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狼狽させるものたち

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からだとこころがかき乱されたnote
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かたゆきわたり

かたゆきわたり

冬がやってきました。
ナナちゃんは、お父さんとお母さん、妹のモモちゃんと家族四人で、雪がたくさん降る町で暮らしています。
お父さんのお仕事の都合で引っ越してきたこの町で迎える冬は、今年で三回目です。

毎年冬になると、積もった雪で町中が真っ白になります。
道路には雪の壁が出来て、大きな除雪車がシャンシャンと音を立てて走り回り、あちこちに雪の山を作っていきます。
お家の庭では、お父さんが屋根から落ち

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わだかまり

わだかまり

エピソードエッセイを書くときは、そのエピソードから何かしら感じたことや学んだことを書くものなのだろう。
でも、わたしの頭に強烈に残っていながら、そこからどんな感情も学びも得られないエピソードがあるとしたら、それはもはや、どうやって書けばいいのだろう。

いくら考えても、どんな感情も出てこなかった。
家族には決して話すことのないエピソードを、わたしの記憶から色褪せて消えてしまわないうちに記したい。

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【note感想文】川べりからふたりは|誰かと生きることの意味を知る

【note感想文】川べりからふたりは|誰かと生きることの意味を知る

今朝ひょんなことから…篭田雪江さんの小説『川べりからふたりは』に出会いました。

まだ洗濯も掃除もしていなかったので「少しだけ読んで、続きは後で…」と読み始めたのですがこれが大間違い。途中で止めることが出来ずに全17話を一気に読んでしまいました。

胸に込み上げる感情…
あふれ出る涙と鼻水…

私は鼻をかみながら洗濯を干すことになりました笑。

下半身にハンディを持つ車いすの青年「涼」と、ある秘密

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篭田 雪江さんのnote「大切なひとを心配と思うのは、傲慢でしかないかもしれないけれど」を朗読させていただきました。
ひとを心配と思ったとき、何かそのひとのために行動せずにいられないときがありますが、その行動に正解はないんですよね。だからこそ、自分の中で「あれでよかったのだろうか」といろいろ考えてしまったりして。
心配と思うことがたとえ傲慢だとしても、それで救われている人がいる限りは傲慢でいた

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おかえり。またね。

おかえり。またね。

白い布に包まれた小さな木の箱は、膝に乗せるととても軽かった。
小柄だった祖母は、あの頃よりずっと小さく、軽くなって帰ってきた。

おかえり。
そして、またね。

元気な頃の祖母はお寺参りが趣味で、毎週のように大阪や京都の寺院に参っていた。
出かけるうちにたくさんの友人もできたようで、そのひとたちと連れ立って出かけることが増え、行動範囲がどんどん広がった。
国内の有名なお寺は訪ねつくしたかもしれない

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コンパスで刻んだ呪いと誓いのアイノカケラ

その日の夕食はカレーで、食後には藍色の器にこんもりと盛られたイチゴが出てきた。

ひとつひとつ丁寧にヘタが取られたその赤い宝石は、じゅわっとみずみずしい春の味がした。

口いっぱいにそれをほおばりながら、「家庭訪問のお知らせ」を渡し忘れていることに気がついて二階の自室へと取りに向かう。

階段を三段昇ったところで、母の声がした。

「あんな、大事な話あるねん。」

ーーー来た、と思った。

「家庭

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Let's 炎上 your life

Let's 炎上 your life

元バンドマンのくせに、こんな事を言うと意外に思われるかもしれませんが。昔からピアスやタトゥーというものに強い抵抗がありまして。それは「そんなものを施すなんて、お不良のする事です!」なんて真面目で三つ編みでメガネの学級委員長みたいなスピリッツではなく、また、「親から貰った体になんてことを!」なんて説教じみた理由でもありません。

