つ。  久しぶりだな、これやるの。  リタ

      • 掌編「カッシアリタ」 イチカさんの幸せ

        ※勝手ながら投げ銭制を再開させていただきます。以前とおなじく全文読めます。  あ、来たよ。  リタが右手にある窓の向こうに首を伸ばし、手を振った。おれもつられてリタの視線を追う。黒いダウンジャケットに白のトレーナー、いい感じに着古したジーンズといった、ラフな姿のナカイさんが歩いてきている。事前に聞いていたように背が高く、浮かべた笑みは一見してひとの良さを感じさせる好青年だった。向こうもおれたちに気づいて、手を振り返す。  ほら、イチカさん。  リタはテーブルの向かいの席で、

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        • 書くことは生き恥をさらすことだから

          先週金曜より、またもや、という単語を使いたくなるが、体調不良で入院している。 今も点滴を受けながら、この駄文をスマートフォンで書いている。後で輸血をするかもしれないというから、ため息しか出ない。 昨年晩秋、腎血管狭窄の治療のため、二度入院した。 治療自体は成功した。だが、処方された新薬の影響なのか、それとも別の原因があるのかわからないが、退院後、とにかく体力気力の減退が激しかった。 朝、着替え、服薬、洗顔、と必要なことを済ませ、そのあと用事がないと、ばったり床に伏して

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        • 狼狽させるものたち
          156本
        • #エモいってなんですか?〜心揺さぶられるnoteマガジン〜
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        • 掌編集「カッシアリタ」
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        • いのちの削ぎ落とし
          46本
        • からだとこころの奥から
          103本
        • 小説「ふたりだけの家」
          15本

        記事

          掌編「カッシアリタ」 ーリター

           尿漏れシート、敷かないとなあ。  汗ばんだTシャツを脱いでいると、リタがけだるい様子で押し入れを開けた。乱暴に包装を破いた八個セットのトイレットペーパー。ビニール紐で結んだ古雑誌。聴くこともなくなったCDを入れたボックス。冬に使うハロゲンヒーター。引き出しになにを入れたかさえ忘れたカラーボックス。必要なもの、半分ごみと化したものが、雑然と押し込まれている。  そんななかに、寝たきりの年寄りが使うような、尿漏れシートのパックが紛れ込んでいた。紙おむつのパックも斜めになって突っ

          掌編「カッシアリタ」 ーリター

          掌編「カッシアリタ」 それがあなたの幸せとしても

           ひと月前から、リタが働きはじめた。  仕事についたきっかけは、おれの体調悪化。仕事と自己導尿で倦怠感が常にまとわりついているおれを見て、リタは突然、あたしも働く、と言い出した。  具合の悪いあんたにだけ苦労させて、あたしばっかり楽してたからだね。気づくの遅れてごめん。  リタは元来あまり体力がない。だから共に暮らして以来、必要以上に外に出ることなく過ごしてきた。だからからだは大丈夫なのか、と心配だったが、リタはさっさと赤かった髪を黒くするとハローワークに行き、ある社会福祉法

          掌編「カッシアリタ」 それがあなたの幸せとしても

          新しいポンコツになるまで

          今週はじめから入院して、腎血管造影による治療を受けた。 結論から言うと、ひとつだけ機能していた左腎臓の血管の再狭窄が見つかり、苦労の末それを広げ、幸いなんとか腎機能は保たれた。 そのことを詳しく書こうと思ったが、故あってやめた。そのかわり、私のポンコツのことを書こうと思う。 今年の晩春から初夏の話になる。 長年乗り続けた「おいらのポンコツ」が、とうとう限界を迎えた。 細かい故障を直しつつ、周囲からの「買い替えたら」の声も無視し、だましだまし乗ってきた。だが今年の車検

          新しいポンコツになるまで

          掌編「カッシアリタ」アケミとリタ

           やたら冷たい秋風のせいで、安ライターは何度こすっても火がつかなかった。  あたしは煙草をくわえたまま舌打ちしつつ、ライターを持つ右手を左手で囲むようにしながら、さらにやすりを回した。それでもすき間から風が吹き抜け、どうしても火が消えてしまう。  もう、ちくしょう。  煙草をくわえた唇でもごもごと悪態をついていると、横からすっと手が伸びてきた。軽く指の曲げられた細い手は、あたしの両手を優しく包み込む。  ほら、はやく。今、ちょっと風やんでるし。  顔を上げると、そこにはアケミ

          掌編「カッシアリタ」アケミとリタ

          掌編「カッシアリタ」 逃げて

           本当に久しぶりだねえ。  車いすの膝の上にお盆を乗せながら、マキははしゃいだ声を上げた。  だな。突然悪かったね。  ううん、来てくれて嬉しいよ。ありがとうね、わざわざお土産まで。  マキはお盆からお茶と、おれの買ってきた栗ようかんをテーブルに置いた。安物のせいかようかんは思ったより小さく貧弱で、おれはひそかに肩をすぼめた。こじんまりとしてるけど、きれいに掃除、整理がされたバリアフリーのリビングには似つかわしくなかった。白いカーテンが揺れる窓際には写真立てがあり、枠のなかで

