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だから私はきみたちとは遊んでやらない

お盆休みまで、あともうすぐだね。

お盆になると、墓参りの後、父母の家に数少ない親戚が集まって、ささやかな食事会をするのが、毎年の恒例だ。

そこでまた、きみたちとも、会えるな。

私の姪っ子と甥っ子の、きみたちふたり。

姪っ子は小学三年、甥っ子は来年小学生。はやいなあ、ついこないだうまれたばかりだと思ってたのに。

おねえちゃんは最近になって、急におとなびてきたね。こないだ母のメールに添付されてた写真をみてびっくりしたよ。優しい雰囲気が、写真からも伝わってきた。ピンクのメガネも似合ってる。愛嬌ある垂れ目は、もしかしたらばあちゃんに似たのかな。去年はおとなしくおかあさんやばあちゃんのそばに座って、絵本読んでたね。

おとうとくんは、もうやんちゃざかりだな。去年もすごかったね、実家を遊園地にして、ひたすら走り、椅子からとびはね、クッションをたたき、キリンのおもちゃを首根っこつかまえて。ばあちゃんやお母さんがいくら「ごはん食べな」っていっても、ちっとも聞きやしない。でも、いい男なんだよな。おとうさんはきみたちの写真を携帯の待ち受けにしてるけど、同僚にみせるたび「かっこいいね」と言われて、うれしくなってるらしいよ。

また、きみたちと会えるけど。

わかってるよね。いつも通りだから。

私はきみたちとは遊んでやらない。

おとうとくんがそばにきて、おもちゃで遊ぼうといってきても、「じいちゃんと遊びな」と言うよ。おねえちゃんが読んで、と絵本を持ってきても、「トイレ行くからだめ」と、ことわるから。他のひとに、遊んでもらいな。私はただひとり、ビールをおいしく飲んでるだけだから。

去年はみんなで向かいの公園で花火をしてたね。いとこがドラゴン花火をつけたら、大騒ぎしたって?私は知らないよ。ひとりで家に残ってテレビみてたから。きみたちやみんなのはしゃぎ声は聴こえてきたけどね。

ま、もうこんな感じだから、もうきみたちは私のとこには寄ってこなくなったね。多分、どうでもいいひとになりつつあるのかな。

でも、それでいいんだ。

くりかえすけど、私は、きみたちとは遊ばない。避けたりはしないけど、私から近づきはしないんだ、決して。

だって、私がきみたちに笑いかけると、私のいちばん大事なひとが、かなしむから。さびしがるから。

きみたちがきらいなわけじゃない。本当は可愛くてしかたない。自分の血を分けた姪っ子と甥っ子だよ。いとおしいわけがない。いつだか、おとうとくんが私の肩にふれてくれた時の、小さな手のあたたかさを、忘れることはないだろうね。

でも、そうしてきみたちとふれあうたび、笑いあうたび、私の大事なひとのこころが、涙ぐむんだ。ちいさな傷がつくんだよ。

五歳で下半身まひの身体障がいを負い、車いす生活になり、大事なひとがなによりも望んだ子どもをもうけることができなかった私と、それでも共に生きてくれると決意してくれた、私にとって誰よりも大事なひとのこころが。

それは私にとって、なによりもつらいんだよ。

きみたちはこれから、からだもこころも、どんどん大きくなるだろう。そのうち、お盆の食事会にもこなくなるかもね。友達を遊びに行くから、とか、合宿があるから、とか言って。

そして私のことは、年に一度会うかどうの、遠い親戚くらいの存在になるだろう。

でも、それでいいんだよ。私のことなんか、忘れるくらいでいいんだ。

私の大事なひとが悲しむくらいならね。

正直言うとね、お盆は大事なひとの実家にもご飯とお酒をご馳走になりに行くんだけど、その方が楽しいんだ。大事なひとの気楽な笑顔が見られるから。

なんにもしてやれなくて、ごめんな。

本当に悪いと思ってる。きみたちのおとうさんのきょうだいは、本当に最低だね。きらいになってくれてもいいよ。

でもね、ここまでひどいこと言って、信じてなんかもらえないし、信じてもくれないだろうけど。

私は、私たちは、きみたちが大好きなんだ。

きみたちがこれから日々、成長していくのが、きれいになっていくのが、たくましくなっていくのが、本当に楽しみなんだよ。

いったい、どんなおとなになるかな。どんな夢を抱くかな。どこに旅立つかな。おねえちゃんが絵本作家になったり、おとうとくんが体操選手になったり、なんて、想像するだけで、楽しくてしかたない。

苦しいこと、悲しいこと、もちろんあるだろう。もしかしたら、両親に話せないことができるかもしれないね。好きなひとのこととか、もしかしたら、両親と意見があわないとか。

そんなとき、私を思い出してくれたら、なんて、ありえないことをまた想像したりするんだ。

その時は、今みたいに避けたりなんか絶対しない。ひとりのおとなとして、全身で話を聞く。腎臓を悪くして、一日何回も薬を飲むようなひ弱だけど、やれることがあれば全力でやる。助けるよ。

私の大事なひとがおなじようにしてくれるかはわからない。でも、大丈夫だと思うよ。優しいひとだってことは、もう知ってるだろ。だって私とちがって、いっしょに絵本読んだり、走りまわってくれてるものね。私の姪っ子甥っ子だから、気を使ってくれてるのか。いや、ちがうな。たぶん、本当に楽しいんだろうね。

それをみると、ちょっと胸がちくちくする。でもいい、私が少し苦しくなるなんて、なんでもない。大事なひとが傷つくくらいなら。

なんにせよ、今は、私はきみたちとは遊んでやらない。遊んでやれない。

ごめん。ほんと、ごめんね。

でも、もう一度、言わせてほしい。信じてくれなくてもいい、嫌いでもいい。

私は、きみたちが、大好きです。

この夏、またきみたちに会えるのが、いまから楽しみです。

花火ときみたちの歓声を、家のなかから聴くのが、楽しみです。

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