単純に怖いのです。

痛いのが怖いのです。
痛いのがすごく嫌なのです。

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Baby Don't Cry

Baby Don't Cry

「やっぱり口に合わなかった?」
夕食を半分近く残してしまった僕を見て、君は顔を曇らせた。
「このブロッコリー、かなり柔らかくゆでたつもりなんだけどな」
右手に持っていたスプーンをテーブルに置き、ため息をつく。
「ねえ。私の作るごはん、おいしくないかな?」
途中から涙声に変わり、君は両手で顔を覆ってしまった。

ねえ、泣かないで。
君の料理に不満があるわけじゃないんだ。
今日はちょっと食欲がないだけ

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不確かだから、愛おしい。

不確かだから、愛おしい。

私は今年、39歳になる。この年まで生きてきて思うのは、過去の自分と今の自分は全く違う生き物だということだ。

人は、経験から思考を重ねる生き物だと思う。原体験は人それぞれであり、そこから生まれる思想も人によって様々だ。人は皆、自分にしかない歴史があり、それは必ずしも明るいものばかりではない。誰にも見られたくない種類のものもあれば、今の自分とは真逆の考えに囚われているものだってある。

noteを始

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遺書

遺書

みんな、今までありがとう。

僕なんかには勿体ないくらい、素敵な人生を歩ませてもらった。

本当に、感謝している。みんなが居たから僕はここまで僕らしく生きることができた。こんなに幸せなことはない。

みんながこれを読んでいる今、僕はきっと遠いところに居るだろう。

いや、違うな。
というより、僕が遠いところに行ったら、そのときに改めて読み直して欲しい。

今、世の中は大変なことになっている。増え続

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noteの記事タイトルの付け方について、コピーライターが真面目に考えたら、13の技にたどり着いた。

noteの記事タイトルの付け方について、コピーライターが真面目に考えたら、13の技にたどり着いた。

記事タイトル。
そいつは、今日もどこかで誰かを悩ませている。

一ヶ月かけて綴った渾身の10,000文字も、記事タイトルがイマイチだとあっけなくタイムラインの底なし沼に沈んでしまう。記事タイトルが優れていればスキ数やビュー数が大きく伸びることもある。すべてのnoteは記事タイトルに命運を握られていると言っても過言ではないだろう(敢えて大袈裟に言う)。

noteは、会員登録者者数500万人(202

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もう乾杯はできない

もう乾杯はできない

少し前のこと、祖父が亡くなった。昭和初期に生まれた人だったから、長生きだった。それでも、私が生まれたときからほぼずっと同じ家で暮らしてきて、これほど身近な人が亡くなったのは初めてで、事実としては受け止めつつも、感情としては受け止められない日々を過ごしている。

いつものように日常生活を送れるほどには、事実としてはしっかりと受け止めている。誰かと話すときも、楽しくてたくさん笑う。怒りもする。楽しいこ

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白

「真っ白なものは、汚したくなる」なんてよくある意味深げな言葉に頷いて、潜めた欲望を露わにする。
人間って何て自分勝手なんだろう。
自分の新品な真っ白なシャツに、ランチのカレーを飛ばしたら焦っておしぼりで何とか拭い取ろうとするくせに。

「汚したくなる」なんて欲望を潜められるのは、自分が汚す側だと思っているからだ。
汚される側になったら必死に泣きそうな顔をしておしぼりで拭き取っている。
何やってるの

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用水路の守護霊

用水路の守護霊

 恋人が死んだ。ちょうど一年前の、夏の日だった。

 格子の向こうでは一周忌の法要が始まっている。蝉の声と読経の声が重なる。どうやら近くの木にとまっているらしい。
 首筋を汗が滑り落ちる感触があった。格子の向こうには黒い背中の群れが神妙に頭を垂れている。中には、長袖のジャケットを着ている老人もいる。格子には硝子が嵌まっている様子なのでおそらく中はクーラーが効いているのだろう。昔は本堂にはエアコンは

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