          掌編「カッシアリタ」 逃げて

          掌編「カッシアリタ」 朝の人間観察

           休日の朝の街にはまだ、昨夜の喧騒の余韻が残っていた。  かすかに漂うアルコールの残り香。焼き魚や揚げ物の脂のにおい。道端に転がる煙草の吸い殻や紙くず、ビールの空き缶。例の疫病がとりあえず鳴りをひそめてから、あたしや男の住む街の繁華街も、少しずつだが夜の活気を取り戻していた。  人通りのほとんどない道ばたに、あたしと男は車いすを並べ、ガードレールに背をあずけ、ぼんやりとたたずんでいた。今朝はよく晴れている。右手にある街路樹のけやきが、ほんのわずかだが赤く色づきはじめていた。も

          掌編「カッシアリタ」 朝の人間観察

          掌編「カッシアリタ」 祈り

           膨れに膨れた薬袋を携えて病院から帰った後、くたびれ果て、床に溶けるみたいに眠った。西日に瞼を突き刺さされて目覚めると、部屋にリタの姿はなかった。  トイレにでもいるのか、とドアをノックしたが返事がない。リタの室内用車いすはからっぽ。よくよく見ると外出用の車いすもなくなっている。  携帯に電話してみる。すると近くから耳に馴染んだ曲が流れてきた。  リタが少し前に動画サイトで見つけた「鹿のように」という曲のピアノ・バージョンらしい。リタはすぐこの曲のデータを携帯に落とした。折に

          掌編「カッシアリタ」 祈り

          掌編「カッシアリタ」 死の淵

          ※この記事は投げ銭制です。全文読めます。 ※これまでの話をマガジンにまとめています。よろしければあわせてどうぞ。  今、あたしは男の首を締めつけている。  裸の男に馬乗りになり、両手を首にかけている。指がぎりぎりと頸動脈に食い込む。男の喉からきしついた声が漏れている。苦し気だが、抗う様子は一切ない。両腕はだらりと床に伸びたまま。身じろぎしてあたしを振り落とそうともしない。  どうして、あたしは。  やはり裸のあたしの全身に冷たい汗が浮かんだ。このまま続け

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          掌編「カッシアリタ」 死の淵

          掌編「カッシアリタ」 ふたりだけの最果て

          ※この記事は投げ銭制です。全文読めます。 ※これまでの話をマガジンにまとめました。よろしければあわせてどうぞ。  ラブホテル、行きたい。  あたしがはしゃいだ声をあげると、男は、はあ、と目と口でみっつの丸を作った。  その日、男は仕事から帰ってくると、車いすの背もたれにかけていたリュックから茶封筒を取り出した。なにそれ。たずねると、夏の賞与が出たんだよ、と男は封筒をひらつかせた。  まあたいした額じゃないけど、出ると思ってなかったからな。ラッキーだよ。  すごいじゃん。やっ

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          掌編「カッシアリタ」 ふたりだけの最果て

          掌編「カッシアリタ」 ルチア

          ※本記事は投げ銭制です。全文読めます。 前のお話しです。第4話掲載にあたり、タイトル含め多少改稿しました。一話完結ですのでそれぞれで読めます。よかったら合わせてどうぞ。  あ、きた、きたよ。  リタはそっと、おれの耳にささやいた。  ぼろアパートの玄関先で、おれとリタは昼間から車いすを並べ、缶ビールをあおっていた。  梅雨の最中。連日降っていた雨はあがっていたが、手でしぼったら水滴がしたたるような湿った空気がじっとりと肌にまとわりつく週末。いつまた降り出してもおかしくない

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          掌編「カッシアリタ」 ルチア

          生きることが仕事だから

          先日のGW、この状況下ではあったが少しだけ外に出かけた。 相も変わらず体調が悪い日々が続いていた。いちばん過ごしやすい季節なのに、家にこもって申し訳程度の掃除や洗濯をし、昼はめしと味噌汁、真空パックされた煮魚といったものをもそもそと食べる。その間も二十分のトイレや服薬をしながら。 夕方、相方が仕事から帰ってくると、やはり昼と似たようなおかずで夕めしを、相方の仕事の愚痴に頭半分だけ付き合いながら胃に入れる。夜は一本だけ缶チューハイを飲む。肝機能はずっと正常だったのだが、最近

          生きることが仕事だから

          なんだかんだと、書いている。

          ※この記事は投げ銭制です。全文読めます。  「将来、透析を考えなければならないかもしれないですね」  その日の尿や血液検査の結果をプリントアウトした用紙に、細かい書き込みをしながら主治医は言った。いつもより少し固い声で。  私もそのプリントアウトを見ながら、眉根をぐっと寄せた。腎機能の値が、過去最悪に悪くなっている。貧血も進行している。毎日行っている朝晩の血圧測定の数値も、この数週間はやたら高かった。血圧130を超えたら、なんてCMがかわいく思えるくらいに。  主治医はそ

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          なんだかんだと、書いている。